(判決後の)記者会見の時、私は日本の刑事司法のためにも残念だと言ったんですけれど、それはそういう意味ですよ。判決を聞いて、“これは、実はやっていなくてもやったと認めたほうがいいんだな”と思う人がたぶん出てくるでしょう。それは日本の刑事司法が否定されることでしょう。

── これまで、証券取引法違反の罪だけで起訴された場合は、実刑にはならず執行猶予が付く場合がほとんどです。その中で、今回実刑になった背景は何か考えられますか。バランスを欠いているように見えます。

 そうですが、裁判というのは「裁判体」の個性が反映するんですよ。たとえば三重県の名張(毒)ぶどう酒事件でも、「裁判体」は違いますが、同じ高裁でも、かたや再審決定し、かたや再審開始決定を否定しているわけですから。

 判決の内容がバランスを欠いているのは確かですが、なぜそうなったかについては分かりません。裁判官の考え方によるとしか言いようがないんじゃないですか。

── 金融自由化で、「護送船団方式」から「事後チェック型」へと金融統制システムが変わる中、国家の意思表示といいますか、時代が変わったことの象徴として、実刑にしたと見ることはできますか。

 基本的には、一つの起訴とか一つの裁判に大きな意味を認めることには慎重であるべきだ、というのが僕の立場です。本来裁判所は、自分の裁判によって“時代を変えてやろう”とか、“時代が変わったことを国民に知らしめてやろう”と思って裁判するというのは間違っていると思うんですよね。そういうふうに見るのも、間違っていると思うし、裁判所はそういうつもりでやっていないと思うんですよ。

 個々の裁判官が何を考えているか、それは分からないですよ。しかし、本来の裁判は、世の中を変えてやろうとか考えてやるべきものではないですよね。坦々と法律と証拠に基づいて粛々と判断していく。その結果が社会に受け入れられるものになろうが、社会から批判されるものになろうが、その他社会にどのような影響を与えるものになろうが、それは裁判官の判断とは関係ない、というものであるべきだし、そうあるはずなんですよ。裁判というものは。

 今回の裁判でも、裁判所は裁判所なりにそうやって判断したと思うんだけれども、その判断の中身が、証拠の採否がおかしいと僕は思っているわけですね。量刑理由の採用の仕方もおかしい。

── 公判の中で、検察の捜査の行き過ぎた点やずさんさなどを指摘しておられましたが。

 僕は検察が暴走していると思いますよ。検察が暴走した場合にストップをかけるのは、今の日本の制度では裁判所しかない。今回もその役割を裁判所に期待していたわけだけれども、期待に応えてくれなかった。裁判所がもし、検察の暴走にストップをかける能力がないとすると、日本の社会は非常に困ったことになりますね。その意味でも、僕は(会見で)今回の裁判は日本の刑事司法にとって残念だと言ったわけですね。真実を明らかにして処罰しなければいけない人を処罰するのも日本の刑事司法の機能だけれども、検察が暴走した時にストップをかけることも刑事司法の機能ですね。これは車の両輪ですから、どちらに偏ってもいけないと僕は思うんですね。

── ライブドアに強制捜査が入ってから、検察からマスコミに情報がリークされ、その中には事実と違うものも含まれていたようです。

 従来のやり方では、検察サイドからリークした情報でマスコミがいろいろな記事を、憶測記事も含めて事実と違う記事を書いてしまって、裁判が始まる頃には社会的な風潮、雰囲気ができてしまっていることはよくあるわけですね。そういうことが是正されないと、裁判員制度がちゃんと機能するのか、一番心配になります。今のような状況は変えていかなければいけないと、痛切に思います。

 今回、私のほうからいろいろと取材に応じたのは、一つは公判前整理手続きが公開法廷で行われていないので、何が行われていて、争点がどのように詰められているのか国民の方々に知ってもらう必要があり、裁判の透明性のためにも必要だと考えたからです。もう一つはやはり、検察側リークだけの情報ではなくて、被告人サイドからも情報を発信して、検察寄りに傾いている社会的な風潮を少しでも中立的なものに戻そうと考えていたんだけれども、結局はあまり戻らなかったかな、と思いますね。

 本来、裁判というのは冷静な雰囲気の中で行われなければならないわけですね。公判が始まる前から、巨悪だという雰囲気が作り上げられている状態の中では、正しい裁判が行われないのではないかと強く心配しています。

── このような弊害への対策はありますか。

 ないですね。こちらが教えてもらいたいですよ。どうすればいいんですか、と。今のままでは、とてもじゃないけどまともな裁判員裁判になりませんよ。

【了】

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