2016年アパレル業界を振り返って/井上 和則
かつてアパレル業界のメインプレイヤーであった大手アパレルのオンワードホールディング、三陽商会、TSIホールディングス、ワールドなどが軒並み減益となり、そのメイン販売先である百貨店も外国人観光客をあてにしていたインバウンド売上も頭打ちとなり苦しい戦いをしている。
振り返れば、夏前に経済産業省は、アパレル・サプライチェーン研究会の報告書の公開と同時にアパレル業界の非合理な商習慣、商品開発力の低下やバーゲンの悪循環などのアパレル業界の諸問題を指摘していた。
業界内にいる多くの者にとっては何年も前から感じ、問題意識も持っていた事だと思うがいわば ”茹でガエル現象” に陥っていた部分もあるだろう。外部の人達によって声高らかに言われてやっとその違和感を再認識させられた人も多いかもしれない。
秋には、週刊「日経ビジネス」で ”買いたい服がない” の特集記事が組まれ、業界以外、消費者の人々にもアパレル業界の実態が広く認識されるに至った。
振り返れば、戦後、欧米文化が急速に日本に入ってくる中で「洋服」はまさに加速度的に市場を席巻し、「ファッション」というモダンでお洒落な言葉の響きと共にアパレル企業も多く出現し、成長した。
そして失われた20年の中、デフレ傾向、海外SPA企業の参入の流れの中で又、ショッピングセンター、駅ビル、郊外店等を主販路とするチェーン小売企業の台頭により、ますます百貨店を主販路とする百貨店価格帯のアパレル企業は苦戦を強いられていく。
少し強引な表現をすれば、ショッヒングセンター等でチェーン展開するアパレル商品群は純ファッションアイテムというよりも、生活シーンでの実用衣料に必要なファッション性を装備したアイテム、価格帯の商品群であるともいえるのではないだろうか。
それらの商品や専門店商品が百貨店価格の商品市場を食っていったのである。言葉を変えていうとそれらの服がシーンを満たすファッション性が装備され始めたのである。実態はハイエンドや高級ファッション服のコピー的な部分もあるかもしれない。
そしてもう一つ、一般の人が持つ「ファッション」という言葉のイメージとは少しかけ離れ、アパレル経営の多くは戦後の成長期を経験したシニア男性主導によってなされている。そういう構造が今日まで続いてきているのがアパレル業界の姿だったともいえる。それが変化の構造の中で今、思考においても壁に突き当たっている。
その姿を政府機関、メデイア媒体が大きく取り上げた年だったのだ。
これらの課題解決策は、既に有識者などによって色々と論じ始めている。ここでも書き始めると年が越えそうなので詳細は2017年に入ってから個々に取り上げて論じていくことにしたい。
ポジティブな事として業界への厳しい意見と同時に、大手アパレルの経営者もかなり若返った。来年以降に向けて、過去の商売形態にとらわれない新しいモデルや、やり方で企業活性化を図っていかれる事を期待したい。そして自分も業界の一員として変革に向けたお手伝いが出来ればとの思いで2016年を締めくくる事とする。