2000年代で最も衝撃的な事件だった

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 秋葉原通り魔事件で殺人や殺人未遂などの罪に問われ、1、2審で死刑判決を受けていた加藤智大被告(32歳・事件当時25歳)は2月17日、死刑が確定した。2008年6月8日の日曜日、東京・秋葉原の歩行者天国で居合わせた人々を次々にナイフで切りつけ、負傷者10人、死亡者7人を出すという最悪の事件となった。

 前回の記事では、まずか2分間の間で12人を殺傷したことに関して、警察関係者から「あり得ない」という証言などを基に、犯行内容の不自然さを紹介した。また一部で“共犯者”の存在も指摘されていることに関しても書いた。そして残る第二の謎を今回、紹介しよう。

警察は犯行を事前に察知していた?

 第二の謎は、加藤が浴びたとされる返り血の謎がある。

 あの惨劇のニュースを聞いた誰もが、加藤が返り血を浴びたことを“容易に”想像するだろう。だが、ニュースで流れた逮捕時の映像には、逮捕時に転倒した際の血らしきものがみられる(地面にも血が浸みている)が、加藤のベージュのジャケットには返り血がついていない(下記の検証画像参照)。だが、事件翌日の新聞は次のように報道している(一部抜粋)。



検証画像(出典:NNN)

<ベージュのジャケットの胸元は返り血で赤く染まっていたという>(『毎日新聞』2008年6月9日付)

<加藤容疑者は額から血を流し、スーツも返り血を浴びて真っ赤に染まっていた>(『産経新聞』2008年6月10日付)

 他にも細かい謎や疑問点はあるが、事件の様相を意図的に捻じ曲げ、世間をミスリードする狙いがあった可能性もある。

「しかし、まるで加藤以外の人間が現場にいたみたいだな」

 元公安捜査官がふと言葉を漏らした。彼はこの事件のことはニュース以外では知らないと言うが、前述の状況、静止画像やニュース動画、各報道発表や裁判の資料を渡し、吟味したうえで漏らした言葉だ。

「警察のでっち上げ? 軽々しくは言えないが。逆に検証しているものに(こちらが)惑わされている気もするが。ただ、なにか隠れているな……証拠はないがそんな気はする」

 素人が変だと感じているわけではない。30年以上公安という組織に所属し、警察内部の隠蔽や秘匿に詳しい人間が漏らした本音だ。だが、いったい何が隠されているというのか?

「さすがにあれだけの衆人監視の状況で、目撃者の前で加藤以外に別の犯人がいたというのは無理がありすぎる。すべての目撃者を警察側で揃えるわけにもいかないだろうし、余計なネットの書き込みをすべて消すという作業も外国では聞くが、日本では無理だ。そもそもそこまでしてあの事件を起こす理由も見当たらない。つまり、実行者は加藤だが、加藤に指示を出した人間の存在か、洒落にならんが事件が起きるまで放置しておいた可能性がある」

 裏には権力側のなにかしらの意図が絡んでいると?

「一連の情報操作が行われたとすればな。ただ動機が見えない」

 謎はまだある。ニュース配信された衝撃のスクープ映像は、たまたま現場に居合わせた2名の日本テレビのクルーによって撮影されたというが、2分間というとてつもなく短い犯行の現場に、たまたまテレビクルーがいたとすれば、どれだけ日テレのクルーは運がいいのだろうか。そして、逮捕時の私服姿の男性は駆けつけた私服警官だとされるが、2分で現場に到着することなど可能なのか……?

「無理だろう。万世橋署の私服警官だと言うが、加藤を待ち構えていたとしか思えない。そして、テレビ局は事前にリークされていたとしか考えられない」(前出元公安捜査員)

事件後、さまざまな法改正が実施されていった

「現在、ネットでの犯行予告があれば単語を自動で抽出し、分析できるようなシステムが警察にはある。メールを加藤本人が最後まで打っていたのなら、追っていた可能性は高いと思う」

 確かに事件が起きるのを待って逮捕したとなれば多くの謎が氷解する。

 事件後、歩行者天国の中止、監視カメラによる監視強化、インターネットの規制強化、銃刀法の改正(刃渡り5・5センチの剣が原則所持禁止)が実施された。

「その程度の規制をするなら、さすがにここまでの事件は起こさない。もし、警察の演出ならもっと深い理由があるはずだ」

 凶悪な事件や世間が震撼する事件が起きメディアがそれらをセンセーショナルに報道する背後で、重要法案が国民の知らない間に粛々と進められるケースは過去にもあった。秋葉原通り魔事件にもこうした背景があったのではないか。

「ただ、加藤が犯行に及ぶように仕掛けたか、犯行を待ったか何か理由があるのは確かだろう。もしくは被害者のなかに何か理由のある誰かが存在した可能性もあるが……」

 過去の通り魔事件の系譜を紐解けば、大久保清や宅間守の例をみるまでもなく、事件後に世論は大きく動き、それと連動して法整備の動きがあったことはまぎれもない事実である。

 また加藤が“キレる17歳世代”と呼ばれる「酒鬼薔薇聖斗」や西鉄バスジャック事件の「ネオ麦茶」らと同世代であることは意味深だ。加藤を含む3人が起こしたセンセーショナルな事件は結果として、世論を大きく動かし、様々な法整備の動きを加速させた。権力側にとってみれば、法整備のアクションのエクスキューズとして、大いなる貢献を果たしたのが、同世代の3人であり、その3人が起こした事件であったという見方もできる。

 酒鬼薔薇事件や西鉄バスジャック事件と同様、「理由なき犯罪世代」という意味不明な標語によって、加藤の死刑の確定とともに、秋葉原通り魔事件の闇も今まさに葬り去られようとしている(文中、一部敬称略)。

(取材・文/林圭介)