230億円稼いだ男の「100万円投資」入門
■今年は株で11億円を稼いだ
――『一人の力で日経平均を動かせる男の投資哲学』(KADOKAWA)を上梓されました。なぜ本を出そうと思ったのですか。
【cis】本を出すことに興味はないです。自分の投資手法を世の中に広めたいという気持ちもありませんでした。でも、10年以上の付き合いがある麻雀ライターの福地誠さんから口説かれたので、まあやってもいいかと。彼がかかわることで、何か面白いものになるんじゃないかと思ったのです。僕は彼の書いた麻雀の本が好きでした。麻雀の本は、分かりにくくてつまらないものが多い。でも彼の本は分かりやすいのに読者には媚びていないし、面白く読めるんですよ。
――cisさんは投資で230億円を稼いだそうですが、いまも資産は増え続けているのですか。
【cis】2018年を振り返ると、株で11億円くらいは稼ぎましたね。仮想通貨でも4〜5億円の利益がありましたが、税金が重いので手元にはあまり残りませんでした。株の利益は、どんなに収入があっても一律で20.315%の税率じゃないですか。でも、仮想通貨の利益は他の収入と合算して税率が決まる「雑所得」なので、僕の場合は最高税率の55%(所得税45%+住民税10%)になってしまう。効率は悪いですね。
■お金を確実に増やせるチャンスを逃さない
――ぜひ教えてほしいのは、「素人がこれから投資で稼ぐにはどうしたらいいのか」ということです。cisさんが、いま100万円の手元資金から投資をスタートするならどうしますか。
【cis】う〜ん、難しいなあ……。いまの時代は個人トレーダーにも巨額を稼ぐチャンスがあると思いますよ。投資は勝ちと負けの合計の差し引きがゼロになる「ゼロサムゲーム」だとよく言われるでしょう。つまり、負ける人がいなければ勝つ人もいないという見方です。もちろん手数料はありますから、その見方的には厳密には「マイナスサムゲーム」ですけど。
でも、市場全体の富の総量が増えるときもあります。たとえば、2012年12月に第二次安倍内閣が誕生してアベノミクスがはじまりました。アベノミクス前の日経平均株価は9000円前後でしたけど、2018年10月には2万4000円を超えています。つまりアベノミクスのはじまる前後に株を買っていた人は8割、9割が勝っているはず。こういう時期を逃さないようにすれば、わりと簡単にお金を増やすことができます。
いまはどうか言うと、株は難しい相場になっていますけど、投資手段はそれだけではありません。仮想通貨の時価総額は、上位3つの「ビットコイン」「イーサリアム」「リップル」だけで約17兆円になっています(2018年11月現在)。でも2年前は、すべての仮想通貨で2兆円程度の時価総額だった。つまりこの市場自体に2年で15兆円分の富が増えたことになります。まあ仮想通貨もいまは下がり目なので、僕自身あんまり興味はないですね。
■IPO株、上場後の狙い目は「値上がり時」
会社に置き換えれば、もっとわかりやすいかもしれませんね。ある人が起業して10年後にその会社の株価の時価総額が10兆円になったとします。これは普通にありうることですよね。でも新たに10兆円の会社ができたからといって、他の会社の価値が10兆円分減るわけではないですよね。つまり、富が増えたのです。運用で成果を得るには富が増えるものに投資すればいいのです。
――すると、これから株で増やすことは難しいですか。
【cis】初心者が株で増やすなら、さまざまな証券会社に口座を開いて、IPO(新規上場株)の申し込みをするのがいいと思いますね。IT系で東証マザーズに上場する銘柄なら、上場後に値下がりするリスクは低いと思います。
ただ、IPOは抽選なので、もし当たらなければ上場後(セカンダリ)を狙います。セカンダリなら誰でも買えますし、購入する株数も自由です。ただ、上場後に値上がりしている銘柄を買うのが基本です。これを「順張り」といいます。上場で値がついた後に株価が下がると割安に感じて買いたくなる人がいます。これは「逆張り」と言いますけど、僕なら手を出しません。あくまでも上がっている株がいいと思いますよ。
■本能に克たねば相場には勝てない
――IPO株を買ったとして、いつ売却すればいいですか。
【cis】僕の場合は、上がっている間は売りませんね。初心者にありがちな失敗は、少し上がったところで慌てて売ってしまうことです。売って利益確定をしない限り「勝ち」になりません。だから、「次の瞬間に下がり始めて、せっかくの利益が吹き飛んでしまったらどうしよう」と不安になって売ってしまうのでしょうね。
逆に買った株が下がっても、売らなければ損は確定しませんから、なかなか損切りができない。結局、下がった株は塩漬けにして、上がった株はすぐに利益確定する。これは人間の本能に近い行動だと思いますけど、本能に従っていたらお金は増やせませんよ。
ですから株価が上がっている限りは1年でも2年でも保有して大きな利益を狙う。しかし、2回下がったら僕は売ることが多いですね。IPO株に限りませんが、上昇が続いている銘柄の場合、一度下がっても復活することはよくあります。でも、2回大きく下がると、復活せずにそのまま値下がりが続くことが多いんです。
■プロでも失敗する。大事なのは「損切り」
――上がっている銘柄を買うというのはわかりますが、初心者は株価がピークのときに高値掴みしそうで怖いのではないでしょうか。
【cis】高値掴みするリスクは、初心者でもプロでも変わらないと思います。
それは僕にしても同じで、高値掴みをすることも結構ありますけど、損切りが早いので大きな痛手を受けずにすんでいるだけです。ですから高値掴みをしないように努力するのは無駄だと思います。上がっている株を買って利益を最大化する。でも、下がったら早めに損切りをする。リターンとリスクのバランスをとることが大事です。
勝率にもこだわらないほうがいいですよ。大事なのはトータルの損益です。勝率が8割でもトータルがマイナスなら資産は増えません。僕の場合、銘柄ごとに勝敗を見ると、勝率は3割くらいだと思います。7割はトントンかちょい負け。それでも、負けた額の10倍、20倍の金額で勝つことがあるから、トータルでプラスになるのです。
■資金が多いほど投資効率は下がる
――そうはいっても投資の世界にはプロがたくさんいますから、素人には太刀打ちできませんよね。
【cis】そんなことはありませんよ。だって僕らは自分のお金を投資しているわけですから真剣でしょう。
人のお金を運用しているプロの人は、うまくいっても失敗しても大きく生活は変わりません。だからプロの中にはルールを決めて、その通りに投資をする人が少なくないのです。機械的に売買するだけですから、個人でも勝てるチャンスはありますよ。
――やはり、投資資金は多いほうが有利ですか。
【cis】それは逆ですね。投資資金が多くなるほど投資効率は下がります。むしろ資産総額が1500万円以下であれば、それを数倍にするチャンスは無数に転がっています。ゲームでレベル1をレベル10にするようなもので、誰でもできると思います。僕がいまの資産を1兆円に増やすのはかなり不可能に近いですから。
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個人投資家
1973年3月生まれ。2018年11月現在、資産約230億円。大学4年生の2000年夏に口座を開き300万円で株式投資を始める。01年法政大学卒業後、親族が経営する企業に就職。02年デイトレを開始。一時期資産を104万円まで減らすもスタイルを変えてからは勝ち続け、資産6000万円で04年6月に退職。以後専業トレーダーとして04年内に2億円、05年内に30億円弱の資産を築き、トッププレイヤーの仲間入りを果たす。その取引の影響力の大きさから「一人の力で日経平均を動かせる男」とも言われる。
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(個人投資家 cis 聞き手・構成=向山 勇)