(C)森本高史

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第一回第二回第三回第四回

――ところで、フィリピン人と仕事するのはなかなか大変みたいですね。森本さんのtwitterには「フィリピンでの仕事はストレスばかりが溜まる。蒸し暑いし、交通渋滞。時間が守られないし、責任感のない人が多い。カオスそのもの」といったコメントもありました。

森本 フィリピン人は、友達としては最高ですよ。明るくてフレンドリーで、優しい。ただ仕事となると僕は全力投球なので、「フィリピン人だから怠け者でいい」ってことにはならない。ジョルジェビッチも言っているけど、「24時間体制でやらないとダメだ」と。でも、彼らは休みをほしがる。

 人としてはいいんですよ。日本だと不景気だって悩んでいるけど、向こうに行けば悩んでいる人なんていなくて、みんな笑顔です。だけどサッカーは真面目、シリアスじゃないと発展しないから。

――東南アジアはそのあたりが難しいんでしょうね。統計では5億8,100万人ほどがいるそうですが、10年ぐらい前に「東南アジアをカバーできればビッグビジネスになる」という話を聞きました。しかしこの10年で、サッカー界において東南アジアはまだそこまでのビジネスには至っていません。

森本 ただ、10年やれば変わっていくと思うので。怠け者で期限を守らなかった、といったことがあればどんどんクビにしていく。そういうことをやり続ければ、人間変わっていきますよ。

 例えば大統領を警備するSPがいますよね。彼らがサボって、大統領を守りきれなかったら? 間違いなくクビになりますよね。それと一緒ですよ。ああいう人たちは、サボらないわけです。ああいう国で大統領が暗殺された、ってあまり聞きませんよね? なぜなら、きちんと警備体制ができているからです。

――きちんとマネジメントをすれば真面目に働くんだと。

森本 同じようにマネジメントをやれば、成功するわけです。ガンバ大阪でプレーして現在中東にいるマグノ・アウベスが言っていたけど、「『中東の人間は時間を守らない』というが、それは違うんだ。確かに待ち合わせの時間は守らない、給料を払わないこともある。だけど礼拝の時間は遅れないだろう? 6時のお祈りを6時半にする人なんていない」と。

――守るべきことは守るんですね。

森本 国王の誕生日だって、忘れる人はいないわけです。「なぜお祈りする時はきちんとやってるのに、他のときはそうではないのか、おかしいじゃないか」と言っていましたね。

――マネジメント力が試される環境ですね。

森本 リーダーに求められる資質ですね。「あいつらは怠け者だ、仕事しない」ではなくて。オシムが言っていたけど、「ジェフの選手に文句を言うことは、自分に文句を言うのと同じだ」と。まさしくそれですよ。部下の文句を言うのは、「自分はできない男だ」と公言していると同じですよ。

――この間、チョウ・キジェ監督(湘南)のマネジメント力が素晴らしいとtwitterでお書きになっていました。今のJリーグで、他にマネジメント力が素晴らしいと思う監督はいますか?

森本 今のJリーグにはいません。岡田武史監督と西野朗監督ですね、この2人です。彼らに共通しているのは、Jリーグで結果を残していること。そして、「サッカーに正解はない」ということでいろんなことを吸収していること。

 岡田武史監督は問題も抱えているかもしれないけど、常に反省していろんなものを取り入れている。コンサドーレ札幌時代に「エメルソンに頼りすぎた」と言われたけど、でもエメルソンに頼らないサッカーって何だと。

――あれほど突出した選手がいれば、使うだろうと。

森本 コンサドーレ札幌も厳しい戦いが続いているけど、J2からJ1に上がって1年は残留させた。2010年南アフリカワールドカップについても、「内容がない」とか言われたけどワールドカップは品評会じゃない。結果が全てです。僕は結果至上主義者ですしね。

 西野監督の場合、「どの代理人が連れてきた」とか関係なく、良い選手を重用して悪い選手は切る。主力選手との対立も起こったりするけど、そこは曲げない。ガンバを知るある人が言っていたのは、「西野朗は人間としては嫌いだが、彼が残したものは素晴らしい」と。

 この2人が素晴らしい。この世界で同じチームで10年やる、というのはなかなかないこと。岡田監督は中国に行って、年俸も2億円近くもらっているはず。海外のチームに2億円払わせる、というのは容易ではないですよ。

 極端な話、ミハイロ・ペトロビッチやオシムのクラスじゃないとそういうお金は出ません。フランク・ライカールトはいまサウジアラビアで監督をやっていますけど、岡田監督は彼らと同じような評価を受けているということです。それは、素晴らしいと思います。

 ただ、2人ともJリーグではないんですよね。ひょっとして、そういうタイプの指導者はJリーグには合わないのかもしれない。

――岡田さんは、タイのチョンブリからも年俸1億円でオファーを受けたという報道がありましたね。

森本 でも1億円でしょう? 僕は杭州緑城の2億円が適正価格だと思うから、1億円では安かったと思う。安売りする人材ではないから、1億円ではダメですね。むしろ3億円を積むべきだったとさえ思う。

 プロたるもの、安易に値引きしたらダメなんです。売り出し中のグラビアアイドルではなく、岡田監督はワールドカップベスト16の監督なんだから。そういう意味でリスペクトしています。

 西野監督も、日本という限られた場ではなく世界に出ていくべきだと思うので。日本人がカタール代表監督やバーレーン代表監督になる、そういう時代が来るのかなと。ACLも制覇し、クラブワールドカップにも出ているわけですから。

――本日は、興味深いお話をありがとうございました。


<この項、了>


森本高史(もりもと・たかし)
1978年10月東京都生まれ。東欧やアフリカ、中東といった地域に強いフットボールジャーナリスト。語学堪能で、英語、フランス語のみならず、スペイン語やポルトガル語、ドイツ語も操る。2009年11月、モンゴルでFCデレン墨田を立ち上げU-13、U-10のカテゴリーで選手育成に力を注ぐと共に、モンゴルの慢性的問題である貧困解決や子供の教育問題にも貢献することを目指して活動中。2012年1月、フィリピンサッカー協会テクニカル・コンサルタントに就任。
●Twitter:http://twitter.com/#!/derensumida2009
●デレン墨田公式ブログ:http://fcderensumida.blog.fc2.com/