Amazon、最新ロボットを国内投入 大阪・茨木の大型倉庫(現地レポ)
「Amazon Robotics」をご存じだろうか?

従来のアマゾン配送センターは棚に商品を次々と並べておき、そこで働く従業員が作業端末の指示に従って顧客からの注文内容に応じて目的の商品がある棚へと適時移動してピックアップする方式を採用している。

一方のAmazon Roboticsは「Drive」という専用ロボットを用いることでより効率的で作業員の負担をかけない仕組みを提供する。もともとは2012年に米Amazon.comが買収したKiva Systemsという会社のソリューションを応用したのがAmazon Roboticsだが、現在世界25以上の配送センター(フルフィルメントセンター:FC)で採用され、10万台以上の"Drive"が稼働しているという。

日本では現在10以上のFCが稼働しているが、2016年12月に報道関係者向けのお披露目が行われた川崎FCに続き、国内2例目のAmazon Roboticsを導入したアマゾン茨木FCが4月、正式稼働を開始した。

▲アマゾン茨木FCのAmazon Robotics倉庫エリア内を徘徊する「Drive」と呼ばれる運搬ロボット

新型ロボットは1度に567kgの荷物を運べる


特徴としては世界的にみても最新世代のAmazon Roboticsを採用しており、Drive単体あたりの重量が川崎FCの145kgから136kgと軽量化されている一方で、積載可能重量が340kgから567kgへと大幅に増加している。これにより、商品棚あたりの商品点数や個数を増やすことが可能になり、より高密度な状態での商品保管が可能になる。


▲今年2019年4月に本格稼働を開始したアマゾン茨木FC。大和ハウスのロゴがあるが、敷地と建物は大和ハウスの所有だという



人間には必要な「整理整頓」がコンピューターには不要


センターにおけるアマゾンの商品管理は少し独特の方法を採用していることが知られており、通常であれば「カテゴリごと」「商品系列ごと」といった形で棚のエリアを分けて人間からみても把握しやすい形で整理されるのに対し、アマゾンでは届いた商品をそのまま順番に棚に並べていく方式を採用している。

どの棚のどの位置に目的の商品があるかはコンピュータが把握しているため、あえて人間がわかりやすい形で物理的に整理しておく必要がないためだ。また、アマゾンは取り扱い商品点数が非常に多く、こうした場所を使った整理方式では管理効率が悪く、倉庫スペースもより多く消費するデメリットがある。世界規模のECサービスを展開する同社ならではの方式なのかもしれない。

ただ、これでも場所効率面での限界はあるし、なにより発送の際のピッキング作業では広大な倉庫内を人が行き来する必要があるため負担が大きいという問題がある。そこで「商品棚そのものを移動」してしまい、人間が待つ形でコンピュータが最適な棚を適時ロボットを使って持ってくることで人間側の負担を軽くしようというのがAmazon Roboticsの考えだ。

また副次的なメリットとして、運送における"パレット"を詰め替える要領で倉庫内の棚密度を増やせる。今回茨木FCに導入された最新世代のAmazon Roboticsでは過般力が大幅に増強され、商品棚あたりの商品密度をさらに高めることが可能になった。

人間は動かず、棚の方から向かってくる


茨木FCは4階構造になっており、1階がメーカーなどからの商品搬入受付ほか、利用者への商品出荷を行う梱包エリア、2階がスタッフの出入り口兼レクリエーションルームのあるエリア、3階と4階がAmazon Roboticsを採用したいわゆる「倉庫」となる。倉庫エリアは主に搬入した商品を商品棚に詰める作業「インバウンド」と商品棚の商品をピッキングして出荷用のケースに仕分けする「アウトバウンド」の2つに分かれている。どちらも人間は動かず、棚だけが必要に応じて移動してくる点が特徴だ。

また、インバウンドの作業では商品を詰める場所は特に指定されておらず、作業するスタッフが入れやすい場所に自由に入れて問題ないという(お勧めの場所はコンピュータが指示してくるが無視して構わない)。それでいて商品の保管された場所はきちんと把握しており、個々の商品の消費期限なども含め、コンピュータが問題ないかを把握してつねに警告してくるという。

▲入荷した商品を商品棚に詰めて在庫にする作業


▲顧客からの注文に応じて在庫となっている商品棚の商品をピックアップする作業
▲「Drive」の動き。床に設置されたQRコードを基点として、適時方向転換しながら秒速1.7mで商品棚を運搬する


▲商品棚を持ち上げて移動させるDrive


▲Driveは床に打たれたQRコードのマーカーのみを目印に移動する。テスト稼働含めてまだ半年だが、すでに黒のタイヤ痕がこびりついている



地域経済に根付き、従業員の働きやすい環境を作る


Amazon Robotics自体は世界に25以上あるという同技術を採用した他のFCと大きな差はなく、あくまでパフォーマンスの違いからくる収容能力や処理能力の面での違いとなっている。一方で今回の報道関係者向け内覧会では「どこよりも働きやすい環境」としての福利厚生面、そして不慣れな人でも早く安全に作業がこなせるようになる工夫が特に強調され、施設見学ツアーの中でいくつかが紹介されている。

茨木FCの通用口は2階となっており、入場ゲートをくぐるとロッカーやレクリエーションルームへとつながる通路と、食堂や作業場へと分岐するエリアとなっている。ちょうどこの分岐地点には作業スタッフの本日の配置を指示したメッセージボードのほかに、その対面に「よろずや」と呼ばれる専門スタッフ常駐の相談センターが設けられている。単純に仕事上の疑問点などを問い合わせてもよし、あるいは人生相談的に困ったことを相談してもいい場所として考えられているとアマゾン側では説明する。実際、24時間稼働の交代制で眠らないアマゾンFCでは、何らかのメンタル的な問題を抱えるスタッフも少なからずいると思われ、快適な作業環境実現というのは重要度が高いというわけだ。


▲よろずやと呼ばれる茨木FCの入り口付近に設置されたお悩み相談コーナー

また今回のツアーではカフェテリアの見学も含まれていた。今回は残念ながら食べられなかったものの、ここのカフェテリアでの一番のお勧めはカレーライスとのこと。茨木FC用に特別に作られたものとのことで、これを200円で楽しめるのは従業員の特権なのかもしれない。

カフェテリアの壁には大きなツリーが描かれており、ここには葉の1枚1枚に従業員の名前が書き込まれているという。それだけアットホームで働きやすい職場というのを強調しているのだろう。その性質上、FC従業員は建物のある茨木市のほか、比較的近隣に住む人々が働きにやってくる。こうした人々の生活を支え、地域経済に貢献することが重要だとも同社は加える。なお、カフェテリアの壁に記された「KIX3」というのは本施設のアマゾン内での呼称で、「最寄りの空港の3レターコード(今回の場合は関西空港のKIX)に施設の通番を加えたもの」という同社のグローバルルールに則って名付けられたとのこと。つまり関西エリアでは3つめのアマゾンFCということになるわけだ。


▲カフェテリアの大きな木のイラストには同FCで働く従業員1人1人の名前が書かれているという。なお、KIX3というのは茨木FCの社内での呼称


▲カフェテリアのメニューの一部。カレーが人気メニューのようで、茨木FCのために特別に作られたものだという。トッピングのないプレーンカレーは200円。支払いはキャッシュで


▲Amazon段ボールをイメージした守衛室。微妙にここだけメルヘンな雰囲気になっている