都立片倉vs都立昭和vs都立杉並
昭和・松崎君
今春の東京都大会では、5大の注目校と言われていた早稲田実業を二回戦で倒した都立昭和。しかも、8回裏に本塁打などで逆転するという展開だった。以来、“脅威の8回”を持ち味としている都立昭和。この日の試合でも、それを立証してみせてくれたのだから、恐れ入るというしかない。また、選手たちも、そのことに自信を持っている。言うならば、それが強みにもなっているようだ。
「都立昭和は、森勇二監督が試合ごとにいつも、その日のテーマをボードに書いて、ミーティングで見せることにしている。この日は、「覚悟 決意」ということを書いた。その意図を主将の寺園響君に聞くと、「3年生は23人いるんですけれども、普通にやっても最低3人はメンバーから外れてしまうことになります。だから、これからの試合は、その中に入れるかどうかの覚悟を決めて挑めということです。そして、そのためにはしっかりと決意して向かわなくてはいけないということです。それは、一つひとつのプレーがすべて決意になるということです」と、今の意識を語ってくれた。
その決意の終結が、8回に表れるところにこのチームの意識の強さが感じられる。都立片倉との試合、2点を追う都立昭和は一死から、7番松崎君以下、遠藤君、富樫侑己君と3連打してまず1点を返す。一番の藤具(とうぐ)君は四球で満塁。ここで寺園君が右前へ落して同点。さらに田舎凌君が死球となり押し出し。この勢いに押されて片倉は4人目伊藤充君を投入。一ゴロの間に三走が帰ってさらに追加。結局、やや準備不足だった伊藤君は押し出しもあってこの回5点となった。
この奇跡のような集中攻撃に、森監督は、「いや〜、本当、不思議なくらいに8回に点取るんですよね。しかも、後攻だとなおさらですよ。ここのところの練習試合でもずっとそうです」と、満足げだった。
都立片倉の宮本秀樹監督は、先発の大貫君が5回途中で降板とならざるを得なかったことも含めて、「投手がね、もう一つ決め手がないんですよ。4人目で投げた伊藤がヒジの故障で出遅れていて、あれが完全になってくれたら、また違ってくるとは期待しているんですけれどもね」と、言いながらも、「何だか知らないけれども、都立昭和は乗っちゃってる勢いがあるね」と、相手の元気を称えていた。
片倉・山岸君
その都立昭和と、合同練習なども組んでいるという都立杉並。実は、田北和曉監督は前任校の町田工の前は都立昭和で指導しており、その時の野球部長も今春から都立杉並に異動してきた外池修一部長である。このコンビで、2004年夏には都立昭和を西東京大会ベスト4にまで導いている。そんな因縁もある同士だ。
森監督は、合同合宿などで、田北監督と練習方法を話し合ったりしていく中で、「実はタッキー(田北監督のこと)の鋭い眼力を信頼していて、彼が、『あの子いいですねぇ』なんて言う選手が、ボクがあまり期待していなかった選手だったりするんですけれども、試合で使ってみると活躍するんですよ。それで、結構参考にさせてもらっていますよ」と言う。これは、毎日接している監督と選手という中で、却って見えなくなっていることがあるのを、別の眼で見ることで違った要素が見えてくることがあるということを言い表しているともいえそうだ。固定観念がないということで、純粋に見た状況からの判断も大事な要素だということでもあろう。
お互いに指導者同士が交流を持っていて、親しい仲の練習試合では、それぞれの意見交換も大事だ。また、その発見を求めてという意識も含めての練習試合だともいえるのだろう。ことに、東京都の場合は、都立校の多くはグラウンドをフルに使っての練習や他校を呼んで試合をする場は限られている。だから、そこでお互いに気づいたことを率直に出し合っていくことも、指導者間のレベル向上として大事な要素としている。そんな中で、チームを作っていく現場を見ていくのが練習試合の楽しみでもある。勝った負けたということは、もちろん試合である以上は、大事だけれども、それだけではないものがあるのは当然だ。特に、練習試合の場合は、使う指揮官の意図、出場する機会を得られた選手の思い、いろいろなものが重なり合っていく。
都立校の場合は、高校野球研究会などを通じて、横のつながりも強くなっている。だから、そんな機会に触れられれば、新しい発見もある。都立昭和の勢いを実感しつつ、3年生がわずか4人という中でやってきている都立杉並の田北監督は、「1年生を経験させるということで使っているのではなくて、使わざるを得ないから使っているんですけれども、こうして試合に出ていく中で、高校野球に慣れていってくれれば、いいなと思う選手もいっぱいいますから、これから先へ向けては楽しみです。ただ、体力がまだないですから、フルには使いきれないですよね」と、都立片倉との試合では17人を起用しユニフォームの違う1年生も4人出場した。
また、都立片倉もこの試合では22人が出場。3年生が20人、2年生が30人、1年生も24人が入ってきた都立片倉の、「本当は、同じメンバーで多く試合をした方がチーム力アップということだけ考えればいいのかもしれないですけれども、やっぱり3年生で公式戦に出られないかもしれないヤツも使っていかないといけませんから…」と、こちらは都立杉並とは違った事情で多くの選手が出場することになった。
(写真・文=手束 仁)