定年退職した「家庭内管理職夫」たちは、なぜ妻をイラつかせる行動をするのか
会社での「過去の栄光」を家に持ち込む迷惑夫が増殖中
団塊の世代が大挙して退職したことを境に社会問題化してるのが1日中、家に居続け、妻の行動に目を光らす夫たち……。「会社では偉い立場だった」という管理職時代の栄光が忘れられず、それを家庭内に持ち込んで、妻を部下か秘書のように扱う「家庭内管理職夫」が現在増殖中!
心理カウンセラーの石原加受子先生のところには、そんな夫から受けるストレスに悲鳴を上げている妻が連日訪れるそう。
「自分が我慢すればいいと無理をした結果、心を病んでしまった人を何人も見てきました」
仕事や子育てが一段落し、ようやく自分の時間が持てるようになったタイミングなのに、そこで夫に対するストレスで心を病むなんてありえない! そうならないための「家庭内管理職夫対処法」を石原先生に聞きました。
なぜ妻は長年連れ添った夫にイライラを募らせるのか……。妻側と夫側それぞれの気持ちから読み解きましょう。
夫ストレスを抱えていてもお金の不安で別れられない
「亭主元気で留守がいい」なんてCMが流行ったこともあったけど、このフレーズに心からうなずく現代の妻たちは多いようです。
「ある女性は、絶えず頭痛がする、食欲が落ちた、朝起きるのがつらく、夜は眠れないなどの症状があり病院に行きました。しかし精密検査をやっても異常が見つからず、一向に原因がわかりません。それで自分でも、何か生活に変化があったのかよくよく考えてみたところ、体調が悪化したのが、夫が定年退職して家にいるようになった時期とぴったり重なっていることに気づきました。つまり彼女は“夫ストレス”が原因で、体調を崩してしまったのです。このエピソードは決して珍しいものではなく、夫が家に居座ることで大きなストレスを抱える妻はたくさんいます」(石原先生、以下同)
家庭内管理職夫に共通しているのが、家で過ごす時間がとにかく長いということ。それまで夫の仕事中は自分のペースで生活できていた妻たちにとっては、ある日を境に急に夫の監視下に置かれるようになったも同然です。
「ちょっと外出するにもいちいち夫に嫌な顔をされることから、出かけられなくなってしまう妻はよくいます。定年退職してすぐの時期に家にいるのはしかたがないとしても、せめてコミュニケーションをとりながら生活したいと思うのは自然なことですが、家庭内管理職夫が相手だとそれも難しいもの。さらに、家事を手伝いもしてもらえずに命令ばかりされる召し使い状態になってしまっては、イライラが募るのも当然です」
ここで、家庭内管理職夫に悩む妻たちの肉声を、ご紹介。
「すぐ感情的になって怒りだし、会話もできない」
「何を考えているのかわからなくて、心がまったく通じ合わない」
「妻が家事をやるのは当たり前という考えで“ありがとう”という言葉を1度も聞いたことがない」
「ゴロゴロ寝てテレビを見てばかりで、まったく手伝いをしない」
「食事は、3食きちんと私が作らないと不機嫌になる」
「私の言葉に対し、“うん”や“そうだね”と共感してくれたことがなく、いつも否定される」
「1日中、悪口や愚痴ばかり言ってくる」
「もうわかり合おうとするのはあきらめた。時折求められるセックスも、お金をもらうための仕事と割り切っている」
……積年の思いも相まって、妻たちの心中はやはり穏やかではいられないようです。
しかし、それでも夫と別れられない妻が多いのには、理由があります。
「夫に大きなストレスを感じていても、経済的な不安から離婚に踏み切れないパターンがかなりの割合を占めていると思います。また、いくら夫が嫌いになっても、ひとりになって将来、孤独死するよりは一緒にいたほうがましと考える人もいます。
そうした気持ちはもちろん理解できるのですが、だからといって我慢を続けた結果、ストレスを抱え健康を害してしまっては、本末転倒です。別れるのが難しいなら、うまく夫を“教育”して、自分にとってストレスのない状態へと変えていく必要があります」
管理職夫は、“怖がり”で自信喪失状態にある
一方で、「家庭内管理職夫」たちは、なぜ妻をイラつかせるような行動をしてしまうのか……。「彼らも悪気があってやっているわけではない」と石原先生は言います。
「現在、退職を迎えた世代の男性社会というのは、勝ち負けの世界です。ゼロか百かというところで勝負し、勝ち上がってきた人が管理職になっていきました。社内での信用を得て自分の居場所を作り、着々とそれを広げてこれまで歩んできたわけです。いわば、会社での肩書こそが自らの価値、自らの居場所を証明する大切な要素のひとつでした。
しかし退職してそれがなくなると、男性は無意識に自分に価値がなくなったように感じてしまいます。いわば自信喪失状態ですね。それを払拭するために、妻を支配しようと高圧的に出たり、今までの地位をなんとか家庭内に持ち込んで家族を部下に置き換え、自分を維持しようとしたりするわけです。“これまで家族のために仕事を頑張ってきたんだから、妻には尽くされて当然”というような考え方も、本質的には自分を認めてほしいという思いからきています」
そんな「自信喪失」の心理に加え、もうひとつ家庭内管理職夫の行動を決定づけている心理があるそう。
「彼らの心理としてもっとも特徴的なのは、“恐れ”です。家庭という自らが知らないフィールドへと入り、家のどこに何が置いてあるかさえわからない手探り状態に置かれたとき、夫たちは本能的に身を守ろうとします。自分で動いて失敗し、妻に醜態をさらすのが怖い。それを隠そうとする結果、妻に対し強く出たり、逆につきまとったりするような行動をとるのです。また、外の世界に対しても恐れを抱き、自分の知らないものには近づきたくありません。だからますます、家にこもるようになります」
妻との関係を勝ち負けでとらえてしまい、負けることに恐れを抱いている……。元管理職のプライドから、妻がいなければ何もできないという現実もうまく受け入れられない……。夫側の気持ちもなかなか複雑なようです。
相手を打ち負かしても夫婦関係は悪化するばかり
日本には昔ながらの美徳として「夫唱婦随」という考え方があります。「夫の言うことに黙って従うことが、家庭円満の秘訣と思っている人は意外に多くいる」と石原先生。しかし、その価値観こそがストレスの原因になっている可能性も……。
「今、家庭内管理職夫に悩まされている世代ではまだまだこうした価値観が根強いですが、そうした人ほど心にダメージが蓄積されやすいといえます。また、夫を立てようとする意識から、知らないうちに夫との間で主従関係ができてしまうのも、妻がストレスを抱える大きな要因のひとつになっていると思います」
夫婦関係が徹底的にこじれてしまい、石原先生のもとへ相談に訪れる人には、ひとつの特徴があるとのこと。夫婦のコミュニケーションが“戦い”になってしまっている場合が多いそうです。
「互いに不信感を抱くような関係になると、どうにかして相手より優位に立ちたい、相手を打ち負かしたいという気持ちから、日常のコミュニケーションもまた戦いになります。そんな関係になったときに、人が無意識に用いるのが、相手にストレスを与える“三種の技法”です。
『でも』とすぐに相手の言うことを覆す。『そうだね』という同意の言葉を決して使わない。『悪かった』と謝ることをしない。コミュニケーションにおいて常にこれらをやり続けると、相手には多大なストレスがかかります。逆に考えると、互いにこうした言動をとることが多いほど、夫婦関係は悪化しているといえます」
理想の夫婦のあり方は家庭によって違うもの
かいがいしく家族のために働き、毎日食事の支度をし、洗濯や掃除をして家をきれいに保ち、子育てを一手に引き受け、夜は夫と同じ布団で眠る。こういったような日本古来の「理想の妻」であることをいまだに求めてくる夫や姑もいるでしょう。
そしてまた、夫との関係においても、いつも夫婦円満で、社会的に見た「理想の夫婦」であらねばならないと思い込んでいる妻もまだまだいるもよう。
一方で、理想を目指してもうまくいかないことから、夫婦なんてこんなもの、自分の人生はこんなもの、とあきらめてしまう人も多くいて、それらすべてがストレスの原因になっていると石原先生は分析します。
「理想にとらわれすぎると、結局は我慢やあきらめを強いられることになります。そして、それらは必ずストレスのもとになります。そもそも、理想の夫婦、理想の妻などというものは“思い込み”にすぎません。なぜなら、夫婦の数だけ関係性があり、お互いが心地よいやり方は違うはずだからです。
特に現代社会では、“夫婦はこうあるべき”といった旧態依然とした結婚観などとっくに崩壊しています。仕事の都合で別居しながら結婚生活を維持したり、結婚後も実家の世話になったりといった夫婦もたくさんいるわけです。社会的な価値観や、他人がどう思うかではなく、まずは自分にとって、夫とのよりよい関係とは何なのか。それを考えることが、家庭内管理職夫と一緒に過ごしていくための最初のステップとなります」
自分の気持ちを認めたうえで自立した関係を築くべき
理想の夫婦、理想の妻という幻に翻弄されないためには、まず自分の正直な気持ちを認めることが大切だそう。
「家庭内管理職夫に対してストレスを抱えている自分がいることを、まず認めましょう。そのうえで、関係を改善していくことは十分にできます。ポイントとなるのは、互いに自立することです」
※関係改善のための具体的な方法は、本日20時に公開する「対策編」でご紹介します。
<教えてくれたひと>
石原加受子先生◎心理カウンセラー。心理相談研究所オールイズワン代表。自分を愛し、解放し、もっと楽に生きることを目指す自分中心心理学を提唱。著書に『「最近、心が休まらない」と思ったとき読む本』(KADOKAWA)など。