8月に発売した「ミラ メモリアルエディション」。CVTを装備した求めやすい価格だ

   ダイハツ工業が無段式自動変速機「CVT」をメーンに据えた軽乗用車の宣伝活動を展開している。最大のライバルであるスズキとの販売台数の差を広げ、さらに競合車種であるコンパクトカーの新車攻勢に打ち勝つことが狙い。2007年6月から放映しているダイハツのテレビCMには、「CVT泳法」をマスターしたおかしなスイマーが登場。そのCMも8月後半から第2弾の放映を開始した。女性の消費者に「CVTはなんだかすごい」「CVTはダイハツ」というイメージを浸透させ、燃費に優れたCVT搭載車で販売量を確保する戦略だ。

燃費で優位に立つのがCVT搭載車

   消費者が車両購入時に軽自動車を選ぶ理由のひとつに「燃費の良さ」がある。

   日常生活の足代わりとして車を購入する場合、車格やブランドに対するこだわりよりも販売価格や維持費の安さ、燃費のよさが優先されることは多々あること。07年3月までの軽自動車市場の拡大は、ガソリン価格高騰を気にする消費者が、燃費に対する関心度を高めたことも影響している。

   その燃費で優位に立つのがCVT搭載車だ。多段式自動変速機のATよりも発進や加速が滑らかなため、手動式変速機のMTと同等かそれ以上の燃費を誇る。

   例えば06年12月にフルモデルチェンジしたダイハツ「ミラ」の10・15モード燃費(国土交通省審査値)は、ガソリン1lあたりの走行距離が3速ATでは21km、4速ATは22km、MTは25kmであり、CVTは25.5kmという数値だ。

   軽自動車のCVTを得意としているのは富士重工業。CVT搭載車はスバル「R1」「R2」「ステラ」の3車種がある。「R1」と「R2」の10・15モード燃費は24.5km/lで、「ミラ」がフルモデルチェンジするまではハイブリッド車を除くガソリン車でトップの燃費だった。

   だがダイハツは昨年6月に発売した新規車種「ソニカ」から自社開発のCVTを搭載しはじめ、昨年10月にフルモデルチェンジした「ムーブ」、そして「ミラ」へとCVTを搭載し、CVT搭載車を3車種にした。

ライバルのスズキは、まだ1車種だけ

   ライバルのスズキは、07年5月に「ワゴンR」を一部改良してCVTを一部グレードに搭載した。ようやく1車種だけ用意できたという段階であり、CVT搭載車のラインアップでダイハツはスズキに対して優位の状況にある。

   一方で軽自動車の競合車種であるコンパクトカーは、トヨタ「ヴィッツ」「ラクティス」、日産「マーチ」「キューブ」「ノート」、ホンダ「フィット」、マツダ「デミオ」など、CVT搭載車は数多い。デミオは7月にフルモデルチェンジ、ヴィッツは8月にマイナーチェンジして商品力を高め、さらにフィットは10月に新型へと切り替わる。

   新型車の発売が一巡して前年割が続く軽自動車市場にとって、コンパクトカーの新車攻勢は脅威だ。コンパクトカーを含めた小型車から軽自動車にダウンサイズする需要は減少する恐れがあり、軽自動車の販売量を確保するには、軽自動車ユーザーが次に乗り換える車も軽自動車を選ぶようにしていく必要がある。

   だが軽自動車の販売好調期に、軽自動車の代替需要は刈り取り終わったとの見方もある。ユーザーに新車への乗り換えを考えさせるには、ユーザーの車との大きな違いを示さなければならない。そこで新車の発売予定が当分の間ないダイハツは、CVTを最大の売り物にして需要を開拓し、販売目標を達成する戦略を選んだ。