『EMPISLAMENT』表紙。これはいいπ/ですね。

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同人誌のジャンルもいろいろありますが、売れ筋に背を向けたマイナージャンルは、作者や参加者達の無償の愛なしには成り立たない特殊な世界です。ごく一部の人達に向けて発信される作品は、理解するのが難しいものが多いのですが、だからこそ同人誌でしか味わえない醍醐味があるとも言えます。今回は、そういった普通に暮らしていたら永遠に接することのない同人誌を一部ご紹介していきます。
※最近購入した本の中からマニアックになり過ぎないよう、なるべく理解してもらえそうなものを選んでみました(一応)。


■『EMPISLAMENT(エンパイスラメント)』(ジャンル:萌え属性π/)

タイトルだけではなんのことやらサッパリですが、これは「肩掛けカバンをたすき掛けにして強調された胸」の素晴らしさを語った同人誌であります。この「肩掛けカバンをたすき掛けにして強調された胸」という言葉をいちいち言うのは大変ということで、生み出された言葉が「π/」。π(パイ)+/(スラッシュ)で、「パイスラ」と読みます。
『EMPISLAMENT』表紙。これはいいπ/ですね。裏はこんな感じ。造語の解説がついている。


これは、今年の5月〜6月に某アキバ系日記サイトの管理人・H氏の呼びかけが発端となって生まれた言葉です。それほど知名度があるとは言えなかったのですが、この言葉が「はてなダイアリー(※1)」に登録されたのをきっかけに『現代用語の基礎知識2007』に収録され、それを『週刊プレイボーイ』が取り上げ、さらにTBSラジオ『ストリーム』内のコーナー「週刊誌チェック!」 でも紹介されるという謎のマスコミわっしょい連鎖が発生。ごく一部でささやかれていた造語が、いきなり世間一般へ発信されることとなりました。

実際私は「π/」が発案グループ周辺以外の場所で、言葉として活用されている場面をほとんど見たことがありません。少なくとも現代用語の「基礎知識」ではないでしょう。ところが一連の報道では、まるでアキバ系の間でさかんに使われている言葉のように扱われています。

これが例えば「絶対領域(※2)」くらいに浸透しているのなら問題ないのですが、π/はシチュエーションが限られるので、使うにしても会話や文章内に組み込むのは相当難しいというのが現実です。今後もそれほど大きく広がるとは思えません(一時的に流行る可能性はありますが)。

●いい言葉(π/)は大切に
π/という言葉はもっと大切に、慎重に扱うべきではないでしょうか。変に注目されたせいで、せっかく生まれたいい言葉が「もう流行らない」と廃れてしまうのは悲しすぎます。私は偶然、一連のマスコミ報道ラッシュの前に即売会「肩掛けカバンをたすき掛けにして強調された胸オンリーイベント『π/』」に参加して、同人誌を購入してましたので、同誌に書かれたπ/に対する想いを、この場を借りてなるべく正しくご紹介していきたいと思います。
同人誌を購入したイベントの案内板。π/イベント部分を拡大。非常にわかりやすい。


π/同人誌『EMPISLAMENT』は総ページ数12P、A5サイズ、表紙のみカラー、製本はホッチキス止めという手作り感あふれる構成。価格は確か100円でした(うろ覚え)。これはπ/発案者・H氏のサークルが制作した公式の「π/研広報誌」です。

本を開くと、まずはπ/スタイルの利点・欠点についての解説から始まります(イラスト付き)。この具体例として、利点=「胸の揺れを抑えられる」「胸に抑揚を付けられる」、欠点=「胸以外の魅力が目立たない」「人目を避けられない」が書かれています。
続いて、π/を魅力的に見せる理想的なヒモの角度=黄金角度があるはずだとか、π/の褒め方を考える前に、まずパンチラの褒め方を考えてみよう(※3)といった、男子の妄想が炸裂していきます。爽やかな文体で淡々と書かれていく構成は、ある意味パンクです。

最後は「π/を利用して町おこしなんてできないだろうか」といった雑感で締められます。この妄想の行き着く先は、一体どこにあるのかと期待を持たせる内容は必見。今後も世間の声に惑わされることなく、地道にπ/求道の道を邁進していただきたいものです。

※1:「キーワードシステム」が特徴のブログサービス。サービス内に登録された言葉(キーワード)がブログ内に書かれると、自動的に言葉の解説ページへリンクが貼られる。
※2:ミニスカートとオーバーニーソックスのスキマにできる、太ももの肌の露出部分。
※3:これは「パンチラを見せてくれてありがとう」と、上手に感謝を伝える方法が見つかれば「素敵なπ/をありがとう」と感謝する方法を見つけることもできるはず、という理論によるもの。とりあえずの解答例として、パンチラ褒め=「今日もさわやかだね!」、π/褒め=「今日もいい切れ味だね」が書かれてました(完全決着には至らず)。

■『UFO仮面ヤキソバン攻略ガイドブック 改訂第二版・ハードモード ノーミスクリア編』(ジャンル:懐ゲー)

同誌で取り上げられている『UFO仮面ヤキソバン(DEN'Z/日清食品)』は、1994年に発売されたスーパーファミコン用ゲームソフト。元々は日清カップ焼きそばU.F.O.の販促用懸賞グッズ(非売品)だったのですが、問い合わせが殺到したために一般発売されることになったという経緯を持ってます。
※今でも中古ソフト屋に行けば、500円〜1,000円程度で入手することが可能。

表紙の写真はヤキソバンの決め技メンアタック!作者は力尽きたのだろうか。物悲しい裏表紙である。


元ネタとなった「UFO仮面ヤキソバン」のCMを見た時の衝撃は、本当に凄まじいものがありました。罰ゲームにしか見えないマイケル富岡扮するヤキソバンのコスチューム、低予算特撮ヒーロー番組リスペクトな演出、デーブ・スペクター(ケトラー)やオスマン・サンコン(にせヤキソバン)といった頭の悪いキャスティングなど見所満載で、視聴者はTVに釘付けになったものです。

後期にはヤキソバンのいとこ「UFOガール ヤキソバニー(松雪泰子)」なんてキャラも登場してました。ちなみにヤキソバニーは、友達と海外旅行の準備中「ねぇ、パリに行ったらさ、U.F.O.食べたくなっちゃうから買っておこうよ」と真顔で提案する重度のU.F.O.ジャンキー。パリならフォアグラとか食ってなさいよ。

ゲームソフトの内容は、横スクロール型のアクションゲームで、どちらかと言えばクソゲーと評価されてます。ゲーム性は、敵を倒してステージを進めるだけという単調なもの。このソフトは、ヤキソバンがCMと同じ声で技を出すところを楽しむのがメインなので、純粋なゲームとしてのクオリティを期待するのは酷でしょう。元々は懸賞グッズだったわけですし。
ヤキソバンはパンチ&キックをメインに戦うが、ソースビーム(写真)や揚げ玉ボンバーといった攻撃も可能だ。



そんな『UFO仮面ヤキソバン』をハードモード(最高難度)でノーミスクリアするためのノウハウを掲載したのがこの同人誌です。総ページ数は12P、オールカラー、印刷は自宅のプリンター、製本はホッチキス止め、価格は攻略DVD付きで300円でした。シンプルなレイアウトですが、攻略本としてのツボを押さえた仕上がりで普通に読めます。

「綺麗にクリアしようとすると実は意外に難しい」「最弱なザコであっても、うっかり一撃を喰らうと体力ゲージの4分の1から3分の1は軽く持っていかれる」「いかなる時も決して横軸を合わせないのがボスキャラ攻略の原則」といった、実際にクリアを成し遂げた著者にしか語れないコメントの数々に感心しきり。

世間はPS3やWiiの話題で持ちきりという時期に、スーファミの色物クソゲーを全力で攻略する本を売る、この男気! 最高です。今時こんなことを本気で考えた人類は、地球上に著者ただひとりだけでしょう。同人誌即売会の醍醐味はこういう出会いにあるのだなあと、久々に感銘を受けた一冊でした。

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レッド中尉(れっど・ちゅうい)
プロフィール:東京都在住。アニメ・漫画・アイドル等のアキバ系ネタが大好物な特殊ライター。企画編集の仕事もしている。秋葉原・神保町・新宿・池袋あたりに出没してグッズを買い漁るのが趣味。

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