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世界には7万5,000種以上ものハチ(Hymenoptera)がいるが、この人為突然変異体(写真右)は、そのなかでも最も恐ろしい外見をしているもののひとつだろう。

この赤い目をしたキョウソヤドリコバチ(寄生バチの一種)は、カリフォルニア大学リヴァーサイド校の研究チームがゲノム編集技術「CRISPR-Cas9」によって生み出したものだ。彼らはこのハチの遺伝子を編集し、その目の色を真っ赤に変えたのだ。

CRISPR-Cas9は、細胞内でのDNAの改変や追加といったゲノム編集を可能にする技術である。現在も開発が続くこの技術をめぐっては、これまで特許に関する法廷闘争なども繰り広げられてきた。

CRISPR-Cas9はブタのDNAを編集し、その臓器をヒトに移植できるようにする研究にも使われている[日本語版記事]。一方、中国ではこの技術を用いて、癌と闘うように編集された免疫細胞をヒトに注入する研究が行われている。

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今回のハチの研究を行った、カリフォルニア大学リヴァーサイド校で昆虫学を研究するオマー・アクバリ准教授はリリースのなかで「わかりやすい遺伝子を標的にすることが狙いでした」と話している。「以前の研究から、目の色に関係する遺伝子をノックアウトすれば、キョウソヤドリコバチの目は赤く変色することがわかっていたので、この遺伝子はちょうどいい標的に思えたのです」

『Nature』のオープンアクセス・ジャーナル「Scientific Reports」に2017年4月19日付けで発表された論文では、研究チームは宿主となるハエの蛹に生み付けられていたハチの卵を集め、Cas9と呼ばれるヌクレアーゼと、標的とするDNA配列を認識させるためのガイドRNA上の配列を利用してDNAを改変したあと、その卵を宿主の体内に戻したと説明されている。そして19日後、この赤い目をしたミュータントが誕生した。この突然変異は、次代にも引き継がれる遺伝性のものだという。

ただし、この遺伝子編集技術は、遺伝子の形成が正しく完了しなかったケースにおいて、一部のハチには死ももたらしたようだ。

論文では以下のように述べられている。「今回の研究結果は、CRISPR-Cas9がキョウソヤドリコバチのゲノム編集における強力なツールであることを示しています。この技術は
、より重要な遺伝子に対しても遺伝子操作を行えるポテンシャルをもっており、このハチの生物学的現象の研究に飛躍をもたらすかもしれないのです」

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