去年から今年にかけて「バラエティ界でもっとも躍進した女性タレント」は、この人だと言って過言ではないでしょう。

今回お話をうかがったのは、アイドルグループ「アイドリング!!!」を卒業し、現在はタレントとして活躍している、朝日奈央さん。

事務所で唯一NGなし」のタレントだという朝日さんは、バラエティでの体当たりな「やりきり力」が話題です。なぜそこまで振り切ることができるのか?

そのウラには、自分の夢をすっぱりと諦めた過去の「挫折」がありました。

〈聞き手:天野俊吉(新R25編集部)〉


【朝日奈央(あさひ・なお)】1994年生まれ。2007年からファッション誌『ラブベリー』(徳間書店)の専属モデルとして活動。2008年にアイドルグループ「アイドリング!!!」に加入。2015年の「アイドリング!!!」卒業以降は女性タレントとして活動し、2017年からはバラエティ番組『ゴッドタン』(テレビ東京)、『DTテレビ』(AbemaTV)などにレギュラー出演中

都内某所にある事務所の一室にお邪魔した取材陣。取材予定時間の少し前に、「いや〜、すいません、私なんかで…。いいんですか本当に!」と言いながら朝日さんが入ってきました。

天野:
いやいやそんな! なんでそんなこと言うんですか?

朝日さん:
私が編集部の人だったら、わざわざインタビューに朝日なんて選ばないなって…

大丈夫ですか、間違いじゃないですか〜?

天野:
大丈夫ですよ(笑)。

朝日さん:
自分に個性があるとは思ってなかったので、こんな取材をしてもらえる日が来るとはって感じですね。

ずっと「私にはコレというものがない」って思ってて。まあそれもみんなよく言うと思うんですけど! 悩みすらもみんな言ってる悩みっていうね(笑)


明るいのに腰が低い…。イメージ通りの人である

モデルの夢を諦めた挫折経験。「有名になってファッションショーに出る!」

天野:
朝日さんといえば、「なんでもやりきる女」としてバラエティ界での評価がうなぎ上り中ですよね。今日はその「やりきり力」について聞きたいんです。

朝日さん:
ありがとうございます! でも、途中までは結構迷いっぱなしの人生だったので、そのおかげかなと…

天野:
迷っていた?

朝日さん:
私、もともと断然“モデル志望”だったんです。小3から、モデルさんになるのが一番の夢でした

小6で『ラブベリー』(徳間書店)のオーディション受けて、卒業式の日に合格の電話が来て。本当かな? 夢じゃないかな? ってすごくうれしかったのを覚えてます。



朝日さん:
芸能界のことを何も知らなくて、受かってから初めて「事務所に入るんだ」って知ったんですよね。

事務所に入るってことは、モデル以外のお仕事もすることもあるんだって気付いて。「あれ、アイドル(アイドリング!!!)のオーディション来たぞ」みたいな。

天野:
アイドルはあんまりやりたくなかったんですか?

朝日さん:
全然やりたくなかったです(笑)

ファンの人も怖そうだし、ずっとかわいくいなきゃいけないし…と思ってて。自分は男の人に好かれるようなタイプじゃないから、全然合ってないと思って、すごい泣いてました。

でもオーディションに行ったら行ったで、めちゃくちゃ楽しかったんですけどね。



天野:
その後、アイドルと並行してモデル活動をされてますよね。気持ち的にはどっちがメインだったんですか?

朝日さん:
本心はモデルでしたね(笑)。

『ラブベリー』が2012年に休刊しちゃって、次はほかの雑誌に出たい…って思って「あと何キロ痩せるから、○○のオーディション受けさせてください」って、事務所の人にお願いしてました。

天野:
それは結局どうなったんですか?

朝日さん:
頑張ったんですけど、痩せても骨格って変わらないじゃないですか(笑)

結局モデルとしては体型的に難しかったんですよね。

理想でいえば、大人な雑誌のモデルという“次のステップ”にいきたかった。でも、そういうモデルさんに会うとわかるんです。「脚の長さも顔の小ささも全然違う。そりゃ無理だ、次いけねえわ」って。

ちゃんと諦めました。うーん、無理でしたね〜…(小声で消え入るように)。それが21歳ぐらいのときです。

天野:
すごい悔しそう…

朝日さん:
そこで、「とにかく有名になって、ファッションショーに出る」っていう目標に切り替えたんです。TGC(東京ガールズコレクション)とか、そういう枠で出てる人いるじゃないですか!(笑)

だから私は、バラエティでもなんでも、絶対にちゃんと頑張らなきゃいけないんです。「仕事を選ばない」って言われますけど、選んでるときじゃないんですよ。



グループアイドルでは、誰もサビを歌わない!? 「やりきる」を学んだアイドル時代

天野:
そんなリアルな挫折経験があったんですね。

朝日さん:
でも、「全力でやる」っていう意味ではアイドル時代に学んだことも多いんです。

私、もともと歌もダンスも本当に苦手で、「私なんかがアイドルでいて大丈夫かな」って、ずっと思ってたんですよ。

天野:
また自己評価が低いですね…

朝日さん:
観てる人もわかると思うんですけど、歌やダンスって「自信のなさ」がすごいバレちゃうんですよ

逆にヘタでも元気に踊ってれば、観てる人にすごい喜んでもらえるって、先輩のダンスを見てて気付いたんです。

最終的には、上手い下手っていうよりやりきるしかないんだ」って。

天野:
そういうものかもしれない…。歌にも「自信のなさ」が出てしまいますか?

朝日さん:
歌もそうですよ。グループアイドルだと、「サビはみんなが歌うから私はそんなに声出さなくていいか」ってみんなが思ってるんです(笑)。



朝日さん:
だから“サビなのに若干パワーが下がる”っていうのがアイドルのライブあるあるです。

20人ぐらいいると「まあバレないっしょ!」って。音声さんにはバレてるんですけど(笑)。

天野:
朝日さんは、歌でも「全力でやりきる」ようにしてたんですか?

朝日さん:
私はサビでも気を抜かずに声を出してましたね。なんか、音声さんをガッカリさせたくない!って思ってしまって(笑)。

そのおかげか、アイドリング!!!最後のライブで、スタッフさんに「頼ってるから」って言ってもらえたんですよね。まあ嘘かもしれないですけど…(笑)。



バラエティでは毎回「スベるかも」と思っている…。「自信がない」ゆえの慎重さ

天野:
さらに、朝日さんの「やりきり力」が存分に発揮されるのが、『ゴッドタン』などのバラエティ番組ですよね!

朝日さん:
やっぱり『ゴッドタン』はデカかったですね〜

特に「松丸代打オーディション」(朝日さんは「変なおじさん」の踊りや、下ネタの「謎かけ」を披露)は、その後会う人会う人から「見ましたよ〜!」って。

現場でもみんなすっごい笑ってくれたので、「ああ、やっぱりやりきってよかった」と思いましたね。

天野:
あれって、自信満々な顔でやりきるのが面白いんだと思うんですが、不安はなかったんですか?

朝日さん:
いやありましたよ!私、本番前には毎回「これはスベるかもしれないな…」って思ってるんですよ

これ本当にウケんのか!?って、1回冷静に考えちゃうんです。

天野:
毎回思ってるんですか。

朝日さん:
「変なおじさん」も、絶対ウケないだろうと思ってましたもん! だって、そこらへんの女が踊って面白いですか?(笑)

でも、「私なんかがいろいろ考えるより、笑いのプロが考えてくれたんだからそれを信じて頑張ろう」って。



天野:
朝日さんはトークの「切り返し力」も評価が高いですよね。

朝日さん:
それは、自分のトークに自信がなさすぎて、かなり準備をしてるからだと思います…

私、まだあんまりバレてないんですけどものすごいポンコツなんですよ

パッと振られたときに考えてたんじゃ、絶対反応できないです。番組中はずっと必死で「今振られたらどう答えよう」って考えてるんですよ。「あ、これ私にも来そうだな」っていう流れをひたすら察知してます。「今アイドルの話してるから振られそうだな」とか。

不器用なんで準備が必要なんですよね。

テレビでやる以上、アイドルだって面白いものを。「私は“升野育ち”です」

朝日さん:
あと、「やりきる」のは升野さん(=バカリズム)の影響が大きいですね

『アイドリング!!!』の番組はずっと升野さんがMCだったんですけど、「若いからって、“恥ずかしい”とか“できない”はないからね」ってずっと言われてました。

天野:
優しそうですけど、意外と厳しいんですね! どんな指導があったんですか?

朝日さん:
ファンのリクエストに応えて、「好きだよ」とか恥ずかしいセリフを言うアイドルっぽいコーナーがあったんですけど、それが苦手でいっつも3回でも4回でもやり直させられて、その場で叱られてたんです



朝日さん:
なんならアイドルって、恥ずかしがってるので充分じゃないですか(笑)。

普通の番組だったら「か〜わ〜いい〜」みたいになってなんとなく終わりだと思うんですけど、升野さんはダメ

今考えればたぶん、それだと「アイドルのファン」以外の人からすると面白くない、テレビでやるんだからちゃんと面白いものにしなきゃダメだってスタンスだったんだと思います。

天野:
なるほど…!

朝日さん:
当時は「そんな全力でやらなきゃダメ?」って思ってましたけどね(笑)。

中2からその環境にいたんで、自然と「やりきり力」が強くなったんだと思います。あれから10年ですからね。私は完全な「升野育ち」ですね



「3番目ぐらいに好き」でもいい。「喜んでもらえるなら、全力でやる」

朝日さん:
これはアイドルのときの話なんですけど、私はなぜか握手会で「3番目に好きだよ」みたいなことをよく言われるキャラだったんです(笑)。

天野:
わざわざ列に並んでそれを言いにくるんですか?

朝日さん:
「今日○○ちゃんに握手行くんだけど緊張するよ〜」「ほんと朝日いいよね、3番目ぐらいに好き」とか言われてて、「なんだよこのキャラ! 一番好きでいろよ!」って最初は思いましたけど(笑)。

でも途中から、“それで幸せになってくれるんなら、それでもいいかな”って思い始めたんです。

天野:
なんだろうそれは、博愛精神…?

朝日さん:
結局、「モデルになりたい!」っていう夢を諦めてからは、「私なんかでよければ」「喜んでもらえるなら」っていうシンプルな考えでやってるんですよ

今もそれは変わってないです。





取材終わり、今後の目標を聞いてみると「求められてることを頑張る」ほかには、「ハワイっぽいカフェで働きたい(笑)」とのこと…。

何度も「ありがとうございます」と言いながら、エレベーターまで見送ってくれる姿には、こちらが恐縮してしまいました。

「喜んでもらえるなら、なんでもやりきる」というポリシーを聞いて、芸能界内外から彼女を評価する声が多い理由がよくわかった気が。

――しばらくは、“朝日奈央の躍進”が止まることはなさそうです。

〈取材・文=天野俊吉(@amanop)/撮影=池田博美(@southsidehiro)〉