米国内で中国通貨の人民元の早期切り上げを求める声が日増しに高まっているなか、米国の金融のお目付け役であるアラン・グリーンスパンFRB(米連邦準備制度理事会)議長までもが、先週の21日の上院予算委員会で証言し、「中国は早くドル・ペッグ制(ドルに自国通貨を連動させる緩やかな固定相場制)をやめればやめるほど、中国経済ますます良くなる」と述べ、さらには、「中国はすでにその方向に動き出している。いずれ、早い時期に人民元の為替制度を変更せざるを得なくなる」とも指摘、人民元の変動性相場制への早期移行の可能性を示唆した。

  米国では、中国繊維・衣料品輸入急増で米国の貿易赤字が巨額化し、人民元の切り上げを180日以内に実施しなければ、27.5%の一律報復関税を課すという米議会や製造業界の動きとともに中国包囲網が全方位的に広がってきている。ブッシュ大統領も14日にワシントンで開かれた米新聞編集者協会での講演では、「中国との自由で公正な貿易を行うために人民元の変動相場制への移行を中国に要請している」と異例にも為替問題に言及している。

  また、15−16日に開かれたワシントンG7(先進7ヵ国財務相・中央銀行総裁会議)でも、中国を名指しこそしなかったものの、人民元のドル・ペッグ制を柔軟化させるよう求める共同声明が採択され、スノー米財務長官に至っては、16日のG7終了後の記者会見で、また、19日の下院歳出委員会でも、「中国はより柔軟な為替レートを採用する準備が出来ている。今こそ中国は為替制度を変更するときだ」とまで述べ、早期の人民元の切り上げを求めている。
  
  人民元をめぐるこうした騒々しさは、為替市場にも波及してきている。特に、市場の信頼度が抜群なグリーンスパン議長の発言をうけて、先週末(22日)のニューヨーク外為市場では、ドル/円が21日に引き続いて下落した。先週末は1日だけで0.8%安の1ドル=105.98円で引け、一時は1ヵ月ぶりの最安値となる1ドル=105.73円まで急落。市場では、グリーンスパン発言で人民元の切り上げが早まるという懸念が強まり、人民元の相場が上昇すれば、他のアジア通貨、特に、円が上昇する可能性があると見て、円を買い、ドル安になったほどだ。

  人民元はどれだけ安いのかというと、1990年代半ば以降、約10年間も1ドル=8.28元にほぼ為替レートが固定されており、政府も経済界も、人民元は経済実体よりも40%も低いレートになっていると見ている。この安い人民元のおかげで、中国の輸出競争力が米国の製造業よりかなり上回り、不公正競争にならざるを得ないと指摘されている。前IMF欧州局長のフレミング・ラ−セン氏も人民元が実態より低く誘導されているため、人民元は25−30%切り上げるべきだと主張している。

  ところで、グリーンスパン議長が上院で行った証言のポイントは2点だ。要は、中国は人民元の相場を低く維持しようとしているが、そのことで中国経済に悪影響がすでに出始めており、その弊害は2点に集約されるというのだ。

  一つは、中国はドルに対して、人民元の価値を現在の1ドル=8.28元に安定させるために、大量に米国債を購入している。実際には外為市場で、まず、人民元を売ってドル通貨を取得し、それで米国債を購入するので、ドルに対して人民元の価値は相対的に下がることを意味する、しかし、市場には人民元を大量に売ったままなので、それが過剰流動性として残っているので、中国の中銀である中国人民銀行は、金融債を発行して、それを市場で売却して、過剰流動性を吸収している。

  これを「不胎化する」というのだが、そうしなければ、中国のマネーサプライが急増して、インフレを引き起こすからだ。グリーンスパン議長によると、中国の中銀は金利に上限が設定されているので、金融債を必要なだけ大量に発行するのが難しくなってきており、マネーサプライの増加を抑制するのに苦労し始めているというのだ。