宮里藍=微妙なズレは全英女子オープンで顕在化した。(写真/田辺安啓=JJ)

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「2年目のジンクス」という言葉がある。幸か不幸か、今年の宮里藍は、この言葉を地で行く結果になってしまった。宮里自身は自らのブログ上で「スランプだとは思わない」と語っている。スランプという言葉の定義は曖昧ゆえ、彼女の今季の不調を「スランプ」と断言できるかどうかは微妙なところだが、私は彼女の今年を「スランプが発症した年」だと見ている。

開幕戦から、いきなり予選落ちで始まった07年シーズン。予兆はスタート時点から、すでに見られた。6月のギントリビュート最終日、プロ入り初の8オーバー82を叩き、悔しさと情けなさで泣いたあの出来事も、やがて発症するスランプの予兆だった。7月のHSBCマッチプレーで決勝進出した末、2位になったとき、多くの宮里ファンや日本のメディアはもちろん彼女の初優勝を期待したが、あれは宮里が本当に好調なゴルフを展開して昇り詰めた優勝争いと言うより、むしろ不調に向かう途中でたまたま調子が良かった1週間だったと考えたほうがいい。マッチプレー直後に出場した全英女子オープンで初日70、2日目80と一気に後退し、以後、決して上り坂を上ることができなかった流れが、その何よりの証拠だ。

スランプという病気は、ある日、突然、突発的に発症するものではない。技術面、メンタル面、環境等々、さまざまな要素が複雑に絡み合いながら、時間の経過とともに少しずつ陥っていくもの。病気でいえば潜伏期間のようなものが必ずある。宮里の場合も、そうした潜伏期間を経た後、全英女子オープン2日目にとうとう「スランプ病」が目に見えて発症したのである。

それでは、なぜ宮里はスランプ病の病原菌に感染してしまったのか。一つにはアメリカという異なる環境に身を置いたことで、自分で気が付かないうちにさまざまなストレスを受けていたこと。生活習慣、文化、言葉、食事、ツアーのレベル差。宮里はそれらをしっかり受け止めようと努力し、「楽しんでいる」と公言していたが、その前向きな姿勢こそが「がんばらなきゃ」というセルフプレッシャーにつながり、精神的な疲弊を招いていたのだろう。「前向き」は宮里のモットー。ゴルフそのものに対してもポジティブな言動ばかりを見せ、それがスタイル化していたため、彼女は弱音を吐けない状況下に自分を追い込んでしまった。米ツアーデビュー以来、押し寄せた日本のメディアは「初優勝はいつ?」ばかりを問い続け、責任感の強い宮里は焦りを感じていった。そして、辛くても苦しくても「収穫はあった」「一つ前進できた」と言い続けることで苦悩を抱え込む結果になったのだ。

精神面の異変に加え、スランプ発症の決定打になったのは技術面の調整の失敗だ。ショットの正確性は秀でていたにも関わらず、飛距離を求めてスウィングをいじったために安定性を失った。パットにおいても、グリップ方法やパターのチェンジを頻繁に行いすぎた。試行錯誤は必要だが、そのタイミングと方法に問題があったことは否めない。

発症してしまったスランプから立ち直るための回復期間がどのぐらいに及ぶのか。それは、今、宮里本人にも誰にもわからない。が、解決できるのは彼女本人だけ。考え方や姿勢を抜本的に変え、練習方法、コーチング等々も大幅に見直す必要がある。周囲の人間にできることは、宮里に回復までの十分な時間を与え、長い目で温かく見守るということだけだ。(舩越園子/在米ゴルフジャーナリスト)