アメリカ史上、最も愛された第16代合衆国大統領、エイブラハム・リンカーン。「人民の人民による人民のための政治」という有名なゲティスバーグ演説で有名な、誰もが知っているリンカーン大統領は、これまでさまざまな作品で描かれてきました。映画界の巨匠、スティーブン・スピルバーグは、伝説化されているリンカーンの知られざる真実のストーリーに焦点を当て、激動の時代の中で彼が妻との関係に悩んだり、息子を持つ父親として葛藤したりする姿を、感動の人間ドラマとして描き出しています。


「リンカーン」
 1865年1月、共和党のエイブラハム・リンカーン(ダニエル・デイ=ルイス)が大統領に再選して2カ月。彼が目指す奴隷解放の賛否を巡って起こった、国を二分する南北戦争は4年目に入り、多くの若者の命が奪われていました。リンカーンは、「すべての人間が自由であるべき」だと信じて、自らの夢である奴隷解放を実現するために憲法改正をするべく、<合衆国憲法修正第十三条>を議会で可決しようとしていました。


 しかし、南北戦争が長引く中、味方であるはずの共和党からも、奴隷制を認めて南軍と和平するべきだという声が強くなっていました。リンカーンは国務長官ウィリアム・スワード(デヴィッド・ストラザーン)を介し、議会工作を進めることに。同じ共和党の保守派プレストン・ブレア(ハル・ホルブルック)を使って党の票をまとめても、可決にはあと20票足りません。スワードは票を集めるために、W.N.ビルボ(ジェームズ・スペイダー)をはじめとするロビイストを駆使して、敵対する民主党議員の切り崩しにかかります。


 そんな中、混乱した下院の討議で、ピリ辛でウィットに富んだ皮肉を交えながら、重要な意見を述べる存在となっていたのは、奴隷制の完全廃止を推進する共和党急進派のタデウス・スティーブンス(トミー・リー・ジョーンズ)。彼はリンカーンの動きを冷静に見つめながらも、リンカーンがどこかで妥協するのではないかと考えていましたが、スティーブンスにはどうしても奴隷制を廃止させなければならない、ある事情がありました。


 一方、リンカーンの妻メアリー・トッド(サリー・フィールド)は、幼い息子を亡くした心労と、長男のロバート(ジョゼフ・ゴードン=レヴィット)をどうしても戦争に行かせたくない一心で、夫に不満をぶつけることが多くなっていました。強い口調で夫を責めることがあっても、心の底ではいつも彼を信じているメアリー。彼女は、リンカーンが必ず世界を変えると信じていたのです。



 1月25日、下院議会に<合衆国憲法修正第十三条>を提出したリンカーン。彼が静かに結果を待つ中、議会で採決が行われます。果たして、多数派工作は成功したのでしょうか……?

 リンカーンに大きな影響を与えたメアリー・トッド・リンカーンは、政治的影響力を持ったケンタッキーの富裕な家庭に生まれました。夫と同じぐらい複雑な人物だと考えられており、口やかましい女性と言われていたメアリー。難しい結婚生活を強いられ、夫婦仲が良好とは言えないこともあったそうですが、聡明で不屈の闘志を持ったリンカーンを常に支え、励ましてきた妻メアリーなくしては、リンカーンは偉業を成し遂げられなかったのではないでしょうか。2度アカデミー主演女優賞を受賞したサリー・フィールドが、入念なリサーチのもと、彼女を熱演しています。


 印象的な容姿のリンカーンに見事になりきり、抑えた演技で、感情をあまり出さない内省的な男性像を存在感豊かに表現したのは、リンカーン役で3度目のアカデミー主演男優賞に輝いたダニエル・デイ=ルイス。彼は役に入り込むたびに、普段の彼とは全くの別人になってしまうのだとか。デイ=ルイスはアカデミー賞の受賞スピーチで「16年前に結婚したが、妻は“奇妙な男たち”とうまく暮らしてくれた」とユーモアを交えながら、妻に感謝を述べました。その姿は、とてもほほ笑ましかったです。



 スティーブンス役のトミー・リー・ジョーンズの演技力も本当に素晴らしく、スティーブンスが奴隷廃止を切望する理由が分かったときは心が震えました。缶コーヒーのCMでは決して見られないジョーンズの名演技をぜひ見てほしいです。


 本作を見るまでは、リンカーンの妻の存在を意識したことはありませんでしたが、偉大な男性の陰には、必ずと言っていいほどその男性を支えた女性がいますよね。女がいてこそ歴史は動く。そう思いませんか?

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「天地明察」


 「おくりびと」の滝田洋二郎監督が、本屋大賞第1位の、冲方丁によるベストセラー小説を映画化。実在の人物、安井算哲(後の渋川春海)の波瀾万丈の人生を描く時代劇。将軍に囲碁を教える名家の息子として生まれ、学問への造詣も深い安井算哲(岡田准一)。若き将軍・徳川家綱の後見人である会津藩主・保科正之(松本幸四郎)は、そんな算哲に新しい暦を作るよう命じる。江戸前期、800年にわたって使われていた中国・唐の時代の暦がずれ始めていたためだ。算哲はこの大事業に戸惑いながらも、数々の挫折にも負けず、持ち前の誠実さとひたむきさで果敢に立ち向かっていく。途方もない時間がかかる暦作りに没頭する算哲を待ち続け、陰ながら支える妻えんを宮崎あおいが好演している。

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「ビューティフル・マインド」


 ノーベル経済学賞を受賞した実在の天才数学者ジョン・ナッシュの数奇な人生を映画化し、2001年度アカデミー賞で主要4部門を受賞したヒューマン・ドラマ。冷戦下のアメリカで、ナッシュ(ラッセル・クロウ)は研究に打ち込むあまり、精神が極限状態に追い込まれていく。彼は壊れそうになる自分と闘いながら、数学的真理、愛、そして、本当の自分の心をいつも探していた。夫ナッシュを献身的な愛で支え続ける妻アリシアを演じたジェニファー・コネリーは、本作でアカデミー賞助演女優賞を受賞。統合失調症に苦しみ、幻覚や幻聴に悩まされる夫をサポートするアリシアの姿は、言葉では言い表せないほど感動的で素晴らしい。

2001年/アメリカ/ラッセル・クロウ、ジェニファー・コネリー
パラマウント ジャパン/Blu-ray2500円、DVD1500円/発売中