ドラマティックな勝利というものは、観ている者を感情の奔流へ誘うものだ。

 9月6日のイラク戦で、日本は90+5分のゴールで2対1と勝利した。敗戦にも等しいドローを免れたことで、埼玉スタジアムは爆発的な歓喜に包まれた。

 チームの士気は高まるだろう。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督と選手たちは、停滞ムードを払拭するきっかけをつかむことができた。本田圭佑、香川真司長友佑都、岡崎慎司らがピッチに立っていない時間帯の決勝弾は、新たな可能性を拡げる糸口にもなるに違いない。
 
 イラク戦を客観視すると、違った現実に気づく。

 埼玉スタジアムへやってきた対戦相手は、9月の2試合でオーストラリアとサウジアラビアに連敗している。そのイラクを、ホームに迎えた一戦である。グループ2位以内でロシアW杯へ出場するには、確実に勝点3をつかまなければいけない。勝利は絶対的にして最低限のノルマだったのである。

 非公開練習というカーテンの向こう側で、ハリルホジッチ監督はどんな練習をしていたのだろう?
 
 攻撃はタテパスに寄りかかり、コンビネーションが発揮された場面は数えるほどだった。原口の先制点が日本らしい連携から生まれたのは、指揮官への痛烈な皮肉だった。

 タテパスが悪いというつもりはない。ピッチに立っている選手の特徴を、引き出すことができていないのが問題なのだ。スピード溢れるタイプでなく、背後へ抜け出す動きに優れるわけでもない本田圭佑に、DFとフリーランニングの競争をさせることにどれほどの意味があったのか。ハリルホジッチ監督が中盤でボールを引っ掛けられることを恐れ、中長距離のパスを指示しているとしか思えなかった。

 守備は狙いが不明瞭だった。球際では戦っているものの、相手をハメこんだ場面は意外なほど少ない。

 60分の失点は、酒井高徳が空中戦に競り負けたことが直接的な原因である。背番号21を着けたアブドゥルアミールとのマッチアップで、酒井高は前半開始早々にもヘディングシュートを許している。

 触れるべきプレーが、もうひとつある。イラクに許したゴールは、日本の右サイドでの直接FKからだった。ファウルを冒したのは、酒井宏樹だった。

 攻撃のサポートで敵陣へ飛び出していた酒井宏は、自陣へ戻りながら相手に足をかけて反則を取られた。だが、ボールホルダーには長谷部誠が距離を詰めつつあった。カウンターを許す気配はない。ファウルで止めなければいけない場面ではなかったのである。

 ハリルホジッチ監督は、選手たちにドゥエルを求める。しかし、激しいプレーや泥臭いプレーによるファウルと、判断ミスや慌てた末のファウルはまったくの別物だ。このあたりの認識が、日本はごちゃまぜになっている。イラク戦の酒井宏だけでなく、最終予選のどの試合でも見受けられる。

 イラク戦のゲームを継続していけば、11日のオーストラリアにも勝てるのか。11月にホームで対戦するサウジアラビアを下せるのか。どちらも大きな疑問符がつく。ドラマティックな展開となったことを問題視すべきで、未来を明るく照らす勝利ではない。