自衛隊や国防総省の訓練用のゲーム、ウォーゲーム業界の内幕あれこれ
ジェイブレインホールディングスの蔵原大氏が「いろいろいいネタを仕入れてきた」と前置きした上で、自衛隊や国防総省の訓練用のゲームであるウォーゲーム業界の内幕を語りました。
これからのシリアスゲーム開発:海外政府機関におけるB to Bゲーム(ウォーゲーミング)開発の実際
どうもどうも、これから講演することになりました、ジェイブレインホールディングスの蔵原です。よろしくお願いします。コアな話はこっから始まるんですよ!大丈夫!今日はいろいろといいネタを仕入れてきましたので、みなさんに楽しんでいただければと思います。
今日やる話をまとめます。今回はウォーゲームの中でも、官僚機構とか防衛産業で使われている、M&S(モデリング&シミレーション)と言われているものを扱っていきます。「M&Sって何?」という話はあとでちゃんとしますが、これが実際に商品として売れていて、どういう過程で作られていて、誰が利用しているのかについても説明します。もしかしたらみなさんの中にはM&Sを作っている方、作りたいなぁと思って誰かに売り込めればいいなぁと思っている方もいらっしゃるかもしれないので、その辺のアイディアもご説明します。どうやったら受注できるのかというノウハウもご説明したいなと。
まず、M&Sって何ですか?ということでつらつら書きましたが、文字で書いても分からないのが世の常なので、百聞は一見にしかず。アメリカ国防総省が出しているマスタープランというものに、M&Sについての基本的な概念があるんです。
これは今、アメリカ軍で実際に使われている、M&Sです。ヘリコプターのウォーゲームですね。下枠がゲームの中のヘリコプター、右上は実際にゲームをプレイしている人間。彼からはこういう風に見えているというのが、左上です。M&Sの最大の特徴は、物事を現実的に表現しつつ、現実の訓練よりも安く、効率的に訓練できることです。
具体的に、M&Sと遊びのゲームとは何が違うのか?自衛隊とかにM&Sを納品しているリアルビズさんという会社にインタビューしました。まず、自衛隊では実際の戦争を再現する。エンターテインメントは映画とかSFとか、現実にないものを再現する。とはいっても、ココが重要なんですが、基本は同じ方法論、技術を使っているので、本物かどうか見分けがつかない場合は、シリアスとエンターテインメントを区別する必要はないんじゃないのというのがリアルビズさんの考えだったそうです。
M&Sの歴史は細かくなるので割愛しますが、簡単に言うとデジタルが出てくる前の時代、19世紀からボードゲームとしてありました。ボードゲームやったことある人ってどれくらいいます?あ!結構いるいる!皆さんはそれを通じて、M&Sを知らないうちにやっています。それから2世紀経ちましてコンピューターが出てきますと……
いきなりこんなかたちに進化しています。これは先月CEDECでご挨拶させてもらった三上浩司先生から「俺、5億かけてこんなゲーム作ったんだけど、いろいろあって表に出せないから、よいしょして出してよ」と言われて画像をもらいました。余計な話はこれくらいにして……
現状の話です。左の画像はさきほどの動画を切り取ってきたもの。右はアバターです。アバターはモーションキャプチャ―という人間の動作を画面上に映す技術を使っているんですが、これ、M&Sでも非常に重要な技術です。さきほどの動画で、プレイヤーが機関銃を動かすとゲームの中でも動くというのは、まさにモーションキャプチャ―の延長です。
これ、自衛隊の報告書の中にあったんですが、簡単に言うとですね、アメリカ軍でもそうなんですが、軍隊の訓練を安く効率的にするために、訓練用のツールを作るのをやめて、市販のゲームを持ってきたほうが早いんじゃないの?ということです。民間に委託したほうが安いし面白いじゃないですかと。
そうするとどうなるのか。右側の画像は、あんまり大きな声では言えないんですが、中国のサイトにある日本人をたくさん殺すことができるゲームです。抗戦オンラインと言うんですが、知っている方?おお!いるな!さすがセデック!「抗戦オンライン 日本人皆殺し」などと探せばたぶん出てくると思います。で、こういったものを含めてM&Sの市場規模はどのくらいなのか?
はっきり言ってわかりません。分からないじゃ答えにならないので、一応概算として。世界ゲーム市場の規模は、2009年段階で9兆円と書きましたが、これ、韓国政府が言っているもので、今後の韓国のゲーム産業やデジタル産業を振興する中で、韓国側としては9兆円と考えているみたいです。ちなみに、オンラインゲームでは今、韓国はシェアの20%を占めていると韓国が言っています。左画像のアメリカズアーミ―も、公的には40億かかっていると言われている。また、M&Sを実際に作っている国防総省のMSCOという機関があるんですが、公式では年間予算で10億ドル(800億円)となっています。ただ、この辺の数字はほんとかどうか分かりませんが、市場が膨らんでいるということは感じてもらえるんじゃないかと。
我が国も色々やっています。左の画像はコナミさんが国連の世界食糧計画の委託で作ったFOOD FORCEというゲームです。注目は右の「財務大臣になって予算を作ろう」というゲームです。ここに財務省の方いますか?いたら正直に手を挙げてください。財務省さんとは仲良くしたいので……。このゲームは、厳しい日本の財政をプレイヤーとして改善したら面白いんじゃないかという趣旨です。
大臣の名前を入れてプレイすると……まぁ、今、日本の財政が厳しいということをゲーム上で表現してるだけなんですが、社会保障が馬鹿高いんですね(左枠内)。それで、ある処理をして税金をほにゃららして年金をカットすると……
目標達成しましたという画面になりました。目標達成すると国民が喜ぶんですね。税金上がって喜ぶ国民は少ないと思うんですけど、このゲームだと喜ぶ。何を言いたいのかと言うと、軍隊で使われていたM&Sが今や政府の広報として使われているんです。言いたいことは、BtoBでもてはやされてきたM&SがBtoCという形で普及している時に、こういうようなプロパガンダとして使われているんじゃないかという疑惑は非常に大きいということです。
今度は学術の話をすると、学術の領域でもM&Sに関する本を書いて、歴史教育に使おうという奇特な方がいます。写真はイギリスの大学で実際に使われているロストバトルズという本です。日本でも東大や秋田大学でこういったことが行われているはずです。この辺は今後開拓の余地があるなと。
言いたいことは、シリアスとエンターテインメントを区別する時代は終わりましたということです。あと、経済産業省のメディアコンテンツ課にクールジャパンに関して取材をしてみたら、ゲームやアニメを区別するんじゃなくてコンテンツ産業として考えていると言う話でした。ただ、コンテンツ産業は他国に輸出することもあり、それを文化侵略としてとらえる国もあるので要注意ですと。必ずしもクールジャパンが栄えることが国益に直結する訳じゃないという話になりました。
今回はビジネス寄りの話をしようと思うので、先ほど登場したリアルビズさんの話をしたいと思います。自衛隊と取引をしているリアルビズさんは、割とミリタリーに直結するところが多い。では、リアルビズさんは例外なのか?
リアルビズさんはあくまで氷山の一角で、例えば、ブレークアウェイ社という会社があります。アメリカの表向きはエンターテインメントを謳っている会社です。シド・マイヤーズ シヴィライゼーションを作った会社です。そのかたわらで、国防総省のM&Sを作っていたりする。言いたいことは、エンターテインメントの技術がシリアスの軍事や政治の世界で使われているということです。エンターテインメントとシリアスを同じ土俵で考えて、情報交換していくのは当たり前になっています。
ここからは私の持論です。こういう産業で生き残るためのコツをまとめました。一番上の長期にわたる信用というのは、官公庁や大学は信用問題を非常に気にするので、長期にわたって信用が維持されているのかということ。例えば、中国などから資金援助があると、防衛省からは目くじらがいっぱい立ちます。
次に情報セキュリティ。M&Sは兵器や国防の作戦に直結しているので、そういう機密を扱えますかということ。
技術は?というと、技術は技術者を持ってくればいい話なので、今のところそれほど重視されていないと思います。むしろセキュリティや安全保障についてどう考えているか。
リアルビズさんに話を聞いたところだと、防衛産業については基本的に自国の企業がM&Sを引き受けると。機密を他国へ輸出されると困りますからね。
国外の企業が受けると法律に抵触するそうです。
じゃあ、こういう企業を立ち上げるにはどうすればいいのか?2番目の当該省庁の出身者を集めるというのは、官公庁の文化とか周辺情報に詳しい人を仲間に加えるほうが早いということです。暗黙知と書いていますが、セキュリティの部分など公開されない情報を得るということにもなります。
最後に防衛関係のM&Sに参入するには、こういう条件が必要です。入ってどうなるの?ということをあえて言うと、信用がつくし、独占に近い状況を作ることができる。ここに書いたことは、やるとなると非常に難しいので、ここまでできると一目置かれるという感じですね。
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