20代:携帯代、自分磨きセミナー……超堅実世代の落とし穴
■Aさんの悩み
AさんはIT企業に勤めるサラリーマン。車は持っておらず、高価な買い物もしない。金遣いは地味なほうで、酒もたばこもやらない。昼食代を浮かすため自分で弁当をつくったり、ペットボトル飲料は買わず水筒を持参したりと節約もしている。
ただ将来への漠然とした不安から、勉強会やセミナーに多数参加している。そのため毎月の給料はほぼ使い切ってしまい、貯蓄が増えていかない。大幅な赤字の月はなくほぼ収入の範囲内で支出は抑えているのだが、ボーナスの一部が貯蓄できるだけで貯蓄額は100万円に届かない。
現在、結婚前提でつき合っている女性がおり、30歳までには結婚したいと思っている。将来は子どもも持ちたいが、可能なのだろうか。さらにその先の老後のこととなると、どうしていいのかお手上げ状態だ。
■家計再生コンサルタント 横山さんのアドバイス
年収380万円は20代では決して低くない。弁当をつくって持っていくほどの倹約家なのに、収入や年齢のわりに貯蓄が少ない原因はどこにあるのか。
まずカットできるのは「通信費」だ。若い世代にはスマートフォンを使う人が多く、通信費が1万円を超えるケースは少なくない。Aさんの通信費の内訳は、インターネットやメールのための光回線、プロバイダ料金などすべて合わせて月1万9000円もかかっていた。
通信費を下げるポイントは、無駄な回線を整理したりネットのプランを見直すことだ。ビジネスマンは家にいる時間が限られている。ネットやメールはほぼスマートフォンですませているというAさんの場合、パソコンのインターネット接続サービスやプロバイダは解約できる。
固定費は一度見直してしまえば毎月確実に減るため、ラクなうえに効果が大きい。ちなみにこれまで約5300人の家計診断をした経験から言うと、「通信費」は20代の無駄な固定費ワーストワンである。
さらにAさんの場合、支出の大きな割合を占めているのが「教育費」だった。不安の裏返しか資格取得スクールや英会話、セミナーなどに通ううちに“自己投資貧乏”になっていたのだ。こういう人はいまの20代に多いが、Aさんの場合は収入に占める割合が多すぎた。将来を考え、勉強熱心なことは悪いことではない。ただ、お金のかけ方のバランスを考えるべきだ。
貯蓄を増やしたいなら何かを捨てることも大切だ。自己投資にも「選択と集中」が必要である。資格取得スクールに英会話とやみくもに通っても、役に立たなければ時間もお金も「投資」ではなく「浪費」になる。英会話が必要でも、何となくスクールに通い始める前に、より安くすむ方法を探してみよう。お金をかけなければ勉強ができないわけではない。
Aさんは「本当に仕事に役立つものに絞る」ことでセミナーの参加回数を減らし、教育費を約半分の1万9000円に落とした。
浮いたお金で生命保険に加入することにした。本人は「将来が不安」と自己投資に励んでいたが、FPの立場からすると「無保険」のほうが心配だった。私は「若いうちには保険は不要」とは考えていない。保険はつき合い方によって「消費」にも「浪費」にも「投資」にもなるものの代表だ。貯蓄性のある保険なら将来への備えになり、それなりの「投資」と考えていい。
Aさんは老後に向けて貯蓄型の保険に加入した。毎月1万円ずつ20年間払い込めば、60歳時点で300万円になって戻るというタイプ。利率は決して高くはないが、確実に60歳時に300万円は確保できることになる。現金での貯金も増やしつつ、強制的に貯金ができる貯蓄型保険に加入することで将来の危険度を下げた格好だ。
さらに、月々3000円の掛け捨て型医療保険にも加入することにした。独身のためまだ死亡保障は必要ないが、医療保障はあったほうがいい。若くて健康なうちは保険料が割安なので、お守りと考えて入っておく。「いま」を安心して過ごすための拠りどころになれば、これもまた「自己投資」といえる。
これで大幅に支出のバランスが改善できた。20代は収入も多くないため大幅に月々の収支を変えることは難しい。メンタルやお金の使い方を改善することで、将来の危険度を下げたい。
Aさんはその後、家計簿をつけることが習慣となり、「こんなところはもっと節約できるのではないか」と熱心に頑張っている。今後、結婚をして子どもが生まれても全く問題はない家庭生活が送れるはずだ。
■世代別「老後破滅」ウイルス&処方箋
●「スキルアップ」過敏症
【症状】頼れるのは自分だけという報道や周囲の雰囲気に過敏に反応し、将来への不安菌が体内で増殖。手当たり次第に勉強を始める。高額なセミナーや英会話教室でも「将来への投資だからOK。無駄遣いじゃないよ」とウイルスにささやかれて参加する。
【処方箋】お金をかければ能力は上がるものではない。本を活用すれば自習は可能だし、セミナーも参加無料のものやネットで視聴できるものもある。賢く探してメリハリをつけることで快方に向かう。
●「ツナガリ」依存症
【症状】携帯がないと落ち着かず、フェイスブックやツイッターを見れば心が安らぐという症状が見られる。幼い頃から携帯を使っていて中毒性も高い。仲間とつながるため、情報収集といっては料金度外視で最先端機器に手を出す。
【処方箋】「大は小を兼ねる」とばかりに、不要なものにお金を使っていないか。まずはネット依存度を客観視することから始めよう。
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横山光昭
1971年生まれ。FPとして司法書士事務所に勤務した後、2001年に独立。5300人以上の家計を再生した実績を持つ。
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(家計再生コンサルタント、ファイナンシャルプランナー 横山光昭 構成=八村晃代 撮影=アーウィン 写真=PIXTA)