世界に広がる「スマートスタジアム」、その効用と可能性を日本は2020年までに最大化できるか
スマートスタジアムの効用と可能性
モンスタートラックラリー(カーレース)とテイラー・スウィフトのコンサートにはどんな違いがあるだろうか?
たとえば、水。モンスタートラックラリーをおこなうためには数千立方メートルの泥が必要であり、さらにいうとその100~1000倍のガロン数の水が必要だ。また、異なるジャンルだが、同じように言えばテイラー・スウィフトのヒット曲を盛り上げるために使われる、派手なステージングや照明を支える電力は電気代の異様な高騰を招くこともある。
イベント運営のために莫大なエネルギーを必要とするスタジアムだが、予測分析とセンサーでもってコストやエネルギー消費を管理し、訪れるファンたちの体験をも変えることができるような取り組みがある。それが、「スマートスタジアム」事業だ。この事業は、コスト削減や新たな顧客体験創出だけでなく、正確な数字でイベントプロモータに請求書を送るためにも推進されている。
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スタジアムは非常に管理が難しい設備だ。客の入りについても、さっきまで数えるほどの人しかいなかったのに数分で10万人が押し寄せたり、その数時間後にまたガラガラになったりすることはザラだ。しかも彼らは、交通渋滞や周りの住民や観客と衝突することもある。そして、スタジアム自体が街のどの建物よりも電気やガスを多く消費しているのだ。誰もスーパーボールのときに起きた大規模停電を二度と繰り返したくはないだろう。
しかし、それと同時にスタジアムは市民の「誇り」の象徴でもある。IoTはこういった市民からの評価のギャップを埋め、無駄な衝突を減らすことができる。
たとえば、シアトル・マリナーズはIoTを活用することで、3年間で水の消費を10%、あるいは200ガロン節約することに成功した。IoT技術によって、スタジアムの水漏れをピンポイントで見つけることができたためだ。(さらに、屋根の開閉にかかる費用がたったの5ドルだというのもこの試みでわかった。)
サンディエゴ・パドレスは、電力および水の消費を改善するため、LEDライトやスマートセンサー、データ管理システムをスタジアムに導入した。典型的な試合での電力消費は70MWh、ガスの消費は740セーム、水の消費は72万ガロンにもなるという。今後、IoTを通じて25%以上のコスト削減が期待されている。
スマートスタジアムが街と暮らしに与える影響
ただのスタジアムをスマートスタジアムにする、その効能は電力や水の節約などに留まらない。
都心に住む人たちが増えていくなか、大きな問題の1つとなっているのは「騒音」である。夜に大きな盛り上がりを見せることの多いスタジアムは、言わずもがなその対応に迫られているが、IoTを導入することによって飛躍的に改善が図れるだろう。これまで人の手や目では捉えきれなかった課題は、IoT技術のおかげで客観的観点でモニター、管理できるようになる。
では、セキュリティや安全面ではどうだろう? あるスタジアムに導入されたIoT設備は、試合後たまたま放置されていたホットドッグを作る機械が起こしたボヤを検知することができた。駐車場やその周りの道に設けられたスマートカメラは、イベントに伴う犯罪や暴力沙汰を抑制するために標準的なものとなることだろう。
ビール待ち行列で空いている所がすぐに見つかれば、交通予測や公共交通の選択肢を鑑みて目的地への最適ルートがわかればどうだろうか? ちなみに、アメリカンフットボール NFLのリーバイス・スタジアムでは、スタジアム専用のアプリを開くと座席までの最短ルートやトイレの空き状況などがわかる。さらに、専用のカメラで撮影した試合のリプレイ映像も見ることができるのだ。
これらはまだ始まりに過ぎない。World Stadiumsによれば、世界中には12,216ものスタジアムがあり、大都市や市場が開拓される国々でその数を増やしているという。途上国と呼ばれる国においては、水は大変希少なものであり電力網は頼りなく、交通事情はひどい。先進国と呼ばれる国にあるスタジアムについては、建てられたばかりの新築もあれば1920年代に立てられたものもあり、ばらつきが気になるところだ。
こういった状況で、スタジアムは「IoTが何を成し得るか」を示すショーケースとなるだろう。
Jリーグ主導の「スマートスタジアム」計画は実現するか
さて、日本でもJリーグを中心としてスマートスタジアム事業に注力しようという動きが出始めている。
これまでずっと資金繰りに苦しんできたJリーグは、NTTなど大手企業の資金面での助けを借りて今年やっとの想いで大きな一歩を踏み出すことができた。マネタイズに苦しむJリーグをスマートスタジアムは救えるのだろうか。そして、彼らはどうにか出来るのだろうか。これまで述べてきたように、IoTを導入することで得られる便益はたしかに“すごい”が、彼らが日本においてやらなければいけないことはIoT導入の“先”にある。
また、スマートスタジアムと聞いて浮かぶのは、2020年の東京五輪に向けての動きだろう。Jリーグが現在大宮で試みていることは、2020年には確立された日本らしく細かな気配りの行き届いた(多少行き過ぎの機能も付いているかもしれないが)システムに成長し、大きく変化したスポーツ観戦の新スタイルを世界に発信しているはずだ。
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スマートスタジアム事業は、うまくシステムを築き上げることができれば、今後その潜在的ニーズや規模感なども含め大きな金なる木となるだろう。最先端は例にも多く出した米国であるが、私は、日本流のスマートスタジアム事業がいずれ世界に羽ばたくことを期待している。
ReadWrite[日本版] 編集部
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