新「ルパン三世」「千と千尋の神隠し」のような「日本より愛をこめて」
30年ぶりのTVシリーズ『ルパン三世』、先週放送の第21話は遊び心たっぷりの変化球エピソード「日本より愛をこめて」。今回の主役は峰不二子だ。
日本の温泉宿に遊びに来ている峰不二子。お色気たっぷりの入浴シーンから始まるが、サービスはやや控えめ。その後、偶然居合わせた五エ門と酒を酌み交わし、二人で共謀してニセの電話でルパンをイタリアから呼び出し、「平賀源内のからくり人形」を盗み出させる。
しかし、これはすべてルパンを捕まえるための罠。仕掛けたのは、「不可能を可能にする男」明智ホームズ耕助と名乗る探偵だ。明智は五エ門に変装し、不二子を騙してルパンをおびきよせたというわけ。
この明智という男、見かけも言動も大変チャラいのだが、日本の警察をちゃんと掌握し、指示に従わせることができるという実力の持ち主。わりとまっとうなキャラクターが多い今シリーズだが、ある意味、『ルパン三世』らしいエキセントリックな登場人物である。
明智の指揮のもと、大勢の警官隊に囲まれ、あえなく逮捕されるルパン。捕まってしまったルパンを尻目に、一人で逃げ出す不二子だが、明智は意に介さない。
「峰不二子など所詮ルパンに取り入ることしか能のない女。ルパンがいなければ何もできませんよ」
完全に見くびりすぎ。明智、『LUPIN the Third 峰不二子という女』を見てないだろ。
ともあれ、屈辱にまみれる不二子のもとに、ふらりとやってくるのは次元大介。珍しい組み合わせだが、ルパンを思う気持ちは一つということか? 不二子は変装トリックを使って、見事に明智からルパン奪還に成功。なぜか和服姿で狙撃する次元の協力も得て、戦車を改造した装甲車で古民家の並ぶ温泉街を爆走する。
最後は、明智を徹底的にコケにして大団円。「日本なんてもううんざり」とコボす不二子だが、目の前の富士山に心慰められるのでした。
イタリアで放送されることを前提に、舞台をイタリアに限定している今シリーズの『ルパン三世』だが、21話は初めてイタリアを飛び出したエピソード。舞台は『ルパン三世』の故郷・日本。東京スカイツリーもあったりして完全に現代の東京なのだが、不二子がいるのは宮崎駿監督『千と千尋の神隠し』の油屋を彷彿とさせる巨大かつ豪華絢爛な温泉旅館。日本の現代の風景とエキゾチックな風景をあえて混在させているようだ。なお、『千と千尋〜』は当然イタリアでも公開されている。
ルパンが架空の町でからくり人形を盗んで逃げるときの車がトヨタ・セリカTA22型だったり、架空の温泉街のパトカーが日産GC110スカイライン2000GT(この車種は実際にパトカーとして配備されていた)だったりするのは、『ルパン三世』の“実証主義”の面目躍如だろう。いずれも1970年代の旧車だが、現在の東京との差別化のための小道具として使われているようにも見えるし、単なるスタッフの趣味なのかもしれない。なお、架空の町の警察署は1977年まで使われていた旧警視庁をモチーフにしたものだ。
今回のゲストキャラクターの明智ホームズ耕助は、明智小五郎、シャーロック・ホームズ、金田一耕助という名探偵らを元ネタにしているが、ルパンや五エ門、銭形警部のように、彼らと縁戚関係であることは明示されていない。ただのニックネームの可能性もあるが正体は不明。ちなみに助手の名前は大林ワトソン芳雄だった(明智小五郎の助手・小林少年の本名は小林芳雄である)。
『ルパン三世』に登場する、正義を標榜してルパンを狙うキャラは、えてして裏で悪事を働いていることが多いが、明智ホームズの目的は一貫してルパン逮捕であり、単なる「イヤな性格の正義の味方」である。TV第1シリーズ「どっちが勝つか三代目!」のガニマール警部などに近い。なお、『ルパン三世』の原作には、明智小五郎という名の老探偵が登場する(『ルパン三世 パイロット・フィルム』にも登場)。
古民家が並ぶ細かな路地を装甲車で爆走するシーンは、飛騨の街並みでフィアットとパトカーがチェイスする『ルパン三世 風魔一族の陰謀』を思い出させる。今シリーズや『ルパン三世 カリオストロの城』とともに、テレコム・アニメーションが総力を挙げて制作した作品だ。いずれもめちゃくちゃ細かく描き込まれた街並みが印象深いが、『風魔〜』と違って今回は商店街などが破壊されることはない(橋は破壊される)。ルパンたちがコンプライアンスに従ったのか、『風魔〜』の作画の手間が異常だったのか、どちらかだろう。
特筆すべきこととして、今回は原画に田中敦子が参加している(旅館内のカットや次元が狙撃するカットを担当)。あの大塚康生をして「アニメを描くために生まれてきた」と言わしめ、総監督を務める友永和秀とともに『カリオストロの城』や『名探偵ホームズ』、その他数々のスタジオジブリ作品に原画として参加してきた天才アニメーターだ。
たとえば、『カリオストロの城』でルパンと次元がスパゲッティを取り合うシーンや、ルパンが城の屋根を駆け下りてジャンプしたりするシーンなどが田中の手によるものである。ほかにも、TV第2シリーズ「死の翼アルバトロス」(宮崎駿演出)でルパンたちがスキヤキを奪い合った後、裸の不二子が登場するシーン、『風魔一族の陰謀』の温泉内でのカーチェイスシーンなども田中の作画である。『もののけ姫』のモロがエボシの腕を食いちぎるシーンや、『風立ちぬ』の関東大震災のシーンも田中の作画だと言ったら、そのスゴさがわかるだろうか。『千と千尋の神隠し』にも当然ながら参加している。
田中のような過去に『ルパン三世』を手がけてきたベテランスタッフと、キーアニメーターとして活躍する酒向大輔のような『ルパン三世』を描きたくて業界に入ってきた中堅スタッフ、そして現在20代前半のキャラクターデザイン補佐・稲手遥香、田口麻美のような若手スタッフが混在しているのが今シリーズの『ルパン三世』の特徴である。ちょうど過去の東京と現在の東京をゴッチャにして不思議な世界を描き出した本エピソードと似た構造なのかもしれない。
さて、今夜放送の第22話は、久々に登場するレベッカがルパンを盗もうとする話「ルパン、頂きに参ります」。今シリーズはあまり泥棒をしないルパンだが、とうとう盗まれる側に回っちゃった? チャンネルは決まったぜ。
(大山くまお)
日本の温泉宿に遊びに来ている峰不二子。お色気たっぷりの入浴シーンから始まるが、サービスはやや控えめ。その後、偶然居合わせた五エ門と酒を酌み交わし、二人で共謀してニセの電話でルパンをイタリアから呼び出し、「平賀源内のからくり人形」を盗み出させる。
この明智という男、見かけも言動も大変チャラいのだが、日本の警察をちゃんと掌握し、指示に従わせることができるという実力の持ち主。わりとまっとうなキャラクターが多い今シリーズだが、ある意味、『ルパン三世』らしいエキセントリックな登場人物である。
明智の指揮のもと、大勢の警官隊に囲まれ、あえなく逮捕されるルパン。捕まってしまったルパンを尻目に、一人で逃げ出す不二子だが、明智は意に介さない。
「峰不二子など所詮ルパンに取り入ることしか能のない女。ルパンがいなければ何もできませんよ」
完全に見くびりすぎ。明智、『LUPIN the Third 峰不二子という女』を見てないだろ。
ともあれ、屈辱にまみれる不二子のもとに、ふらりとやってくるのは次元大介。珍しい組み合わせだが、ルパンを思う気持ちは一つということか? 不二子は変装トリックを使って、見事に明智からルパン奪還に成功。なぜか和服姿で狙撃する次元の協力も得て、戦車を改造した装甲車で古民家の並ぶ温泉街を爆走する。
最後は、明智を徹底的にコケにして大団円。「日本なんてもううんざり」とコボす不二子だが、目の前の富士山に心慰められるのでした。
過去と現在が交じり合う『ルパン三世』
イタリアで放送されることを前提に、舞台をイタリアに限定している今シリーズの『ルパン三世』だが、21話は初めてイタリアを飛び出したエピソード。舞台は『ルパン三世』の故郷・日本。東京スカイツリーもあったりして完全に現代の東京なのだが、不二子がいるのは宮崎駿監督『千と千尋の神隠し』の油屋を彷彿とさせる巨大かつ豪華絢爛な温泉旅館。日本の現代の風景とエキゾチックな風景をあえて混在させているようだ。なお、『千と千尋〜』は当然イタリアでも公開されている。
ルパンが架空の町でからくり人形を盗んで逃げるときの車がトヨタ・セリカTA22型だったり、架空の温泉街のパトカーが日産GC110スカイライン2000GT(この車種は実際にパトカーとして配備されていた)だったりするのは、『ルパン三世』の“実証主義”の面目躍如だろう。いずれも1970年代の旧車だが、現在の東京との差別化のための小道具として使われているようにも見えるし、単なるスタッフの趣味なのかもしれない。なお、架空の町の警察署は1977年まで使われていた旧警視庁をモチーフにしたものだ。
今回のゲストキャラクターの明智ホームズ耕助は、明智小五郎、シャーロック・ホームズ、金田一耕助という名探偵らを元ネタにしているが、ルパンや五エ門、銭形警部のように、彼らと縁戚関係であることは明示されていない。ただのニックネームの可能性もあるが正体は不明。ちなみに助手の名前は大林ワトソン芳雄だった(明智小五郎の助手・小林少年の本名は小林芳雄である)。
『ルパン三世』に登場する、正義を標榜してルパンを狙うキャラは、えてして裏で悪事を働いていることが多いが、明智ホームズの目的は一貫してルパン逮捕であり、単なる「イヤな性格の正義の味方」である。TV第1シリーズ「どっちが勝つか三代目!」のガニマール警部などに近い。なお、『ルパン三世』の原作には、明智小五郎という名の老探偵が登場する(『ルパン三世 パイロット・フィルム』にも登場)。
古民家が並ぶ細かな路地を装甲車で爆走するシーンは、飛騨の街並みでフィアットとパトカーがチェイスする『ルパン三世 風魔一族の陰謀』を思い出させる。今シリーズや『ルパン三世 カリオストロの城』とともに、テレコム・アニメーションが総力を挙げて制作した作品だ。いずれもめちゃくちゃ細かく描き込まれた街並みが印象深いが、『風魔〜』と違って今回は商店街などが破壊されることはない(橋は破壊される)。ルパンたちがコンプライアンスに従ったのか、『風魔〜』の作画の手間が異常だったのか、どちらかだろう。
特筆すべきこととして、今回は原画に田中敦子が参加している(旅館内のカットや次元が狙撃するカットを担当)。あの大塚康生をして「アニメを描くために生まれてきた」と言わしめ、総監督を務める友永和秀とともに『カリオストロの城』や『名探偵ホームズ』、その他数々のスタジオジブリ作品に原画として参加してきた天才アニメーターだ。
たとえば、『カリオストロの城』でルパンと次元がスパゲッティを取り合うシーンや、ルパンが城の屋根を駆け下りてジャンプしたりするシーンなどが田中の手によるものである。ほかにも、TV第2シリーズ「死の翼アルバトロス」(宮崎駿演出)でルパンたちがスキヤキを奪い合った後、裸の不二子が登場するシーン、『風魔一族の陰謀』の温泉内でのカーチェイスシーンなども田中の作画である。『もののけ姫』のモロがエボシの腕を食いちぎるシーンや、『風立ちぬ』の関東大震災のシーンも田中の作画だと言ったら、そのスゴさがわかるだろうか。『千と千尋の神隠し』にも当然ながら参加している。
田中のような過去に『ルパン三世』を手がけてきたベテランスタッフと、キーアニメーターとして活躍する酒向大輔のような『ルパン三世』を描きたくて業界に入ってきた中堅スタッフ、そして現在20代前半のキャラクターデザイン補佐・稲手遥香、田口麻美のような若手スタッフが混在しているのが今シリーズの『ルパン三世』の特徴である。ちょうど過去の東京と現在の東京をゴッチャにして不思議な世界を描き出した本エピソードと似た構造なのかもしれない。
さて、今夜放送の第22話は、久々に登場するレベッカがルパンを盗もうとする話「ルパン、頂きに参ります」。今シリーズはあまり泥棒をしないルパンだが、とうとう盗まれる側に回っちゃった? チャンネルは決まったぜ。
(大山くまお)