2025年の大阪万博開催が決まった夢洲(ゆめしま)。統合型リゾート施設の誘致構想もある(写真:共同通信)

2025年の万国博覧会開催地が大阪に決定した。筆者は大阪に住んでいるが、実際のところ大阪での招致活動は、行政や経済界はともかく民間レベルではそれほど盛り上がっていなかった。


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昨今の外国人観光客の増加や、それに伴う混雑などのさまざまな状況を見るにつけ、「大阪がにぎわうのはうれしいが、手放しでは喜べない」といった気持ちを抱く人も多いのだろう。

開催地についても、まさか大阪に決まるとは思っておらず、ビックリしたという声も少なくない。もっとも、決定したからにはこれをきっかけに大阪が活気づいてほしいと思うし、大きなトラブルがないことを祈りたい。

鉄道延伸計画が複数ある

と、いささかネガティブなスタンスで話を始めてしまったが、一方でいち鉄道ファンとして万博の開催決定は大いに関心のあるところだ。というのも、会場となる夢洲(ゆめしま)へのアクセスとして、複数の鉄道路線が延伸されるかもしれないのである。


延伸計画は複数ある。写真は京阪中之島駅付近。ここから画面奥へ向かう計画がある(筆者撮影)

そもそも、現在夢洲へのアクセスは道路トンネルに限られており、公共交通機関は通じていない。万博開催に際しては、約2800万人と試算される来場者をどうやって運ぶのかが大きな課題となる。

前回、1970年に千里丘陵で開かれた大阪万博(以下、便宜上「千里万博」と記述)では、開催に合わせて大阪市営地下鉄(現・大阪メトロ)御堂筋線が延伸。吹田市域は北大阪急行電鉄に乗り入れ、6400万人を超えた来場者のメインアクセスとして活躍した。

さらに、輸送力を強化するために御堂筋線用車両の大型化やATC(自動列車制御装置)の導入なども行われ、地下鉄の近代化に大きく寄与した。

今回の万博で、メインアクセスとして期待されているのは大阪メトロ中央線だ。もともと同線は、現在の終点であるコスモスクエア駅から夢洲―舞洲(まいしま)を経由して新桜島駅へ至る延伸計画があり、コスモスクエア駅がある咲洲(さきしま)と夢洲を結ぶ「夢咲トンネル」には、すでに供用されている道路に加えて鉄道を通すためのスペースが確保されている。


万博会場となる夢洲へは複数の路線が延伸されるかもしれない(筆者予想をもとに編集部作成)

コスモスクエア―咲洲(仮称)までの延伸費用は500億円規模と試算されており、大阪府と大阪市は検討を進めている。現在、大阪港―コスモスクエア間は大阪市などが出資する第三セクター「大阪港トランスポートシステム」が施設を保有しており、また大阪市営地下鉄も民営化されたことから、延伸区間の事業主体がどこになるのかも注目される。

京阪中之島線に注目集まる

さらに、にわかに注目を集めているのが京阪中之島線である。


JRと阪神が接続する西九条駅。京阪中之島線もここまでの延伸が計画されている(筆者撮影)


大阪メトロ中央線の九条駅付近。京阪中之島線はここで画面奥から左手前へカーブし、西九条駅方面に向かう(筆者撮影)

もともと同線は、中之島駅から西九条駅を経由して新桜島駅への延伸が計画されていたが、経済情勢の悪化や沿線開発の遅れにより進んでいなかった。

だが、今年に入って京阪は延伸の検討を本格化。現在は、九条駅を経由して西九条駅に至るルートが“本命”とされている。九条駅で大阪メトロ中央線と、西九条駅でJRゆめ咲線(桜島線)と接続することで、夢洲やユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)へも連絡し、それらと京都を結ぶアクセス手段として存在感を出したい考えだ。

京阪では、万博開催や後述する複合型リゾート(IR)施設の建設を念頭に、5年程度の工事期間での開業を目指すとしている。

万博の開催決定でにわかに現実味を帯びてきた延伸計画だが、一方で先行きが不透明な部分も残る。


京阪中之島駅のホーム先端には、トンネル掘削に使われたシールドマシンの一部がオブジェとして残る。ここから先への延伸が実現するかどうか、正念場を迎えている(筆者撮影)

万博はあくまでも一時的な需要であり、閉幕後の利用が見込めなければ路線の運営が成り立たない。千里万博では、御堂筋線や北大阪急行線が日本初の大規模ニュータウン「千里ニュータウン」のアクセス手段としても活用できたため、建設が決定したという経緯もある。

これに対して今回の万博は、周辺の土地利用がまだまだ進んでおらず、閉幕後の需要予測はかなり厳しいものとなっている。

複合型リゾート施設の構想も

そこで注目されているのが、カジノを含むIR施設の建設だ。今年7月に、いわゆる「カジノ法」が成立したことを受け、その建設候補地として有力視されているのが夢洲だ。


中之島駅は、建設計画が進む「なにわ筋線」とも接続する。この長い地下通路の先でなにわ筋線の駅とつながる予定だ(筆者撮影)

もし建設が決まれば、強力な集客施設として期待できることから、中央線や中之島線の延伸にも弾みがつく。さらには、JR西日本もゆめ咲線の夢洲延伸をにらんで検討を始めており、今後はこちらの招致が焦点となるだろう。

万博の開催決定で、まずは大きなハードルを1つ越えた形となった、夢洲への鉄道延伸計画。IR施設の建設についても、近いうちにその結果が出ると思われ、その時にはこれら計画の命運が決まるだろう。