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入籍前に彼から暴力を振るわれ、婚約破棄したい。慰謝料はどのくらい請求できる?Yomiuri Onlineの人気コーナー「発言小町」に、そんな相談が寄せられました。

相談を投稿したトピ主は、昨年8月に結婚式を挙げ、記念日に婚姻届を提出しようとしていたそうです。しかし、婚姻届提出直前に相手の男性から暴力を振るわれ、同棲していた家を出て実家に戻ることに。以前から男性にはモラハラ的な発言やDV要素があったらしく、「今回の出来事で目が覚めて、もう一緒にいれないと思いました」とトピ主は語ります。

トピ主は男性と今すぐ縁を切り、婚約破棄とDVの慰謝料を男性に請求したいと考えています。DVで負った怪我などの診断書はありませんが、「レコーダーにて顔を叩かれたのを認めさせたこと、私に暴言している録音」は証拠として確保しているそうです。

相手男性のDVを理由として婚約破棄する場合、慰謝料はどのくらい請求できるのでしょうか。婚約破棄する場合には、申し出た側が支払うことになるのでしょうか。吉田雄大弁護士に聞きました。

(この質問は、発言小町に寄せられた投稿をもとに、大手小町編集部と弁護士ドットコムライフ編集部が再構成したものです。トピ「婚約破棄慰謝料について」はこちら

(http://komachi.yomiuri.co.jp/t/2016/1211/787676.htm?g=15)

 ●「語られなかった」事実が何であるか?

ご質問をお答えする前に、今回の相談を読んで、弁護士としてどう考えたのかお伝えしたいと思います。

Web上でこのようなご質問をいただくことはしばしばあります。弁護士の立場から何より意識することは、ご本人が「語られなかった」事実の中に、どのくらい重要な問題が潜んでいるかということです。

トピ主さんにも、「語られなかった」事実があるのではないでしょうか。たとえば、「8月に結婚式をして、記念日の9月末に籍を入れようとしていました。しかし、籍を入れる前に彼からの暴力があり、同棲していた家をでて実家に戻りました。」とあります。

彼からの暴力は8月から9月の間が初めてだったのでしょうか。直接的な身体に対する攻撃でなくとも、物に当たるとか大声で威圧するとか、暴力的な言動はあったのではないでしょうか。

また、「前々からモラハラ的発言や、DV要素がありました」という表現も気になります。

この一文を読むかぎり、同居生活の中で身体的暴力だけでなく、精神的暴力や性的暴力、経済的暴力といったドメスティックバイオレンスがある程度あったと理解するのが自然ではないでしょうか。

 ●「損害がどの範囲で認められるかを考えることになります」

次に、トピ主さんが請求できる損害について考えていきますと、基本的な考え方としては、関係解消を余儀なくされた原因となる行為、つまり彼の暴力と相当因果関係が認められる範囲で、財産的損害と精神的損害(慰謝料)の両方を請求していくことになるでしょう。

挙式前から同棲していたわけですから、どういったものが財産的損害として生じているかについては、詳しく伺わないとわかりませんが、たとえば新居を契約していたとか家具を新調した等の事情があれば、こうしたものの金額を計上していくことになるでしょう。

他方、たとえば結婚式費用の全部または一部を負担しておられたとして、そこまで返還を求めていくことができるかどうかは、慎重に判断する必要がありそうです。

というのも、ドメスティックバイオレンスの事実は、慰謝料の面では基本的に、被害の蓄積によって関係解消を余儀なくされたという考え方が成り立つでしょうが、こと結婚式費用の側面では、そうした相手であることを承知の上で式を挙げたのではないかという反論が予想されるからです。

次に、精神的苦痛に対する慰謝料については、関係解消の理由や時期などが重視されるほか、一般には年齢や性別、社会的地位などに加え、婚約期間の長短、同棲していた場合には期間の長短、性交渉や妊娠の有無、さらには過去の妊娠中絶の有無など、あらゆる事情が考慮されますので、なかなか一般化することは難しいです。

離婚との対比でみれば、戸籍に変動がないという点では解消による落差は小さいともいえるかもしれませんが、結婚式も挙げており周囲からは法律上の結婚と同視されているという点も重要なポイントといえるでしょう。

なお、「関係解消」と記載した部分については、これを「婚約破棄」と構成するか、あるいは「内縁解消」と構成するかの違いはありますが、あまり実益のある議論とはいえません。いずれにしても、不法行為(民法709条)にいう「損害」がどの範囲で認められるかという点のみを考えれば十分だからです。

このような整理の上でお答えしますと、仮に「勝手に婚約破棄したのはそっちだ!」として男性側から慰謝料請求されたとしても、それは法的には全く根拠のない主張であることがわかると思います。

こうした主張をされる当事者は常にいますし、損害賠償請求を受ける側の弁解としてはありふれたものですが、何より関係解消に至った理由がポイントとなります。男性のドメスティックバイオレンスによって関係を解消せざるを得なくなったという、本筋の部分をしっかりと主張してください。



【取材協力弁護士】
吉田 雄大(よしだ・たけひろ)弁護士
2000年弁護士登録、京都弁護士会所属。同弁護士会子どもの権利委員会委員長等を経て、2012年度同会副会長。このほか、日弁連貧困問題対策本部事務局員など。
事務所名:あかね法律事務所
事務所URL:http://www.akanelawoffice.jp/