近畿地区記者・小中翔太氏が選ぶ今年のベストゲームTOP5
「各地区のドットコム記者が選ぶベストゲーム」では、全国各地のドットコム記者の皆さんに、今シーズンで最も心に残っている試合を5つピックアップしていただき、振り返っていただく新企画です。第1回では、大阪・兵庫・京都などの近畿地区を中心に観戦していただいている小中 翔太記者に今シーズンのベストゲームだと思うトップ5を伺いました!
観ていておもしろいと思えるのは意図の見えるプレー。配球にしても守備位置にしても「一生懸命頑張りました」ではなく「こういうリスクは承知の上でこういう選択をした」と説明出来るプレーにはキラリと光るものがあり、思わず唸らせるものがある。
実力差があってもひっくり返せるのが野球というスポーツであり、何が起こるかわからないのが高校野球。ヒットやエラーは野球の重要な要素だが打ったから勝った、ミスしたから負けた以外の部分や、もっと言うならプレー以外の部分にどれだけ惹かれたかを基準に選びました。
5位:秋季大阪府大会2回戦 牧野vs関西大倉■2年ぶりの勝利以上の涙のワケ
辻本 淳之介主将(牧野)
夏の大会が終わった直後、3年生の引退と共に4人の2年生が部を離れた。その結果、26人いた部員がわずか5人に。実戦的な練習はもちろん出来ず、一時期は連合チームでの大会出場も視野に入れていたが、大会2週間前にして離脱していた4人が復帰。
9月に入ってからようやく新チームのスタートを切った牧野、少ない人数ゆえ投手交代する度に大幅にポジションを変更していたが、アンダースローの器用な1年生投手に同級生がいなくなっても1人で野球部の看板を背負い続けたキャプテンらが奮闘し、部員数40人を超える関西大倉に勝利。現役部員にとっては初、学校としても2年ぶりとなる勝利だった。
出場することすら危ぶまれた中での勝利にキャプテン、監督、保護者は涙を浮かべていたが、牧野は続く3回戦にも勝利し、4回戦で敗れはしたが1対2と善戦。決してフロックではないことを証明して見せた。(試合レポート)
4位:秋季大阪府大会決勝 大阪商大堺vs大阪桐蔭■対大阪桐蔭用のスペシャル継投
大阪商大堺エースの神田 大雅投手にどうつなぐかがカギだった。
秋の大阪決勝で大阪桐蔭と対戦した大阪商大堺、先発マウンドに立ったのは超がつくほどの軟投派左腕・東山 一樹だった。エースは140km/h近い速球を投げ込む長身右腕の神田 大雅。しかし強力大阪桐蔭打線に真っ向から挑んだのでは望み薄。そこで静 純也監督が採った作戦は5回までに3人の投手をつぎ込んで3点差以内に抑え後半勝負に持ち込み、6回以降のマウンドをエースに託すというものだった。
先発から2人目、2人目から3人目、そしてエースへとつないだ継投は交代する度に球速が増す。少しでもタイミングを狂わそうと、先発左腕が失点を重ねても残像を残すためにすぐには代えなかった。ビハインドを背負う展開ながら狙い通り終盤勝負に持ち込むと、打線が7回につながり試合を振り出しに戻す。そのまま延長戦に突入すると13回に盗塁が相手のミスを誘いついに勝ち越しに成功。何度もピンチを招いたエースも8回1失点で勝ち投手に。セオリー通りに最初から先発していれば8回1失点という結果は難しかっただろう。ハマらなければ序盤で試合が終わる可能性もあった大胆な継投で横綱に土をつけた。(試合レポート)
[page_break:3位:秋季近畿大会決勝 大阪桐蔭vs滋賀学園 / 2位:春季兵庫大会阪神地区Cブロック1回戦 宝塚東vs甲南]3位:秋季近畿大会決勝 大阪桐蔭vs滋賀学園■安打数4対11、それでも負けない大阪桐蔭の底力
優勝した大阪桐蔭
初回にエラーで先制点を献上し8回までわずか2安打。戦前では有利と見られていた大阪桐蔭が苦戦していた。沖縄出身の滋賀学園の1年生エース・神村 月光が投げ込む球威ある球を中々攻略出来ず、4回までのアウト12個の内8個がフライアウトによるもの。打順に関係なく深く守った外野手の頭を越えることは難しく、何度も大飛球がフェンス手前でグラブに収まった。
しかし1対1で迎えた9回、先頭打者が2ボールからしっかり叩いてヒットを放つと、キャプテンが初球にエンドランを決める。変化球を右中間に運ぶタイムリーツーベースで勝ち越すと、4番が送って5番が貴重な犠牲フライを放ち突き放す。8回までに放った2安打は9回に打点を挙げた2人によるものだった。何度も得点圏にランナーを背負っていたバッテリーも勝ち越し点をもらうと最終回はオールストレートに近い配球で反撃を断ちゲームセット。大阪桐蔭の底力が詰まった9回の攻防だった。(試合レポート)
2位:春季兵庫県大会阪神地区Cブロック1回戦 甲南vs宝塚東■圧勝の後できれいに並べられた野球道具
野球部のバッグをキレイに並べる甲南野球部
相手投手の制球の乱れに乗じ、9安打に6盗塁を絡めて4回までに14得点。初回からペースを握った甲南が大量得点で5回コールド勝ちを収めた。しかし、このチームに驚かされたのはプレーをしていない時。甲南ナインは3アウトを奪いベンチに戻って来ると円陣を作るのだが、この時監督は加わらない。試合後のミーティングも選手だけで行う。これは自分で気づき行動出来るようにという指導方針のため。
そして極めつけは試合を終えてスタンドで昼食をとっている時。上級生が下級生に道具の置き方が乱れていると注意を促す。するとすぐさまチーム全員が一斉に道具の整理整頓に向かって行った。挨拶をしなさい、道具を大切にしない。日本全国で何度も言われていることだが甲南の選手達はやらされるのではなく、自発的に出来るレベルに達しているようだ。(試合レポート)
[page_break:1位:夏季大阪大会決勝 大阪偕星学園vs大体大浪商]1位:夏季大阪大会決勝 大阪偕星学園vs大体大浪商■壮絶な練習量と古豪の意地
チームを引っ張った田端 拓海主将(大阪偕星学園)【写真は春季兵庫県大会支部予選 甲南vs宝塚東戦】
7月末、灼熱の舞洲球場で大阪偕星学園と大体大浪商がぶつかった。どちらも打線に力があり、どちらが勝っても「悲願の」という言葉が相応しい両校による決勝戦は、グラウンドで戦っている選手、スタンドの応援席から甲子園に対する強い思い感じられた好ゲーム。そんな意地と意地のぶつかり合う1点差試合を制したのは大阪偕星学園だった。
バントはほとんど1球で決めて攻撃にリズムを生み出し、勝ち越し点も4番のスクイズで挙げたもの。深夜にまで及ぶ猛練習で培った技術がここ一番で発揮された。対する大体大浪商も2点ビハインドの9回裏という追い詰められた状況の中、各打者は全く怯むことなくファーストストライクから積極的にスイング。惜しくも逆転はならなかったが、放った安打は相手を上回る14本。壮絶な練習量と古豪の意地がぶつかった見応えあるゲームだった。(試合レポート)
自分が観た近畿地区の中で、という条件の下選んだので大阪の試合が多くなったが、もしかしたらここに挙げた以上の好ゲームがもっとたくさんあったかもしれない。5分の3が決勝戦になったのはやはり優勝を決める試合には特別な何かがあるからか。秋の大阪決勝や近畿決勝は地力だけを見れば間違いなく大阪桐蔭に分があった。それでも大阪商大堺は投手陣総動員のスペシャル継投が嵌り、滋賀学園は沖縄出身の1年生エースの好投と下位打線でも外野が深く守る対策が功を奏した。
その大阪桐蔭も大阪商大堺戦ではチャンスにあと1本が出ず残塁の山を築き優勝を逃したが、劣勢だった滋賀学園戦では9回のワンチャンスで2点を奪い勝ち越しに成功。西谷 浩一監督の采配はタイミングバッチリでそれに応えた選手も見事だった。
来年も今年以上の好ゲームを楽しみにしています。
(取材・文=小中 翔太)
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