ANA、日立、野村証券……最年少役員24人のリアル「24時間の使い方」

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平均47歳で役員に上り詰めた彼ら。現在、どのように時間を使っているのか。プレーヤー時代はどんな働き方をしていたのか。アンケート結果から検証する。

同世代の中でいち早く頭角を現して経営陣に加わった最年少役員は、いったいどのような働きぶりで成果をあげてきたのか。それを探るべく、業界大手200社を対象にアンケート調査を実施(うち回答は24社)。各社の役員のうち、最年少で就任した役員に1日の使い方を教えてもらった。

まず、注目したいのは出社時間だ。回答者のうち6時台が18%、7時台が41%で、8時前に出社する役員が59%もいた。“重役出勤”は過去の話。最近の役員は早朝出社があたりまえだ。

起床時間も早い。4時台に起きる人は26%、5時台は30%で、6時前に起きる人が半数を超えた。朝食にかける時間は平均17分、身支度は平均37分で、朝は余裕を持って準備をしている。

通勤時間の平均は49分。全体として職住近接の傾向がある。通勤電車の中では「新聞を読む」「読書する」の回答がともに50%を超えた(複数回答)。移動時間は無駄にせず、情報のインプットに充てる役員が多数派だ。

出社時間が早いぶん、退社時間も早めだ。退社時間は18時台が最も多く、46%。退社後、週平均3〜1回は社内外の会食に出かけているが、興味深いのは、そのつき合い方だ。会食にどこまでつき合うかを質問したところ、「一次会で帰る」の回答が最多で、46%に達した。週の半分は会食するが、早めに切り上げるのが標準的なスタイルだ。

▼アンケート詳細解説

若くして役員になる人はどのようなスケジュールで一日を過ごしているのか。今回、大手企業の役員のうち、最年少で就任した役員(現在の平均年齢49歳、役員就任時の平均年齢47歳)を対象に、アンケートを実施。“最年少役員になれる”一日の使い方を算定した。自分の生活リズムと何が違うのか。比べてみよう。

▽出社
・職住近接……通勤時間の最多回答は「30分程度」。価格やブランドではなく、通勤時間を基準に住む場所を選ぶという合理的な思考が垣間見える結果となった。
・通勤時間で情報をインプット……通勤中は新聞や本、スマホなどで情報を集めている。ほかにも会議の予習やスケジュールのチェックなど、効率的に時間を使う回答が目立った。
▽昼食終了
・休憩時間も仕事に充てる……昼食の時間は平均26分。昼休みの残りの時間は、メールや仕事をするという回答が最多。スキマ時間も無駄にはせず、有効活用している。
▽昼食終了〜退社
・間食には甘い物……最も回答が多かったのはチョコレート。2位以下はアメ、クッキー、ガムと続く。糖分を摂取し、エネルギーを補給。夕方以降の仕事効率を上げる工夫だ。
▽会食終了
・1次会で帰り、次の日に備える……会食は1次会で切り上げ、次の日に備える。社内外の連日の会食を乗り切り、日中に短時間で結果を出すためには徹底した自己管理が欠かせない。
▽就寝
・平均睡眠時間は5時間24分……最も多かった回答は「5時間程度」。就寝前には「TVを見る」が14人、「読書」が12人、「新聞を読む」が12人と、リラックスした時間を過ごしている(複数回答)。

一方、同世代に差をつけたプレーヤー時代はどうだったのだろうか。

最も働いた時代の仕事時間は、1日平均11時間54分。これは現在の平均9時間48分より2時間以上長い。月の平均残業時間は55時間で、1日の平均睡眠時間は4時間54分と、役員である現在より30分短い。

このアンケート結果からプレーヤー時代にたくさん働き、出世後に朝型にシフトというのが最年少役員たちの黄金パターンであることが浮かび上がった。

▼最年少役員の課長時代

(1)1日の仕事時間は12時間――最も働いていたときの勤務時間は1日約12時間だった。一方で8時間という回答は3人、9時間も2人いた。効率的に仕事を終わらせ、プライベートを充実させながら最年少で役員になることも可能だ。

(2)残業は1日に2時間まで――若いうちは仕事を時間と体力で解決できると思いがちだが、最年少で役員になった人のうち、月100時間以上残業した経験のある人は24人中たった4人。13人は月40時間以下だった。

(3)会食は週3回、最後までつき合う――社内外合わせて会食は平均週3回。現在は社外が中心だが、若いときは社内が多いという結果に。つき合い方も11人が「最後まで」派。会食は人脈形成、情報収集に欠かせない要素のひとつだ。

(4)休日は家族サービスと仕事を両立――休日の仕事時間は現在が平均3時間。プレーヤー時代は4時間。一方で家族サービスするという回答は8人。両者のバランスを取っている人が昇進するという結果になった。

(5)睡眠時間は4時間以上確保する――最年少役員の21人は最も忙しいときでも4時間以上は睡眠をとっていた。いいアイデアや発想で効率よく結果を出すためには、一定の睡眠をとることが大事な要素になっていることがわかった。

今回のアンケート調査から、「生活は朝型で、だらだらと遅くまで仕事しない」という最年少役員の平均像が浮き彫りになった。いち早く出世した役員たちは具体的にどのように時間を使ってきたのか。さまざまな業界の最年少役員4人に聞いた。

今回話を聞いた4人はいずれも朝が早かった。3年前に常務執行役になった三菱電機の大隈信幸氏は毎朝4時起床だが、そこには切実な理由があった。

「出社後はスケジュールが埋まっていて、自分の仕事をやる時間がほとんどない。自由になるのは出社までの1〜2時間だけ。起きぬけに梅と酢でつくったドリンクを飲んで目を覚まします」

同じ朝型でも、早起きの理由はさまざまだ。リクルートテクノロジーズ執行役員の山村大氏は毎朝6時に起床。いつもお子さんに起こされて目が覚めるが、早起きの目的はほかにあった。

「普段は帰りが遅くて家族にさみしい思いをさせているので、朝は、ごはんとお味噌汁、おかず4〜5品で“朝の団らん”を楽しんでいます」

一方、朝の時間の使い方に女性らしさをのぞかせるのは、あいおいニッセイ同和損保執行役員の近藤智子氏だ。

「朝は5時50分に起きて、朝風呂。目が覚めたところで、着ていく服を選びます。身支度には1時間とります」

時間の使い方は人それぞれだが、いずれも慌ただしさとは無縁。出社前に何をするにせよ、ゆとりを持ってスタートを切ることが大切のようだ。

通勤は4人中3人が電車。唯一、近藤氏は30分、徒歩で通勤する。「日差しを浴びながら歩くのは気持ちよくて、調子よく仕事に入れます」(近藤氏)。

出社後の時間の使い方はどうか。注目したいのは会議やミーティングの時間だ。昇進するにつれて、チームをまとめて意思決定したり、関係者と意見を調整する仕事の割合が多くなる。ここで効率よくこなさないと、マネジャーとしての出世は望めない。

クボタ執行役員の石橋善光氏は農機国内営業本部長。月の半分は日本各地へ出張する。出張のない日は「会議が30分単位でぎっしり」(石橋氏)。成果を出すには会議の生産性を高める必要があるが、そのために何か心がけてきたことはあるのだろうか。

「会議で無駄なのは報告の時間です。13人から5分ずつ報告を受けると、それだけで1時間以上かかります。だから、会議での報告はなし。いきなり役員の質問からスタートします」(石橋氏)

会議を本題から始めるには、事前の情報共有が必須だ。クボタの営業本部会議では、会議で何か報告する人は3日前までに資料を提出。決裁権者である役員は当日までに資料を熟読して内容を把握する決まりになっている。

ほかの最年少役員も、部課長時代から会議の効率化を強く意識してきた。

「60分の予定の会議を15分で終わらせることも多い。自分が情報を100知る必要はない。要点さえわかれば、あとは部下に任せます」(大隈氏)「即決が基本。上司がサクサク決断すれば、部下の指示待ち時間が減って組織全体の仕事のスピードが上がる」(近藤氏)

現在、1日10〜15本の会議に出ている山村氏は、混乱を防ぐためにこんな工夫をしてきたという。

「会議の合間に10分でも時間ができれば、フロアを歩いてメンバーと世間話をします。直前の会議と関係ない話をすることで頭の切り替えができるし、現場のコンディションを肌で感じることができて一石二鳥です」(山村氏)

退社時間は大隈氏と石橋氏が午後6時、近藤氏が午後7時、山村氏が午後8時と総じて早め。ただ、仕事はオフィスアワーの後も終わらない。公式な会議以外の場所での情報収集も重要な仕事の一つ。今回話を聞いた4人も、週に半分以上は会食して社内外の関係者と会っていた。

会食のつき合い方は、「一次会で帰る」派と「最後まで」派で割れた。一次会派は、効率や継続性重視だ。

「二次会まで行っても、聞ける話は一次会とだいたい同じ。長くいても新しい情報が出てくるわけでもないので、一次会で帰ることに決めています」(大隈氏)
「一次会で切り上げて夜9時には帰宅します」(石橋氏)

最後までつき合う派の山村氏は、コミュニケーション重視だ。山村氏が率いるチームメンバーは250人。3カ月に1度しか話せない相手もいるので、会ったときはその場を楽しみ、同じ空気を共有することを心がけてきた。

「相手は選びますが、一緒にサウナに行き、裸で仕事の相談を聞くこともあります」(山村氏)

最後に休日の使い方についても聞いてみた。翌週の仕事の流れを確認したり必要な資料を読み込む程度の仕事はするが、原則的にオフに仕事のことは考えない役員がほとんどだった。

「私の場合はゴルフ。週末にコースに出るとスコアのことしか考えないから、頭の中がすっきりします」(石橋氏)
「週末はジョギングしたりマッサージを受けにいったりしてアクティブに過ごします。月曜から集中して仕事に取り組める気がします」(近藤氏)

最年少役員4人の時間の使い方は、共通点もあれば、正反対のものもあった。成果の出る時間術に唯一の正解はない。自分に合ったスタイルを確立することが、同期に差をつける近道かもしれない。

▼アンケート詳細解説

・休日はTVと家族サービス……最多回答はTV観賞。得意先の役員が好む番組を把握できれば話題は盛り上がり、新たなビジネスチャンスが生まれるかもしれない。
・79%は土日にも仕事……回答があったうち19人が休日に仕事をしている。かける時間はバラバラだが、週明けの仕事を充実させるために準備をするという声が多かった。

※アンケート回答企業一覧●ANA 、DeNA 、JTB 、NTTコミュニケーションズ、NTTドコモ、あいおいニッセイ同和損保、オリックス、クボタ、サッポロHD、ヤマトHD、リクルートジョブズ、リクルートテクノロジーズ、リクルートマーケティングパートナーズ、協和発酵キリン、三井住友海上、三菱UFJモルガン・スタンレー証券、三菱マテリアル、三菱電機、鹿島、第一生命、帝人、日立製作所、野村証券、野村不動産

(村上 敬=文 市来朋久、浮田輝雄(石橋善光氏)=撮影)