コンサル業界は働き方改革をできるのか/日沖 博道
安倍政権が構造改革の柱として採り上げている「働き方改革」は産業界のホットテーマだ。とりわけ「長時間労働の是正」というのが喫緊の課題であり、学生らの就職先の選択においても大きな要素となっているだろう。
そんな中、小生が注目しているのがコンサルティング業界である(我社もその一員だが)。我々が就職した数十年前と違って今や人気業界の一角とまで言われることがあるそうだが、この四半世紀の実態はかなりの「長時間労働」業界だった。3Kで有名なSI業界からの転身組が多いせいか、実態も似てきたのである(むしろ最近はSI業界のほうが働き方改革を進めている傾向がある)。
そんな「長時間労働」業界でも就職または転職における人気が高まったのは、ひとえに給与水準が高く、任せてもらえる仕事の内容(クライアント企業の経営事項に関わるなど)が面白いことに尽きよう。しかしそうした就職・転職人気にあぐらを掻いて長時間労働の是正に背を向けていては、いずれは大きなしっぺ返しを食らいかねない。新入社員の自殺問題で電通がクローズアップされたのにもそうした側面があろう。
ちなみに小生が昔いた頃のアーサー・D・リトルという戦略コンサル会社は例外的存在だったため、当時もその後も、他の外資戦略系コンサル会社にいる人達と互いの実態話をすると結構呆れられることが多かった。「ウチではその倍は働いている」とか「タクシー&御前様でない日を数えたほうが早いよ」とかいうコメントが多かったので、他社はその頃から長時間労働だったと思われる。
それでも、戦略系よりずっと図体の大きい「会計系」とか「総合」が付く大手コンサル会社の人たちに話を聞くと、さらに輪を掛けた「長時間労働」の実態にこちらが唖然とすることが多かった。
実際、それで体を壊したり精神を病んでしまったりする人が毎年数%いるという話を幾人からも平気で聞かされたものである。その場にいた某社での先輩・後輩の関係の人たちが「あの頃はアパートには寝に帰っているだけでしたよ」などと懐かしそうに振り返るのには、「こいつらマゾか」と思ったものだ。
体や精神を病む人が一定数存在することに関し小生が「それはおかしくないの?」と問いかけると、某有名コンサル会社の若手幹部役員は平然と「ある程度の病人を抱えるのは仕方ないですね。僕らパートナークラスが仕事を取ってきて、若手に馬車馬のように働いてもらう。これがこの業界のビジネスモデルですよ。今さら何ですか」と答えてくれたものだ。
今、日本社会のあちこちで長時間労働の是正が叫ばれている中、彼らは業界の「ビジネスモデル」や「従来の常識」を変えることができるのだろうか。役員がこうした「従来の常識」に囚われている限り、若手が「長時間労働」を避ける術は限られているだろう。この業界に期待して入ってきた前途有望な若者が体や精神を病むだけでなく、いつか自殺騒ぎが生じるような事態を懸念せざるを得ない。
そもそもコンサルティングのようなサービス業界で「長時間労働」が常態化するというのは、1)無闇な安売りをしているために従業員の人件費をダンピングさせないと足が出てしまうか、2)そもそも仕事量に見合ったスタッフを用意していないか、3)仕事の計画性がなくて無駄なことをたっぷりさせているか、の掛け合わせであるのが普通だ。
しかし大手コンサル会社でまともに経営しているところで1)と2)の要素が大きいとは考えにくいため、一番致命的な要素は3)の計画性の問題だと言えそうだ。つまりクライアント企業からはそれなりに大きな金額でプロジェクトを受注しておきながら無駄な作業に時間を費やしてしまい、途中から挽回のためにプロジェクトメンバーに残業を強要しているという構図だ。
本来、コンサルティングの仕事というのは、最初に「イシュー分析」(戦略系のマネジャー以上の経験者なら常識だろうが、SIが中心の総合系や総研系でも教えているのかは知らない)というものをきちんとしてプロジェクトを計画し、それに沿ってクライアントから予算をいただいておけば、長時間労働などに頼らなくともリーズナブルな時間とコストで完遂できるものだ。むしろ長時間労働で切り抜けようなどとしている時点で、そのプロジェクトの品質は警戒レベルに落ちていると知るべきだ。
そしてクライアントの責任も皆無ではない。きちんとした予算を付けたはずなのに責任者があまり現場に顔を出さず、マネジャー以下が睡眠不足の青い顔でため息をついているようなら黄信号だ。そんなやり方を続けていては、いずれミスが生じるか迷走しかねないし、よいアイディアも生まれない。即刻、コンサル会社の責任者に警告を出すべきだ。