消費税アップ前に家を買うとなぜ損をしがちか

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8月の参議院本会議で消費税法案が可決され、消費税の増税が決定した。これにより現行5%から2014年4月には8%、15年10月には10%へと2段階で引き上げられることとなった。

マイホーム購入には数千万単位のお金が動く。単純計算すれば数%のアップでも数十万〜数百万という金額になるため、「増税前に買ったほうがいいのか」と迷う人もいるはずだ。

では、住宅購入の際、具体的にどう消費税の影響を受けるのかを考えてみよう。そもそも、購入時に支払う金額すべてに消費税がかかるわけではない。住宅の場合、土地については課税対象外となるからだ。たとえば、土地3000万円、建物2000万円の新築一戸建てを買うのであれば、課税されるのは建物分の2000万円のみ。増税前は100万円だった消費税額が、税率8%になると160万円に上がるという計算になる。

新築マンションでは少し計算が複雑になる。マンションの土地代は敷地利用権と呼ばれ、物件の総戸数で持ち分が変わるため、総戸数が多いほど物件価格に占める土地代の割合は少なくなる。タワーマンションでは物件価格の7〜8割が建物代といわれ、増税の影響も大きくなる。

中古物件については、所有者によって課税されるかが決まる。個人が所有している物件を買うのであれば消費税はかからないが、不動産会社が買い取り再販売している場合には新築同様に建物分に消費税がかかる。また、仲介手数料も課税対象になることを頭に入れておきたい。

もう一つ、注意したいのは契約と引き渡しのタイミングだ。住宅の場合、引き渡し時点での消費税率が適用されるため、仮に今、契約をしても引き渡しが14年4月以降であれば8%が課せられることになってしまう。そうした不利益がないよう経過措置が取り入れられているのだが、この対象になるのは新消費税法が施行になる半年前、つまり13年9月30日までに契約した物件に限られる。もし、消費税の負担増を回避したいのであればそれまでに契約するか、増税前に引き渡しされる物件を選ぶことが条件になる。

しかし、これらの条件以上に考慮すべき点がある。それは住宅価格そのものの動きだ。1997年に消費税が3%から5%に上がったときは増税前の駆け込み需要が増え、それによって住宅価格が急騰した。

「東京カンテイ」の調べでは、増税決定から施行までの2年間で首都圏の新築マンションの平均価格は1戸当たり4%も上昇。増税分を上回る額が価格に上乗せされた。ところが、増税後は一転、市場が冷え込み、価格も下落。01年までの4年間で1戸当たり平均485万円の値下がりがあったとされている。

たとえば、敷地権と建物の比率が3対7の4000万円の物件なら、2%の増税分は56万円にしかならず、値下がり額から差し引くとその差は400万円以上。慌てて買った人は高値づかみしたことになる。

もっとも、今回はこうした駆け込み需要や反動は起こらないのではないかと私は考えている。前回と比べて給与所得は20%近く落ちており、慢性的なデフレの現在、“増税特需”を生み出すパワーが市場にはないからだ。当時より持ち家志向も薄れている。不動産業界も、ニーズが高いエリアを除き、強気のセールスはできないのではないか。

また、増税後の落ち込みについても、前回は世界的な金融危機、所得税特別減税の廃止などさまざまな要因が背景としてあった。とすれば、今回、同様の下落が起こるとは考えにくい。大きな買い控えが起きれば景気の停滞につながるため、増税分が取り戻せるなにかしらの優遇措置が講じられる可能性も高い。

いずれにせよ、増税という理由だけで家を買うのは本末転倒であることは確かである。

不動産コンサルタント、さくら事務所代表 長嶋 修 構成=上島寿子)