息子と娘に勧めたい「10年後のバラ色職種」
高齢化社会、不安な将来を見越して、安全、安心の「手に職」をつけたいのは誰もが思うところ。石橋を叩いて渡るために必須な職種を徹底取材でレポートする!
■医師は弁護士の倍の収入がある
世の中には多種多様の職種がある。職業選びは難しく、天職だと実感している人は少ないだろう。天職と思っていても時代の波に翻弄されてしまうこともある。それでも、高度な専門知識や技術のある人材は、企業や社会から求められ、資格取得は効果的なアピールだ。とくに国家資格保持者は独立も含め就職に有利となることはいうまでもないが、将来有望な資格はあるのか。
日本最強の資格といわれてきたのが弁護士と医師免許だ。弁護士は法律にかかわる業務のすべて、医師は医療行為にまつわるすべてのものを独占業務として営むことができる。ただし資格取得までには法科大学院や大学の医学部に入学するなど時間と費用を要する。
それでも医師は決してなくなる仕事ではなく、働ける期間も長い。たとえ開業が失敗したとしても、再就職することが可能で、教育資金を投資するだけの価値はある。医師不足はしばらくは続くとみられ、75歳以上の高齢者が総人口の20%を占める2035年には、東京周辺や愛知県、大阪府など人口集中地域では深刻な医師不足が続くと、東京大学医科学研究所の研究グループが2014年初めにまとめている。
医師の収入は厚生労働省調べによると平均年収が1144万円で弁護士の642万円とでは倍近い収入の差だ。
一方、高度な専門性と独占業務のため食いっぱぐれないといわれてきたサムライ(士)業の雄の弁護士は、司法制度改革により人余り状態で、2003年に1万9508人だった弁護士が10年後の13年には3万3624人(日本弁護士連合会調べ)と、1.7倍とうなぎ上りに増えている。それなのに不況の影響で多くの法律事務所が採用を控えてきた。弁護士のヘッドハンティングを手がける西田法律事務所の西田章弁護士が若手弁護士の現状をこう話す。
「大手弁護士事務所のパートナーどころか、事務所に置いてもらえるが固定給や仕事のない“ノキ弁”にもなれずに、司法修習直後に独立する“即独”といった過酷なスタートを切る新人弁護士も増えました。わずかな固定給で事務所の掃除や使いに走る悲惨なノキ弁もいます。過酷な道でも独立を目指す若手弁護士がいる一方で、企業や官公庁へ就職するインハウスローヤーの道を選ぶ新人が増えています」
司法試験に合格後、司法研修所に進まずに一般企業の法務部署に就職する人もいる。日本弁護士連合会は法曹有資格者の活動領域の拡大に向けて、組織内弁護士の普及促進に積極的に取り組んでいる。グローバル化の中で企業の海外進出支援業務やM&Aを手がける国際弁護士として活躍の場もある。
■後見人として期待される司法書士
法律系の資格で弁護士に次いで難しいのが司法書士だ。司法書士は土地や建物など不動産分野や株式会社の設立など商業分野で登記業務を行うプロだ。これまでこの関連の仕事が9割を占めていたが、00年に施行された「成年後見制度」によって業務の幅は広がった。この制度は認知症や障害などで判断力が不十分な人の財産・生活を守るために、後見人が本人の代わりに権利や財産を守ることができる。六本木司法書士合同事務所の横原温幸氏が将来性について話す。
「専門知識を持つ司法書士は後見人として期待される存在です。高齢化社会の影響で、今後一層拡大していくと考えられますが、遺言や相続についての相談業務も司法書士の大事な仕事のひとつです」
また、資格取得後、法務大臣の認定を受けることで、訴訟額140万円以下の簡易裁判であれば、司法書士が法廷での弁論など弁護活動ができるようにもなった。
年々業務範囲が広がりつつあるのが行政書士だ。建設業の許可や自動車登録や車庫証明など官公署提出書類の提出手続きの代理や、契約書などの書類を代理作成するのが主な仕事だ。扱える書類は数千種類以上あり、幅広く活躍でき、消費者相談の増加で、「身近な街の法律家」として活躍の場がさらに広がる可能性もある。が、仕事の減った弁護士など他の士業との縄張り争いが加速する可能性が高いことも確か。
「弁護士は法律の解釈で正しいかどうかを判断します。その結果を法の運用面で、依頼者の人生のどのような幸福に結びつけられるかを考えて行政と折衝するのが行政書士です。私の場合は弁護士と合同して仕事をすることが多いですね」と話すのは行政書士の渡辺政子氏。政府は震災の復興需要や20年の東京五輪の建設需要による人手不足解消に外国人労働者の受け入れ拡大を検討しており、行政書士が得意とする建設業の許可の申請、外国人の在留許可申請などの仕事は確実に増える。
超難関資格では弁護士と双璧をなす公認会計士の仕事は、企業の経営状況を報告する「財務書類」が公正なものか判断する監査だ。対象は資本金5億円以上の企業などと決まっており、監査法人が監査を行う。このため、会計士は大手の監査法人に所属するサラリーマン会計士がほとんど。ところが試験合格者が増えたために監査法人へ就職できずに、資格取得のめどが立たない待機組が多数出る事態になった。資格登録のためには2年間の実務経験が必要だからだ。後は一般企業へ就職するしかないが、認定してもらえる部署に配属されない限り、会計士にはなれずじまいだ。ただ、合格者数は右肩下がり。求人と求職のミスマッチが解消され、景気の回復次第で、人員を減らした監査法人の採用人数も増える。また、開業している公認会計士は、税務業務を中心に仕事をする道もある。
■ニーズが高まる福祉・介護業界
この税務業務で重なるのが税理士だ。会計士と異なり税理士の勤務形態として一番多いのは、自分で開業して事務所を持つ開業税理士で、全体の8割を占めている。国家試験の中でも独立・開業に適した資格だ。
「税理士資格は“一国一城の主”という独立志向の人には人気の資格」と話すのは鎌田税理士事務所の鎌田進氏だ。とはいえ、公認会計士の待機組などからの税理士登録が増える傾向があるのも事実。その動きについて鎌田氏は「税法は加速度的に複雑化しています。税法に長けているとは言いがたい会計士が実務をこなすのは、なかなか難しいのではないでしょうか」と釘を刺す。
15年には相続税の改正が行われ、課税対象者も大幅に増え、高齢化社会で顧客も増えることは確実だ。
高齢化社会の本格化といえば、ニーズが確実に高まる分野は福祉・介護業界だ。今でも求人の勢いはあるが、その介護現場の中核的存在になるのが介護福祉士だ。各種福祉施設で介護の仕事をしたい場合の標準資格といえる。介護福祉士が「上級資格」として目指すのがケアマネジャーで、介護保険の利用者に合ったケアプランを立てるのが仕事だ。
「国際化の波に乗って伸びる資格は弁理士」と話すのは、弁護士で東京リーガルマインド専務の反町雄彦氏だ。
「特許庁に提出する明細書などの法律文書を作成しますが、一刻を争う国際出願の業務にも携わります。メーカーはグローバル展開しており、海外の特許も絡んできます。訴訟になれば海外の弁護士事務所との協力など、これから活躍の場は多くなるでしょう」
さらに知的財産権の資産評価の分野など、知財国家の実現に向けて弁理士が活躍できる場は広がる。
■中小企業診断士は応用がきく資格
「弁護士や公認会計士など超難関資格は勉強に集中しても合格するとは限りません。資格はむしろ自分自身のスキルアップと考え、ビジネスで必要な資格や検定に挑むことを勧めます」とスキルアップやスペシャリストを目指した資格取得がいいと話すのは資格コンサルタントの末木紳也氏だ。
まず一般企業のサラリーマンとして就職するのに最も役に立つ資格として、ユーキャン講座企画部長の初野正幸氏のいち推しはMOS検定だ。「マイクロソフト オフィス スペシャリストのことで、マイクロソフト製品の利用スキルを証明する世界共通の資格です。学生は論文などでワードは使いますが、エクセルはあまり使いません。会社では日常的に使い、業務改善にも役立ちます。取得すればどの企業に就職しても非常に役立ちます」
末木氏が取得を勧めるのはベーシックな3つの資格だ。
「簿記検定2級を取れば、自分の会社の財務諸表が一通り読めて、経営状態もある程度把握することができます。転職にも有効活用できます。ビジネス実務法務検定2級は、問題があれば解決するコンプライアンス(法令遵守)能力が鍛えられるため、社内法律家やトラブル処理のエキスパートとして、社内で重宝される人材になります。販売士検定2級は多様化する消費者ニーズやマーケティングの基礎能力が身につくため、小売業に携わる人にはうってつけの資格です。この資格を持っていると百貨店やスーパーマーケット、専門店などの小売業でも高く評価してもらえます。これらの公的資格はどの業種に就いても通用します」
そして、末木氏と初野氏が口を揃えて勧めるのが中小企業診断士だ。「マーケティングやマネージメントなど学ぶ領域が広く、ビジネスの総合力がつきます。日本版MBAともいわれ、会社勤めでも、経営コンサルタントとして独立する際にも役立ちます」(初野氏)という、どんな職種にも応用がきくビジネス系の資格だ。
末木氏は有望資格として「知的財産管理技能検定とITパスポートは押さえておくといい」と強調する。
「会社が持つ知的財産に関するライセンスのスペシャリストで、今後は商標登録や実用新案などのライセンス事業に携わる企業が増えていくはずですから、持っていると重宝がられます」
ITパスポートは、IT化社会で必須のパソコン技術などIT知識を養い、情報技術の活用にはうってつけの資格。
このほかにも資格は数多くある。取れば必ず仕事がくるわけではないが、将来を見すえた有効活用が大事だ。
(吉田茂人=取材・文)