ゴールドマン・サックスはLGBTの学生向けに「キャリア・メンタリング・セッション」と呼ぶ模擬面接ワークショップを開催し、会社のLGBTポリシーを直接伝えている。

 日本IBMは1月から同性パートナーの存在を会社に登録し、有給休暇や育児・介護休職、慶弔見舞金や転勤先への赴任旅費などの制度を利用できるようにし、職場の意識啓発活動も展開している。 性的少数者が働きやすい環境を整備するには処遇や社内規程の見直しなど制度整備も必要であるが、何より重要なのがLGBTに対する偏見をなくし、職場の理解と啓発を促す活動だ。

 例えば2015年10月に発足したジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)日本法人の「オープン&アウト」もその一つだ。

 J&Jグループには社員のダイバーシティの自主的な取り組みを会社が応援する仕組みがあり、LGBTの理解促進を目指し、草の根的活動を展開するグループがオープン&アウトだ。

 LGBTコミュニティにとってフレンドリーで働きがいのある企業を目指し、才能ある人材の採用と育成、LGBTに対するより良い製品やサービスの提供、社内外のコミュニティに対する影響など4つのミッションを掲げている。 すでに米国とカナダに創設され、米国では支援者を含む約600人のメンバーが活動を展開している。

 日本のオープン&アウトは世界で3番目。日本の代表を務めるのが自身もゲイである人事部の田口周平氏だ。

 「来日した米国のダイバーシティ担当のエグゼクティブに、社内でゲイだと打ち明けるのは難しいと相談したときにオープン&アウトの存在を知ったのがきっかけ。米国で活動するグループから情報をもらいながら、友人から日本にも複数のLGBTの社員がいることを聞き、ネットワークを作った。その中で『日本でも何かしたいね』という話になり、オープン&アウトを立ち上げるために各カンパニーの社長会に提案し、承認されてスタートすることになった」と話す。 承認されると経営陣の一人がスポンサーとなり、活動予算もつく。社長が全社員に発足を周知するメールを発信。3月には米国のオープン&アウトのスポンサーの役員が来日し、日本での活動を激励した。

 4月には本社の役員を含む100人以上を対象にLGBTに関する基礎知識や他社の先進的取り組みを紹介するカンファレンスを開催した。

 「私たちとしては単なる感情論ではなく、客観的データを使ってLGBTを理解すること、会社がLGBTフレンドリー企業として名乗りを上げることがいろんなところに良い影響を与えることに注力した。参加したアジアパシフィックのリーダーからも『我々がLGBTをサポートすることで気持ちが楽になり、救われる人がたくさんいる』という力強いメッセージをいただいた。結果として活発な意見も出るなど社員の評価も高かった」(田口氏) オープン&アウトというコミュニティを立ち上げたことにより、今までは孤立していたLGBTの社員や支援者から一緒に活動したいと名乗りを上げる人も増えた。

 発足当初のメンバーは6〜7人だったが、今では社員のサポーターを含めて47人に増え、5月の連休に東京・代々木公園で開催されたLGBTの最大級のイベントに公式スポンサーとして参加した。 田口氏は活動の意義について「女性のダイバーシティにも取り組んでいるが、LGBTの人たちを色眼鏡で見たりするような無意識の偏見をどうすれば取り除けるのかを非常に重要な取り組みとして考えている。LGBTは目に見えないマイノリティとして存在しているために本人がカミングアウトしないと認知されない。誰かが勇気を出してカミングアウトしようと考えたときに、この人だったら言えると思えるようなフレンドリーな職場の雰囲気を醸成できるように働きかけていくことが私たちの役割だ」と強調する。

 今後の活動の方向性について「今の活動は本社ベースだが、3分の2の社員が営業職も含めて本社以外の地方で勤務している。理解が進みにくい地方にどのようにして広めていくのかが今後の課題。理解を深める活動を全国に展開していきたい」と語る。 性的少数者を受け入れる職場を醸成していくにはトップのリーダーシップも大事だが、それだけでは変わらない。

 社員一人一人の理解を広めていくには意識啓発のための自主的な勉強会やJ&Jのような自主的なコミュニティによる取り組みを草の根的にやっていくことが極めて重要だろう。

 日本企業は女性を中心とするダイバーシティに積極的に取り組んでいるが、LGBTに関しても制度の見直しと意識啓発活動の両面から取り組んでいくことを期待したい。