アグレッシブな仕掛けから先制点を演出した藤谷。グループ最大のライバルと目されたオーストラリア相手の勝利に大きく貢献した。写真:安藤隆人

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 U-19アジア選手権予選に臨んだU-18日本代表が、まずは世界への第一関門を突破した。ラオス、フィリピン、オーストラリアと同組になった日本は、当初の予想通り、全勝同士でオーストラリアとの最終戦に臨むこととなった。
 
 日本よりも高さと強さがあるオーストラリアを相手に、キーポイントとなったのがサイドの崩しだった。前日練習においても、CBからの縦パスを前線が受けて、落としたボールをボランチからサイドに展開したり、トップからサイドに展開したりと、いかにスピードに乗ってサイドを切り崩すかのトレーニングを重点的に行なっていた。
 
「僕はスピードに自信があるので、予測と判断をしっかりとさせて、いいタイミングでオーバーラップを仕掛けてチャンスを作りたい」
 前日練習後、大一番のキーマンとも言える右SBの藤谷壮は、そう語っていた。
 
 初戦のラオス戦ではスタメン出場するも硬さが目立ち、スピードを活かした突破は影を潜め、クロスの精度も高くはなかった。まったくと言って良いほど初戦は持ち味を出せず、「次(に出る試合)こそは最初からしっかりと持ち味を出して、成長の糧にしたい」と、強い決意を持って、3戦目のオーストラリア戦に臨もうとしていた。
 
 初戦の苦い経験が活かされ、心と身体をしっかり整えられた藤谷は、この試合で大きな存在感を放った。立ち上がりから高いポジションを取り、右MFの堂安律と連係を取りながら、崩すタイミングを図っていた。
 
「引き分けでもいい試合だったので、まずは失点をしないことを考えた。なので、最初はクロスも『越えるクロス』を狙っていて、中途半端に上げたり、仕掛けて引っかかって、カウンターを食らうリスクを避けていた」
 
 立ち上がりは仕掛けたらクロスをファーに上げきる。もしくはむやみに仕掛けずに、パスを選択するなど、慎重なプレーを続けた藤谷だったが、相手に生まれる隙を狙っていた。
「相手の守備が引いて、時間が経っても前に出てこなかった。それに相手のSBの対応が悪いと思ったので、チャンスがあれば深いところまで仕掛けていこうと思った」
 
 日本の先制点は、虎視眈々とその機会を窺っていたこの右SBの仕掛けから生まれるのだ。
 そして前半のアディショナルタイムとなる45+1分、MF堂安律からのパスを受けると、「縦に行くフリをして中に仕掛けたら、いけると思った。狙い通りドリブルだった」と、キレのある突破を仕掛け、エンドラインギリギリまで持ち込むと、「自分でシュートという選択肢もあったのですが、ちらっと中を見たら、小川(航基)と(高木)彰人がいたので、パスに切り替えた」と、冷静にマイナスの折り返し。ニアで小川が潰れ、ファーサイドでフリーとなった高木が冷静に蹴り込んだ。
 
 まさに試合前のイメージ通りの崩しが実現。藤谷の積極的な仕掛けから、日本に貴重な先制点がもたらされた。この1点が持つ意味は大きく、守勢に回っていたオーストラリアに大きな精神的ダメージを与えると、直後の45+2分、守備の乱れを突いて小川がPKを獲得し、これをMF坂井大将が決めて2-0と突き放す。
 
 そして最後は71分に小川がPKで追加点を挙げ3-0の勝利。重要な一戦でスコア、内容的にも相手を圧倒した日本は3連勝を飾り、来年バーレーンで行なわれるU-19アジア選手権の出場権を手にした。
 
「オーストラリア戦はリラックスして臨めたと思います。ただ、それを初戦からできるようにしないといけないし、よりプレッシャーのかかる試合のなかで、こういう冷静なプレーができるようになれば良いと思います」(藤谷)
 
 試合を動かしたキーマンは、この大会で確かな成長の跡を示した。そして、この経験をさらなる成長の糧とし、より緊迫感のある試合でも平常心で戦えるように、自らのメンタリティを鍛えていくことを誓った。
 
 この誓いが藤谷をどう導いていくのか。バーレーンで行なわれる来年の本選でのプレーに期待したい。
 
取材・文:安藤隆人(サッカージャーナリスト)