あれから9年──。ミスターが脳梗塞で倒れて以来、いまだに続けているリハビリは想像を絶する過酷さだった。これまで公開されることはなかった衝撃映像が、なんとBS番組で放送されたのだ。スーパースターには不似合いなほど痛々しい姿ながら、不屈の精神はなお健在だったのである。

「イーチ、ニーイ、シャーン、シーイ、ゴーオ‥‥」

 都内のリハビリ施設で、巨人・長嶋茂雄終身名誉監督(77)が、必死に息を吐きながら言葉を発している。

 麻痺した右半身を動かす、「スパルタ」と呼ばれるレベルの壮絶なリハビリ現場である。

 04年3月4日、脳梗塞の中でも、心臓にできた血栓が血流に乗って運ばれ、脳の血管を詰まらせる心原性脳塞栓症に襲われたため、長嶋氏には右半身の麻痺と言語障害が残ったのだ。

 ジャージ姿でベッドに横たわった長嶋氏が、顎を引いて、苦痛に耐えながら、右腕、右脚と、可動域を確保するリハビリに必死で取り組む姿は、まさに鬼気迫っていた。

「サン」が「シャン」になってしまう歯がゆさ、そして枝のようにやせ細った腕‥‥。長嶋氏本人の心情はいかばかりか。

 3月10日、BSフジのドキュメンタリー番組「長嶋茂雄がここにいる〜今、日本人に伝えたいこと」でこんな衝撃映像が放送されたのだ。

 今回、長嶋氏のリハビリの様子を独占初公開した番組の放送前に、総合演出を担当した鈴木カッパ氏はこうコメントしている。

「倒れるまでの15年間、長嶋さんを取材してきた自分が、病気で倒れられてから、正直、カメラを向けてはいけないと思っていた。しかし、今回、久しぶりに取材して感じたのは、昔とまったく変わらず、明るく、前向きで、愚痴を決して言わない、ファンを喜ばせる元気な長嶋茂雄でした」

 スポーツ紙のプロ野球担当記者が、長嶋氏が倒れた当時を振り返って語る。

「一報が入った日は、深夜2時まで巨人の球団事務所に詰め、翌日からは、入院していた東京女子医大での取材でした。厳重な警備の中、ミスターは3週間で退院しましたが、入院の様子は球団広報が出す情報以外は全てシャットアウト。退院後も、ミスターの人徳によって、各社が暗黙の了解で取材を控えてきました。ですから、今回放送された映像は、とても貴重なものです。私も視聴して、思わず『そうだったのか』と、闘病生活の真実に涙ぐんでしまいました」

 現在の長嶋氏は、

「これはリハビリじゃない。筋トレなんだ」

 と言い張り、毎朝45分の散歩と、40分の“筋トレ”を日課にしているという。

 しかし、こんな前向きな虚勢を張れるまでには、険しい道程をたどったのである。