大分vs秀岳館
4打点の活躍を見せた廣部就平(秀岳館)
熊本地震の影響で、秀岳館は実戦0で臨んだ。確かにブランクがあった。鍛治舎巧監督も、「バッテリーの呼吸など何か違うところがあった」と振り返るように、本来の秀岳館ではなかったかもしれない。
だが今回に限っていえば、延長13回サヨナラ勝ちを収めた大分の野球が見事だった。あまり知られていない大分の野球スタイル、逸材たちについて紹介していきたい。
先制したのは秀岳館だった。4番九鬼 隆平(3年)が痛烈な二塁打を放ち、天本 昂佑(3年)の四球で無死一、二塁のチャンスを作ると、6番廣部 就平(3年)の3ランで3点を先制する。だが大分ナインに怯む様子は見られなかった。
立ち上がりからどんどんと攻め込んでいき、1、2回にはランナーを三塁まで進め、3回裏には二死満塁から6番小川龍太郎(3年)の適時打、さらに5回裏には1番束野克実(3年)が安打で出塁し、走者を進め、二死三塁から4番山下海星(3年)の適時打で3対2と1点差に迫る。
3回途中から登板したエース・有村 大誠(3年)の速球にもしっかりとくらいついていったのである。その後、有村がストレートと変化球を自在に投げ分ける投球で、7、8回は三者凡退。8回表には廣部の適時打を浴びて、2対4と点差を広げられるなど、劣勢のまま試合が動き、9回裏、一死を取られてからだった。大分はここで代打・梶原嘉希(3年)が二塁打を放ち、チャンスを作ると、二死二塁で追い込まれたが1番束野がストレートを捉えて右中間を破る適時三塁打で1点差に迫ると、2番三浦拓人(2年)が適時打を放ち、土壇場で追いつくのだ。
その後、なかなか決勝点が出ずに、試合はタイブレークに(無死一、二塁から)。延長13回裏、勝負強い三浦をチャンスに回すために、打順を9番から。9番河村がしっかりと犠打を決め、1番束野は満塁策で四球で出塁。秀岳館としては最善の策を取ったつもりだったが、大分からすれば実は臨んだ展開だった。2番ではあるがチームでも勝負強いといわれる三浦がサヨナラ打を放ち、なんと選抜ベスト4の秀岳館を破ったのだ。
サヨナラ打の三浦(大分)
試合後、大分の松尾篤監督は「うちのようなチームが、秀岳館さんのようなチームに勝つことができて素直にうれしいです」と喜びを表した。大分は県大会から接戦に強く、決勝戦の佐伯鶴城の試合もサヨナラ勝ちだったという。
大分の打線のキーマンは1番束野、2番三浦、そして3番で甲子園経験者の佐藤 陸である。この3人で、6安打。それぞれスピードとバットコントロールを兼ね備えた選手で、1番束野はもともとは2番打者だったが、打撃がかなり伸びたことで1番打者となった。コンスタントに135キロ〜130キロ後半、最速で140キロを超える有村のストレートをしっかりと打ち返したように、速球に振り負けせず打ち返せるスイングの鋭さ、芯に当てるコンタクト能力を持った選手で、そして足も速く、スローイングタイム1.90秒〜2.00秒前後の強肩捕手・九鬼から2盗塁を決めている。
そしてサヨナラ打を打った三浦は、攻守の中心。2年生とは思えない存在感があり、何よりバットコントロールの良さ、狙い球を見逃さない鋭さが良い。スイング軌道を見ても、実にコンパクトで、スイングスピードも速く、ミートセンスは秀逸。もともと1番を打っていた選手だったが、束野が伸びたことで2番になったが、バントはしない選手。この日は同点打、サヨナラ打を放ったが、勝負強さを兼ね備えた攻撃的な2番打者なのである。期待していた選手が期待通りの結果を残したのである。 佐藤は1年夏から出ていた左の好打者。スイング軌道が弧を描くようなものであり、芯で捉えれば長打も期待できるが、逆方向に打ち返す上手さも秘めた選手だ。今日は三浦よりは目立っていなかったとはいえ、打者としての素質はかなりのものを秘めている。これほどのコンタクトのある打者が1番〜3番に座っているのだから怖いものだろう。
この試合、束野が2盗塁を決めたがすべてノーサインで走ったものだという。これまでもノーサインでどんどん走ったりするようだ。 ノーサインで動けるのも、前チームから出場している選手が多く、まだその時は突出とした打力がなかったので、少ないチャンスをモノにできるには、チャンスを広げるにはどうすれば良いのか? それができるために、実行するために考えて野球ができる選手になるために、松尾監督は考える機会を与えたのであった。
またノーサインで選手たちが走っているのは、首脳陣が走れというより、選手自ら走る意思を持った方が盗塁のスタートも良いことが分かったので、足が速い選手には自分たちで走れる判断力、観察力を求めてきたのだ。
そして一冬越えて打者たちの打撃力が伸びたことで、走塁を上手く絡めた攻撃ができるようになり、過去1年取り組んできた考える野球がここで結実したのである。
松尾監督は、「九州大会は自分たちの取り組みを再確認する場所。そこで正しいと実感するにはこの上ない舞台なんです」と語るように、2年ぶりの甲子園出場へ向けて、この九州大会はさらに大分ナインを大きくする舞台になることは間違いない。
(文=河嶋 宗一)
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