メルカリは今年6月の東証マザーズ上場後、初めて通期決算の発表に臨んだ(写真は6月の上場記念セレモニー、撮影:梅谷秀司)

「現在はまだ、短期的な収益を意識するフェーズではない。規律を持ちつつ、大胆に挑戦する」――。フリマアプリを手掛けるメルカリの山田進太郎会長兼CEOは決算説明会の場でそう語り、迷いのない姿勢を見せた。

8月9日、メルカリは東証マザーズへの上場後初となる通期決算(2018年6月期)を発表した。売上高は357億円(前期比62%増)と大きく成長したのに対し、営業損失が44億円(前期は27億円の赤字)と、創業以来最大の赤字を計上した。サービス認知度向上のための広告宣伝費や、上場にかかわる一時的コストに加え、アメリカをはじめとする新規事業への先行投資がかさんだ。

日米事業の差はより鮮明に

収益柱である国内のメルカリ事業は好調そのものだった。年間流通総額は3468億円(前期比49%増)、月間利用者数は1075万人(同27%増)へと拡大。結果、売上高334億円、営業利益74億円という高収益ぶりを見せつけた。

メルカリ内で取引されている商品カテゴリーを見ると、ここ数年で多様性が増している。サービス開始当初はレディースファッションや化粧品など女性関連の商材が過半を占めていたのに対し、直近ではエンタメ・ホビー、メンズファッションの流通量が増え、バランスが取れてきた。若年女性が中心だった利用者層が、男性や中高年へと厚みが増している証拠だろう。


アメリカで展開するメルカリアプリのデザインは、日本のものと大きく異なる(写真:メルカリ

一方、上場で得た資金の重要投資先であるアメリカ事業の年間流通総額は日本の10分の1にも満たず、目立った成果が出ていない。昨年6月、メルカリは米グーグルや米フェイスブックなどで要職を歴任したジョン・ラーゲリン氏を経営陣に迎え、伸び悩み状態にあったアメリカ事業のテコ入れに動き出した。

その後9月にはラーゲリン氏がメルカリ米国法人のCEOに就任。シリコンバレー人材の採用を加速させている。今年5月にはロゴやアプリデザインを現地仕様に刷新するなど、再成長に向けた体制構築をあらかた完了させた。今期は流通総額や売上高の拡大による一層の“本領発揮”が求められる段階に入ってくる。

会社側は今回、売上高や営業利益など、2019年6月期の業績予想を開示しなかった。ただ長澤啓CFO(最高財務責任者)は、「中長期でトップラインを伸ばせると見込めるところには積極的に投資し、連結決算としては赤字を掘っていくタイミングが続くだろう」と説明する。


8月9日の決算説明会に登壇した山田進太郎会長兼CEOと、小泉文明社長兼COO(記者撮影)

先行投資案件として今期にアメリカ事業と並ぶ目玉となりそうなのが、投入に向け準備中の決済プラットフォーム「メルペイ」だ。ユーザーがメルカリ内で稼いだ売上金をメルカリ外の決済にも使えるスマートフォン向けウォレットサービスを軸とし、売買のたびに蓄積される評価情報を金融などのサービス提供に生かす構想もある。足元ではまず、オンラインとオフラインの両軸で、メルペイを使って決済ができる加盟店を開拓していく方針だ。

「(決済サービスを普及させるには)さまざまな課題があるが、メルカリの場合は入金サイドに競争優位性がある」。メルカリの小泉文明社長兼COOはそう強調する。通常、スマホ決済サービスは各人の銀行口座やクレジットカードを紐付け、ウォレットにお金をチャージしてから使う必要があるが、メルカリは売買で発生する売上金をここに流用できる。月間300億円超の流通額=ユーザーの売上金があると考えれば、ポテンシャルがありそうだ。

クイックに参入、クイックに撤退

とはいえ、この領域で勝ち残るのは決して容易ではないだろう。スマホ決済ではLINEや楽天などの大手のサービスが先行しているうえ、ポイント還元や手数料無料化で利用者と加盟店の両方に対しアピールを強めている。後発のメルカリがシェアを取って行くには、既存事業者以上の利便性を訴求していく必要がある。

現状、ここ1年ほどでメルカリが始めた新規事業の多くは成功といえる段階に達していない。同社はブランド品専用フリマを手掛ける「メルカリメゾンズ」(2017年8月投入)、即時買い取りサービスの「メルカリナウ」(2017年11月投入)、学びのC to C(個人間取引)の「ティーチャ」(2018年3月投入)という3つのサービスを8月中に終了すると発表している。いずれも、スタートから1年に満たないタイミングでの撤退判断だ。


今年2月にメルカリ子会社のソウゾウが発表した自転車シェアサービス「メルチャリ」など、グループとして新規事業開発を加速する。発表当時ソウゾウの社長だった松本龍祐氏は、メルペイに移り取締役に就任。人材もフレキシブルに動いている(記者撮影)

山田CEOは新規事業の継続について、「シビアに判断をしている」と話す。「前提として、新規事業はなかなかうまくいくものではないと思っている。一方で成長させるのに時間がかかりそうなら、メルカリ本体にリソースを割いたほうがいい。普通の会社なら『いい事業だね』といって続けるものでも、メルカリでは『今ではないね』と判断している側面がある」(同)。

メルカリ全体の従業員が右肩上がりに拡大している中、次の柱となる新規事業創出を担う子会社・ソウゾウは、2017年12月末の100人から2018年6月末には25人まで縮小している。前出のメルペイやメルカリ本体への転籍を進め、一度組織をスリム化した。4月には社長も交代し、新体制のもとで新たに旅行事業への参入も発表している。

「今後もチャンスがあるところにはクイックに参入し、難しいとわかればクイックに撤退することを繰り返していく」(山田CEO)。スタートアップらしさを貫きながら、株式市場にどう成長戦略を示していくか。上場2期目は、経営陣の手腕がますます問われそうだ。