県立宜野湾高等学校(沖縄)
昨年は秋季県大会で優勝した八重山に敗れたもののベスト16入り。冬を越えて迎えた春の県大会では、同校にとって大会21年ぶりとなるベスト8進出を果たした宜野湾。順調に階段を上ってきた彼らの、ここまでの成長ぶりに迫ってみた。
「バントはこうやってやるんだよ」「うちの選手は、中学で、正規のレギュラーと呼べる子はほとんどいないですよ」と、宜野湾高校の監督を務める照屋 拓己先生は語った。前チームの主戦であった野原 陽介らのメンバーは、中学でもバリバリやってきた選手達が多く、バントやエンドランなどお手の物。各々のセンスが、そこらじゅうに散りばめられているかのようでもあった。
それに比べて現ナインたちは「彼らが一年生の頃の話ですが、まぁ9回まで試合出来るかな?」(照屋監督)というレベルからのスタート。例えばバントがどうしても出来ない。見かねた先輩たちが「バントはこうやってやるんだよ」と、いとも簡単にやってみせたが、今の選手たちはなかなかできない。
一歩、一歩前進金城 龍樹選手(県立宜野湾高等学校)
一昨年の秋。宜野湾は県大会を制し九州大会出場を果たした中部商と、遠征していないベンチ外のメンバーと練習試合で対戦した。遠征していないメンバーとはいえ、過去甲子園に2度出場している強豪校に集うのは、やはり中学でもレギュラーを張ってきたメンバーが多いが、見事に練習試合に勝利した。そこで選手たちは自信が芽生えてきた。
不器用な選手が、器用な選手になるのは難しい。自分たちが出来ることをコツコツしていこうと声を掛ける日々が続いたが、彼らはそれに真摯に取り組んでいった。昨年夏の第97回全国高等学校野球選手権沖縄大会の初戦、美里工と対戦した宜野湾は10対12の乱打戦の末に敗れたが、9番センターで先発出場したのが金城 龍樹だった。
2点差に追い上げられた5回裏には、二死満塁からレフトへの2点タイムリー二塁打を放つなど2安打2打点と確かな足跡を残す。一年生のときから強烈なリーダーシップを発揮してきた金城は、新チームでも主将として歩み出す。彼の成長がそのまま、このチームの成長へと繋がっていく新たな一歩目だった。
[page_break:冬トレの間で習得した心のコントロール]冬トレの間で習得した心のコントロール與那覇 尋也投手(県立宜野湾高等学校)
迎えた秋、宜野湾は宮古工、知念を撃破。優勝した八重山に敗れたものの、ベスト16入りを果たす。不器用な魂しか持っていなかったナインは着実に、武器として用いるための技術を身につけつつあったが、本物には程遠いことを知っていた照屋監督は次のようにナインを諭した。「上手くいかないのが野球なんだよ。僕らは、それを強引に勝利に結びつける力もない。上手くいかないのを自分たちでどうやって上手くいくように組み立てていくかというのを、この冬の課題にしような」
子供たちは上手くなりたくて練習している。でも、上手くいかないのが野球なんだよということを、徐々に理解させていった。目の前の良い成果(ヒット、長打、得点など)に一喜していても、悪い成果(牽制死や犠打失敗など)に一憂してしまえば、力のある相手と対戦したときに飲み込まれてしまう。
冬トレで1000本素振りをダラダラとするよりも、半分でもいいから500スイングを手抜きせずにやります!と照屋監督と約束しクリアしていったナイン。そういった心をコントロールした成果が春の県大会で随所に出ていくのだった。
野球は上手くいかない!それが出た首里戦「たった2人の打者で同点になってしまったのが首里戦でしたが...」と、照屋監督は春季県大会の初戦を振り返った。初回に幸先良く3点を奪った宜野湾。投げてはサウスポー比嘉 亮太が7回まで僅か2安打に抑える力投を見せる。ところが8回表、予期せぬハプニングが宜野湾を襲った。比嘉が二者連続ヒットを浴びるも三振、セカンドフライと粘り二死二、三塁の場面。ここで相手打者の打球はショートとセンターの間に上がる。
「普通なら、僕でも安里でも捕れている打球でした。でも、向こうの声援の大きさに声が届かなかったのです」と、センターを守っていた金城が語った。セカンドの安里 昇之助も金城も互いに声を掛けていたが、その声がかき消されてしまったのだ。結果、物凄い勢いでぶつかってしまった2人は倒れ込んでしまう(両者7針を縫う大怪我)。
その間に二者が生還した首里は、次打者のレフト前へのタイムリーで同点に追い付いた。「こっちは主将と内野の要がケガで退場。さらにツーアウトからたった2人で追い付かれた。普通なら落ち込んでいるところだけど、あれ、こいつら全然変わらない(落ち込んだような雰囲気を出していない)なと。これはいけるなと思いました」(照屋監督)
[page_break:沖縄尚学戦で得た次の課題]まさに上手くいかないことの象徴が、勝利を確信しつつあった終盤に出た試合だったが、逆転を許さなかった宜野湾は、延長戦にもつれ込みサヨナラ勝ちを収めた。「心のコントロールが試合を制する」ということを身をもって体験したナインたちは、本部戦で逆転を許しても慌てない。終盤のワンチャンスで4点を奪って勝利すると、中盤を終えて2安打のままだった3回戦の読谷戦でも、同じく終盤に4点を返す逆転勝ちを収めて、同校21年ぶりの春ベスト8を勝ち取ったのだった。
沖縄尚学戦で得た次の課題比嘉 亮太投手(県立宜野湾高等学校)
諸見里(沖縄尚学)は別格でしたね、と照屋監督。0対9の7回コールドで敗退し、打線も僅か3安打で何もすることが出来ず終わってしまったが、上で対戦する高校はレベルが違うということを、選手たちが改めて知ったことは収穫だった。
比嘉:勝負の厳しさを思い知らされました。首里:自分たちの甘さが出た試合でした。金城:内と外に来る厳しい球に、対処していける技術を得なければいけないと感じました。
打てるコースに来た甘い球を見逃さず捉えることは出来ている。それが秋春での成果だ。しかしその一方で、八重山戦、沖縄尚学戦とさらにレベルが上のチームのエース級とも対戦した時、いつか打てる球がくるだろうという思いがあったことが自分たちの甘さだと知らされた。自制心を得たはずの自分たちの武器が通用しない厳しさを知った。そのことを肌で実感できるのも、試合の中のみだ。秋春と上り調子のまま最後の夏を迎えていたならば、もしかするとレベルを上げてきたライバルたちの前に屈していたかもしれない。
しかし幸いだったのかもしれない。春の準々決勝で、自分たちには無いはずだと思っていた「甘さ」が、まだあったことに気がつくことができた。厳しいコースに来た球もヒットゾーンに運ぶという、もう一歩踏み込んだ練習に加え、心を強くする「ぶれない姿勢」をさらに求めていく。
「成長したオレたちに、もうそんなこと(練習や心構え)は必要ない」という驕りの心は、元々不器用だった彼らには毛頭ない。不器用であっても、練習に真摯に打ち込むことで、武器となっていく。
「打撃陣が投手陣を助ける。勝ち進んでいっても緩みがでないように。それが僕らのベストパフォーマンスを生む」(首里 竜佑)そのような夏にする!不器用魂を真の武器用魂へと昇華させてみせる!宜野湾ナインの挑戦は、まだ始まったばかりだ。
(取材・文/當山 雅通)
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