【世界のモバイル】モバイルブロードバンド(HSDAP)が実現するメーカーの海外進出
韓国の携帯電話市場シェア2位のKTFは、同社のHSDPAサービスの加入者数が500万人を突破したと発表した。シェア1位のSK Telecomとあわせると韓国のHSDPA利用者数はまもなく1,000万に達する勢いだ。今後も同方式はシェアを伸ばしていくことが予想されるが、これは同時に韓国メーカーの海外市場進出を強力にアシストするものになりそうだ。
■CDMA2000からHSDPAへの移行が進む韓国
韓国にある3つの携帯電話事業者はこれまでCDMA2000方式でサービスを提供してきたが、2006年からSK Telecom、KTFの2社が相次いでHSDPA/W-CDMA方式の提供を開始した。当初は端末の数が1-2機種とわずかであり、利用エリアもソウルなど一部エリアだけだったため加入者は全く増えず、サービスイン後もしばらくは利用者数が数万人程度程度という状況が続いていた。しかし2007年からサービスエリアを順次韓国全土に広げ、対応端末も大幅に増えたことからHSDPA利用者数は順調に増えている。
現在、SK Telecomは“T 3G+”、KTFは“Show”と、それぞれNTTドコモの“FOMA”のようなHSDPAサービス固有のブランド名をつけて消費者に浸透を図っている。特にKTFは販売店の表示からKTFの名をはずし「Show」のロゴを大きく掲げるなどHSDPAの普及に大きな力を入れている。また事業者が発行する端末カタログを見ても主力はHSDPA/W-CDMA端末であり、従来のCDMA2000対応端末は徐々に扱いが小さくなってきているようである。
■韓国と海外に同一モデルを同時期にリリース
このようにHSDPAサービスの普及が進む中、韓国内で販売されている端末には一つの特徴が目立つようになってきている。それはSamsungとLG電子の端末に、韓国以外の海外で発売されている機種と全く同一のモデルが増えてきていることだ。もちろん対応言語やコンテンツアクセスボタンの表示など細かい仕様は異なるが、本体サイズやコネクタ形状など外観に相違が無く、基本的な仕様は同じものとなっているようである。
これまでも韓国メーカーは国内で販売しているCDMA2000端末を海外向けに仕様変更してリリースしてきた。しかし通信方式をGSM/W-CDMA/HSDPAに変更する必要があるため、見た目はそっくりでもサイズが若干異なったり、韓国内でヒットしてから海外市場へ投入するため時期が大幅に遅れることもあった。しかし現在は同一通信方式の端末を国内外に投入できることから、基本仕様が同一の端末を韓国と海外でほぼ同時期に発売することが可能になっているわけだ。
特に海外では日本や韓国ほど事業者固有のコンテンツサービスは普及しておらず、WAPやMMSといった共通規格をベースとしたサービスが一般的である。おサイフケータイのような専用ハードウェアを利用するサービスも少ない。このため3G/GSMの基本仕様に則った端末であれば全世界に販売することが可能とも言える。最近は海外でもフルブラウザを利用するモバイルインターネットサービスが盛んであることから、高速パケット通信に対応してPCサイトがきちんと閲覧できるフルブラウザ搭載という要求が多くなっているが、韓国メーカーならば対応端末を作ることはお手のものである。
このことは、Pantechを買収したSKYやKTF傘下のEVERなど、これまで海外の3G市場に本格参入していなかった韓国メーカーにも海外進出の機会を与えることになりそうだ。事業規模から自社CDMA2000端末を海外向けにモデファイする力がなかったこれらのメーカーも、国内向けに開発したHSDPA端末を若干の仕様変更だけで海外市場に投入することが可能になるからだ。このように韓国内のHSDPA化は韓国メーカーの海外進出を強力にアシストするものになりそうなのである。
■日本メーカーの活路は次世代携帯電話サービス開始時期か
日本は今や世界でも有数の3G大国だ。しかし最近は国内メーカーの撤退が相次ぐなど海外市場を視野に入れるどころか、事業そのものの見直しを図るメーカーも出てきている。
海外市場が3G化を進める中で、日本メーカーはなぜ海外に出て行かないのだろうか? 「海外ではローエンドが売れ、日本のハイエンド端末は売れない」と言われるがこれは間違いである。海外市場でもアーリーアダプターなどはハイエンド端末を購入し、毎年数機種を買い換えている。先進的な端末であれば購入する層は海外にも多数存在しているのだ。そうでなければiPhoneが販売国以外でも大きな注目を浴びている説明がつかないだろう。
すなわち日本メーカーが海外に出て行けないのは「日本の端末がハイスペックだから」という単純な理由ではない。
韓国メーカーの海外進出と比較してみると、日本の携帯ビジネスモデルにも問題があるだろう。韓国では携帯メーカーが各事業者に供給する端末は基本的に同じベースのモデルである。仕様を事業者別に若干変更はするものの外観などは同じ設計のモデルが提供されている。日本の「事業者別に全く異なるモデルを作る」ビジネス展開は行っていないわけだ。このためHSDPA端末を韓国内に投入すれば、同様に「若干の仕様変更」で同じモデルを海外向けにリリースしやすくなる。
一方日本では各メーカーが各事業者ごとに異なるモデルを投入している。同じW-CDMA規格を採用しているNTTドコモとSoftbank向けでもハードウェア設計が大きく異なるモデルを開発している。すなわち日本国内だけでも全く仕様の異なるモデルを事業者別に多品種投入しているのが今の日本の姿だ。
これでは日本メーカーが海外に出ようとしても、海外向けにはハードウェアやデザイン設計をやり直したモデル開発の必要が出てきてしまう。韓国のように「韓国と世界で通用するモデル」を開発し、国内と海外にタイムリーに発売することは難しいのだ。日本メーカーの中でもシャープが日本と海外で同一のモデルを投入しているが、その数はわずかだ。日本で話題のプレミアモデルやインターネット端末などをそのまま海外に販売できないのが今の日本のビジネスモデルなのだ。
総務省によると次世代携帯電話サービスでは通信方式を統一し、端末に互換性を持たせる予定だという。これにより事業者を越えて同じ端末を使うことが可能になりそうである。そうなれば日本メーカーも事業者別に異なるハードウェアを開発する必要が少なくなり、海外へも同一モデルを即座にリリースすることが可能になるであろう。ただし次世代携帯電話サービスの開始までにはあと数年はある。それまでに日本メーカーが海外進出できるだけの体力を残しておけるかどうかは未知数といえよう。また日本と同じモデルを海外にリリースできるということは、逆に海外メーカーが日本市場により参入しやすくなるという意味でもある。日本メーカーにとっては競争がより熾烈になるわけだが、それがよい製品を生み出す原動力になることを期待したいものである。
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山根康宏
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■CDMA2000からHSDPAへの移行が進む韓国
韓国にある3つの携帯電話事業者はこれまでCDMA2000方式でサービスを提供してきたが、2006年からSK Telecom、KTFの2社が相次いでHSDPA/W-CDMA方式の提供を開始した。当初は端末の数が1-2機種とわずかであり、利用エリアもソウルなど一部エリアだけだったため加入者は全く増えず、サービスイン後もしばらくは利用者数が数万人程度程度という状況が続いていた。しかし2007年からサービスエリアを順次韓国全土に広げ、対応端末も大幅に増えたことからHSDPA利用者数は順調に増えている。
KTFの店舗。KTFの表示はなくShowの表示が大きく掲載されている。このため韓国人の中には「ShowはKTFではない」と勘違いする人もいるようだ | KTFのカタログ。表紙は全て主力のHSDPA端末であり、CDMA2000対応機は30ページ中の最後にわずか4ページ分が割かれているだけだ |
■韓国と海外に同一モデルを同時期にリリース
このようにHSDPAサービスの普及が進む中、韓国内で販売されている端末には一つの特徴が目立つようになってきている。それはSamsungとLG電子の端末に、韓国以外の海外で発売されている機種と全く同一のモデルが増えてきていることだ。もちろん対応言語やコンテンツアクセスボタンの表示など細かい仕様は異なるが、本体サイズやコネクタ形状など外観に相違が無く、基本的な仕様は同じものとなっているようである。
これまでも韓国メーカーは国内で販売しているCDMA2000端末を海外向けに仕様変更してリリースしてきた。しかし通信方式をGSM/W-CDMA/HSDPAに変更する必要があるため、見た目はそっくりでもサイズが若干異なったり、韓国内でヒットしてから海外市場へ投入するため時期が大幅に遅れることもあった。しかし現在は同一通信方式の端末を国内外に投入できることから、基本仕様が同一の端末を韓国と海外でほぼ同時期に発売することが可能になっているわけだ。
特に海外では日本や韓国ほど事業者固有のコンテンツサービスは普及しておらず、WAPやMMSといった共通規格をベースとしたサービスが一般的である。おサイフケータイのような専用ハードウェアを利用するサービスも少ない。このため3G/GSMの基本仕様に則った端末であれば全世界に販売することが可能とも言える。最近は海外でもフルブラウザを利用するモバイルインターネットサービスが盛んであることから、高速パケット通信に対応してPCサイトがきちんと閲覧できるフルブラウザ搭載という要求が多くなっているが、韓国メーカーならば対応端末を作ることはお手のものである。
このことは、Pantechを買収したSKYやKTF傘下のEVERなど、これまで海外の3G市場に本格参入していなかった韓国メーカーにも海外進出の機会を与えることになりそうだ。事業規模から自社CDMA2000端末を海外向けにモデファイする力がなかったこれらのメーカーも、国内向けに開発したHSDPA端末を若干の仕様変更だけで海外市場に投入することが可能になるからだ。このように韓国内のHSDPA化は韓国メーカーの海外進出を強力にアシストするものになりそうなのである。
Samsungが一押しのタッチパネル搭載HSDPA端末"HAPTIC"。海外では同一モデルが"F490"として発売予定だ | SKYやEVERなど韓国内のみに端末をリリースしているメーカーも、今後海外進出する可能性がある |
■日本メーカーの活路は次世代携帯電話サービス開始時期か
日本は今や世界でも有数の3G大国だ。しかし最近は国内メーカーの撤退が相次ぐなど海外市場を視野に入れるどころか、事業そのものの見直しを図るメーカーも出てきている。
海外市場が3G化を進める中で、日本メーカーはなぜ海外に出て行かないのだろうか? 「海外ではローエンドが売れ、日本のハイエンド端末は売れない」と言われるがこれは間違いである。海外市場でもアーリーアダプターなどはハイエンド端末を購入し、毎年数機種を買い換えている。先進的な端末であれば購入する層は海外にも多数存在しているのだ。そうでなければiPhoneが販売国以外でも大きな注目を浴びている説明がつかないだろう。
すなわち日本メーカーが海外に出て行けないのは「日本の端末がハイスペックだから」という単純な理由ではない。
韓国メーカーの海外進出と比較してみると、日本の携帯ビジネスモデルにも問題があるだろう。韓国では携帯メーカーが各事業者に供給する端末は基本的に同じベースのモデルである。仕様を事業者別に若干変更はするものの外観などは同じ設計のモデルが提供されている。日本の「事業者別に全く異なるモデルを作る」ビジネス展開は行っていないわけだ。このためHSDPA端末を韓国内に投入すれば、同様に「若干の仕様変更」で同じモデルを海外向けにリリースしやすくなる。
一方日本では各メーカーが各事業者ごとに異なるモデルを投入している。同じW-CDMA規格を採用しているNTTドコモとSoftbank向けでもハードウェア設計が大きく異なるモデルを開発している。すなわち日本国内だけでも全く仕様の異なるモデルを事業者別に多品種投入しているのが今の日本の姿だ。
これでは日本メーカーが海外に出ようとしても、海外向けにはハードウェアやデザイン設計をやり直したモデル開発の必要が出てきてしまう。韓国のように「韓国と世界で通用するモデル」を開発し、国内と海外にタイムリーに発売することは難しいのだ。日本メーカーの中でもシャープが日本と海外で同一のモデルを投入しているが、その数はわずかだ。日本で話題のプレミアモデルやインターネット端末などをそのまま海外に販売できないのが今の日本のビジネスモデルなのだ。
総務省によると次世代携帯電話サービスでは通信方式を統一し、端末に互換性を持たせる予定だという。これにより事業者を越えて同じ端末を使うことが可能になりそうである。そうなれば日本メーカーも事業者別に異なるハードウェアを開発する必要が少なくなり、海外へも同一モデルを即座にリリースすることが可能になるであろう。ただし次世代携帯電話サービスの開始までにはあと数年はある。それまでに日本メーカーが海外進出できるだけの体力を残しておけるかどうかは未知数といえよう。また日本と同じモデルを海外にリリースできるということは、逆に海外メーカーが日本市場により参入しやすくなるという意味でもある。日本メーカーにとっては競争がより熾烈になるわけだが、それがよい製品を生み出す原動力になることを期待したいものである。
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山根康宏
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