昨オフに大型補強を行なった巨人が好調を維持している。ここ数年は苦手としていた広島に、開幕3連戦で勝ち越して勢いに乗ると、4月19日からの平成最後となる阪神との”伝統の一戦”でも3連勝を飾り、単独首位に躍り出た。

 現在、解説者として活躍する井端弘和氏は、昨シーズンまで内野守備・走塁コーチを務めていた”古巣”の好調ぶりをどう見ているのか。


開幕から巨人の打撃陣をけん引する坂本勇人(左)と丸佳浩(右)

――開幕から好調を維持している巨人で、気は早いですが、ここまでのMVPを挙げるとしたら誰になりますか?

「”切り込み隊長”として躍動した吉川尚輝を挙げたかったところですが、腰痛でチームを離れてしまったので、坂本勇人と丸佳浩の”サカマル”コンビですかね。2人とも打率、出塁率が高く、打線につながりができていると思います。彼らが得点圏にいて4番の岡本(和真)を迎えるのは、相手投手にとって大きなプレッシャーになると思います。

 岡本が打ち取られたときも、後に控える亀井(善行)や、(アレックス・)ゲレーロ、(クリスチャン・)ビヤヌエバなどがランナーを返す場面が多い。打点を挙げる打者に偏りがなくバランスがいいので、上位打線がしっかりしていれば今後も攻撃面に関しては心配ないでしょう」

――吉川選手が離脱するまで2番を担っていた坂本選手は、その打順にすんなりハマりましたね。

「開幕前もお話しましたが、坂本はどの打順にも適応できるバッターです。たいていの選手は、任された打順に合わせたバッティングをしようと意識してしまうもの。しかし坂本は、状況や相手投手によって打つタイミングを少し変えることはあっても、『2番らしくつなごう』などと考えずに普段と変わらないスイングができる。吉川が抜けて1番に上がりましたが、それにも問題なく対応できると思います」

――丸選手も調子を上げてきましたが、古巣の広島に対しては打率が1割台と打ちあぐねている印象があります。

「丸は巨人のユニフォームが似合ってきましたし、現時点でも十分に期待に応えています。対広島に関しては、これも以前に話しましたが、彼は狙い球を絞る”ヤマ張りバッター”なので、対戦相手になった広島のデータが集めきれていないだけだと思います。これから試合を重ねていけば、投手のボールの軌道や配球などがわかってきて改善していき、そのうち成績も”二重丸”となるでしょう(笑)。丸も今は2番に打順が上がりましたが、坂本との並びは継続してほしいですね」

―― 一方で、ここまでの誤算は?

「中継ぎ投手陣です。原(辰徳)監督は開幕から、大江(竜聖)や坂本(工宜)といった”新顔”も積極的に起用しました。昨年までベンチにいた私も『ここまで顔ぶれが変わるのか』と驚きましたよ。そのなかの数名が結果を残すことで投手陣を活性化させようと考えていたと思いますが、ここまでは期待通りにいっていない印象があります。

 唯一、目途が立ったのは中川(皓太)でしょうか。中川は2016年から一軍でも投げていますが、今シーズンは投球フォームをサイドスロー気味に変えて、無駄な力みがなくなりました。特にスライダーの曲がり幅が大きくなっているので、打者はタイミングが取りづらくなったと思います。結果を残せず二軍に落ちてしまった大江や坂本は、自分に何が足りなかったかを考えて、そこを強化して一軍に戻ってきてもらいたいです」

――新守護神の(ライアン・)クック投手についてはいかがですか?

「オープン戦に比べるとスピードが出ていますし、コントロールも安定してきました。昨年まで抑えを担っていた(アルキメデス・)カミネロは、登板してみないと調子の良し悪しがわからない投手でしたから(苦笑)、その点はクックのほうが信頼できますね。あとは、僅差の場面でどれだけ力を発揮できるか。4月17日の広島戦では、2点差を守りきれずに初の救援失敗となりましたが、真価が問われるのはまだ先になります」

――先発陣についてはいかがでしょうか。

「菅野(智之)と山口(俊)は勝ちが計算できますし、(クリストファー・)メルセデスとドラフト1位の高橋(優貴)はゲームが作れているので、まずまずだと思います。3年目の畠(世周)に対する期待も大きかったと思いますが、3試合に先発して13失点で二軍降格になり残念です。新人のときと比べて球速が出ていないのが気になりますね」

――先発ローテーションを磐石にするために、井端さんが期待している投手はいますか?

「実績十分の田口(麗斗)です。彼の生命線は”インコースの真っ直ぐ”なので、そこに投げ切れるようになれば一軍に上がってくるでしょう。昨年は、彼に対して『太りすぎ』と指摘する声をよく耳にしましたが、周囲の意見を気にする必要はありません。体重が増えたことで球威が増す投手もいますし、それで『動きづらい』と思ったなら体を絞ればいいだけのこと。実際に、今シーズンに向けて田口は体重を落としました。今後も自分の体とよく会話をしながら調整を続けてもらいたいです」

――プラスアルファの戦力として、かつての鈴木尚広(現巨人一軍外野守備走塁コーチ)さんのような”代走のスペシャリスト”などは必要でしょうか。

「スタメンが固定されているチームなら、そういう選手がいていいと思います。相手投手の利き腕や相性などで打者を代える必要があると、やはり打撃がいい選手をベンチにおいておく必要がある。その点で、今の巨人はしっかりスタメンを固定できますから、走力に秀でた選手を攻撃のオプションとして置くことができるでしょう。吉川の登録抹消で一軍に上がってきた重信(慎之介)をそういった形で起用するのも面白いですね」

――井端さんは中日でプレーされていたときも、鈴木さんのような代走の選手が試合の終盤で出てくるのは嫌でしたか?

「確かに脅威ではあったんですが、私はむしろ楽しんでいましたよ。おそらく当時のキャッチャーの谷繁(元信)さんもそうだったと思いますが、”しのぎ合い”が始まるワクワク感がありました。盗塁を警戒しているからといってストレートばかりの配球ではいけませんし、走者はそれを読んでスタートを切らなくてはいけない。ファンの皆さんも、代走のスペシャリストがいる球団の試合では、さまざまな駆け引きを楽しんでほしいですね」

――そんな選手起用も含め、巨人がさらに調子を上げていくために必要なことは?

「野手陣は、吉川が抜けた穴が大きいとはいえ、つながりのある打線がキープできれば大崩れしないと思います。奮起を期待したい投手陣には、まず”長打を打たれない”ことを徹底してほしいです。野手は1球ごとにポジショニングを変えるなど工夫して守備についていますが、ホームランや外野の頭を超える打球には”お手上げ”になってしまいますから。

 長打を許している場面では、投手がストライクをほしがった甘いボールを痛打されることが多い。『打たれそうだ』と感じたなら、時にはストライクゾーンを大きく外して投げることも必要です。シングルヒットや四球などでランナーを許しても、慎重さを失わずに後続の打者を抑えることに集中する。そうして大量失点を防いでいけば、打線が好調な今の巨人であれば勝ち星を伸ばせると思います」