「狂った油」トランス脂肪酸 規制しなくていいのか
心筋梗塞や心臓病との関連が指摘されている「トランス脂肪酸」を含む調理油の使用を、2007年4月末でやめる―米ケンタッキー・フライド・チキン(KFC)は、06年10月30日にこう発表した。米マクドナルドなども民間団体などから批判を受け、使用量を減らす努力をしているが、日本でもすでに「トランス脂肪酸」を無くす動きが企業レベルで始まっていた。
日本ケンタッキー・フライド・チキンはどうなのか。同社広報は、
「日本とアメリカでは使っている油が違っているんです。ずっと研究を続けてきていまして、もともと日本の油はトランス脂肪酸の含有量が低いのです。さらに06年秋から、含有量を半減させた油を使っています」
と説明する。「食の安全と健康」のため、フライドチキンの美味しさを保ちながら、今後は含有量ゼロにまで持っていきたい、としている。
厚生労働省も「危ない油の可能性はある」
食品メーカーも、トランス脂肪酸の含有を低く抑える取り組みが始まっている。らでぃっしゅぼーやでは06年7月に同脂肪酸含有量を1%以下に抑えた(一般的には8%〜15%)マーガリンを開発し発売した。新しいコンセプトのマーガリンを作る企画書が社内に出されたのは06年4月だった。既存のマーガリン製品の製造工程を変え、製品化した。
同社コーポレートコミュニケーション室では、
「アメリカで問題視されるようになり、やがて日本にも規制がかかることを見越して開発に入ったんです」
と、同脂肪酸対策に乗り出した経緯を語った。
対策が民間レベルで進んでいるのに、日本の行政は「危ない油」に対する施策はこれといって取っていない。
厚生労働省はJ-CASTニュースの取材に対し、「危ない油の可能性はある」とし、調査の必要はあることは認める。民間団体などから含量数値を食品に表示するようを求められているのも事実だ。
ただ、厚労省は
「欧米との食生活の違いがあり、日本人は脂肪の摂取量は多くないので、これといった対策はとっていない。もっとも、バランスのよい食事をすることが重要で、(少ないリスクをあれこれ挙げていけば)結局は、食べるものが無くなってしまう」
という。
この考えの根拠になっているのが、04年8月に発表された「米国人のための食事指針案」。同脂肪酸の摂取量は、一日当たりの総エネルギー摂取量の1%未満とする勧告だ。日本人の場合は0.7%程度の摂取だから「合格」というわけだ。
世界各国で使用規制が始まっている
しかし、世界各国はトランス脂肪酸に警鐘を鳴らしている。デンマークでは04年1月1日からすべての食品について、同脂肪酸の含有率を2%までとする制限が設けられ、カナダでは05年12月12日から栄養成分の表示義務化の中に同脂肪酸を加えた。米国では、2006年1月から加工食品のトランス脂肪酸量の表示が義務付けられた。
また、共同通信が06年10月30日に配信した記事によれば、
「米地方自治体で同脂肪酸の入った油の使用禁止を検討する動きが広がっており、外食産業ではKFCに追随する企業が増えそうだ」
「バーガーキングも30日、一部店舗で同脂肪酸を含まない油を試験的に使用すると明らかにした。ウォルト・ディズニーも将来的にテーマパークで提供する食品やお菓子に同脂肪酸入りの油を使わない方針を決めている」
となっている。「摂取注意」ではなく、既に廃絶の動きになっていることがわかる。
「トランス脂肪酸」は「狂った油」とも呼ばれる。油の突然変異のようなもので、食用油を高温で加熱する過程や、マーガリンやショートニングなど植物油等の加工の際、水素を添加した場合などに生成される脂肪酸の一種だ。牛など動物の肉や脂肪にも含まれる。トランス脂肪酸を人が摂取すると、悪玉コレステロールが増加し、善玉コレステロールが減少。大量に摂取すると動脈硬化の原因になり、心臓疾患や発ガンのリスクを高めたり、免疫機能の低下、痴呆の引き金になるとも言われている。