写真はイメージです(写真=iStock.com/paylessimages)

写真拡大

この季節、「なぜ勉強をしなければならないのか?」という根源的な問いにハマる中高生が少なくない。そう子供に問われたとき、親としてどう答えればいいのだろうか。「いい大学にいくためだ」などと答えれば、子供は不登校になりかねない。3つの「模範解答」を紹介しよう――。

■子供に「なぜ勉強をしなければならないのか?」と問われたら

筆者は仕事柄、中高生と話すことが多い。すると毎年、5月の大型連休後に、いわゆる「五月病」の症状に悩む生徒に出くわす。新学年、新学期の新しい環境への適応がうまくいかずに心身に不調が出てくるのだ。その中には「なぜ勉強をしなければならないのか?」という“根源的な悩み”にぶち当たってしまう子がいる。

今回は、そういう思春期特有の悩みを持つ子供を3つのタイプに分け、親にできることは何かを探ってみたい。

【1:「秀才煮詰まりタイプ」へのアプローチ法】

ある時、東京大学合格者数ベスト10に入るほどの進学校に通う首都圏の私立中学生にこういう話をされたことがある。

「勉強をやる意味がわからないんです……。学校を辞めたい……」

会社役員である父親にそう告げたところ、その子の父親はこう返したのだそうだ。

「オマエは『駕籠(かご)に乗る人、担ぐ人、そのまた草鞋(わらじ)を作る人』という言葉を知っているか? オマエは車で言えば、どの座席に座りたいのか、よく考えろ」

つまり、その父親は息子にも自分のように運転手付きの車の後部座席に乗る立場の人間になってほしいのだ。そのために偏差値の高い難関大学に行き、優良企業に就職しろという希望を持っているようだった。

いろいろな世の中の矛盾や理不尽に気が付いていく中で、その進学校の中学生は「勉強をやることは当然」と迫ってくる親や学校に強烈な反発心を持ってしまったのだろう。

残念ながら、その後この中学生は不登校に陥り、併設高校へは進学しなかった。父親の落胆ぶりは相当なものだったが、これは“秀才煮詰まり”タイプへの誘導を親が間違えた結果だと筆者は思っている。

優秀な子供が勉強する目的を見失った時に、大人が「試験のため」「知名度の高い大学へ行くため」「裕福な生活をするため」と言って丸め込もうとすると、親の期待とは正反対のところに着地するケースは少なくない。

そうした大人の意見は、幸せに至るひとつの“手段”であって、人生の“真の目的”ではないから子供の疑問解消には至らないのだろう。

では、このタイプの子供にはどうアプローチすればよいのだろうか?

■「なぜ勉強が必要か」こじらせ中学生に効くコトバ

彼らは非常に賢く、また繊細なので、親が功利的な答えを下すより、子供自身にあえて問いかけたほうが「悩み」は解決の方向へと進んでいくと思われる。

例えば、以下のような話をして「君はどう思う?」と問いかけてみるというのはどうだろうか。

筆者は多くの私立中学・高校を訪問し、校長や担当責任者に学校の教育方針などを聞いている。先日、南山大学(名古屋市)の前学長で、いまは聖園女学院中学・高校(神奈川県藤沢市)の校長のミカエル・カルマノ神父と面会した際、「人はなぜ勉強しなければならないのでしょう?」と問いかけてみた。

神父は次のように答えた。

「勉強は自分の窓を開けるということです。学ぶことで、今まで見ていたものとはまた違う何かを見ることになります。視界を広げるために学ぶのです。例として、『なぜ外国語を学ぶのか』を考えてみましょうか。日本語で『写真を撮る』という言葉がありますね。これは英語では『take a picture』、写真はテイクするものになります。しかしながら、ドイツ語では『写真を作る』と表現するのです」

▼大人の論理・常識で丸め込もうとするのは逆効果

神父は、同じ行為・現象でも“とる”と“作る”という言葉が持つ背景やイメージが異なると説明する。その上で、こう語るのだ。

「だからこそ、物事はその国の文化を持つ言葉でオリジナルを見ないといけません。真実を見るためには、そのものが何かを追究しないといけません。ですから、学校では他国の言語を学ぶという授業がなされるのです」

もし、外国語を学ぶ意味がそうであるならば、数学は? 国語は? 音楽は? 歴史は? と子供に問いかけ、親も考えてみる。

そして「お父さん(お母さん)はこう思うけど、自分はどう思う?」と、ある意味“対等な関係”での議論をしたほうが秀才煮詰まりタイプの子供の納得感を得やすいのではないか。すぐには効果が出ないかもしれない。しかし、少なくとも大人の論理・常識によって丸め込もうとするのは逆効果であることは確かだ。

■28歳の救急救命医は中高6年間ずっと最底辺の成績

【2:「勉強以外に夢中」タイプへのアプローチ法】

「勉強する意味がわからない」という子供の中には、部活や趣味などを優先する「勉強以外に夢中」なタイプもいる。

ある進学校での中高6年間のほとんどを自分の趣味(ミリタリー系)に費やしたため、学年の成績順位は常に下位10%だった、という28歳の男性は筆者にこう教えてくれた。

「成績が悪かったのは、学校の定期試験に熱意を持てなかったからです。勉強することの必要性にどうしても納得感が得られませんでした。教師や親から強制されることに反発してしまう性格だったんですね。ただ、大学受験には必要性を感じたので勉強したって感じです。結局、勉強をする理由を見つけるってことが“受験”や“職業選択”には最も重要なことなのかもしれません。その理由を見つけるにはまず、(趣味など)やりたいことを自由にできる、多様な環境が必要なのだと思います」

彼は“動機付け”ということを強調したが「必要性」を見いだした彼はその後、医学部に合格し、現在は、大学病院の救急救命医として活躍している。

▼西原理恵子「大事なのは自分の幸せを人任せにしないこと」

こういうタイプは納得しない限りはテコでも動かない。親がいくら何を言おうとも「のれんに腕押し」になる可能性が高い。それでも「何か言いたい。黙って見ているのは無理」という親には、こういう語りかけを提案してみたい。

ベストセラーになっている漫画家・西原理恵子さんの『女の子が生きていくときに、覚えていてほしいこと』(角川書店)の中にこんなくだりがある。

「大事なのは自分の幸せを人任せにしないこと。そのためには、ちゃんと自分で稼げるようになること。食いっぱぐれないためには最低限の学歴は確保する」

これを子供に投げかけてみるのはどうだろうか。子供はしばしば親の話を無視する。でも、彼らは聞いていないように見えて、「本当に大事な話」は心にとめている。「勉強なんか……」と子供が足踏みしてしまっているこの時期、親が本音で「最低限、生きるのにこれが必要!」ということを語ることは意味があると思う。

■子供の心に刺さる「答え」をすべての親が考えてほしい

【3:「無気力系タイプ」へのアプローチ法】

最後は「無気力組」とも言える「勉強=めんどい」タイプに対するアプローチである。

1960年代後半にNHKで「ひょっこりひょうたん島」という人形劇が放映されていた。その劇中歌に「勉強なさい」というものがあった。

半世紀も前の歌だが「勉強は何のためにするのか?」という根源的テーマに作詞者の井上ひさしさんが明確に答えているものである。歌の中で子供たちは先生にこう言う。

「『勉強しなさい』と大人は子供に命令する。偉くなるため、金持ちになるため……」

大人からの勉強命令に対し、子供たちは反発しているのだが、それに対して先生が勉強は損得勘定でするものではなく「人間になるためにする」と子供たちを諭す歌詞となっている。

要するに、「勉強=めんどうくさい」とする子供に「人間になるために勉強しろ」と言っているのである。

「無気力のままで過ごすと人間になれない」という説をどう思うか? という親の問いかけに、子供はやはり「無視」を決め込むかもしれないが、この根源的問いを親こそが自分なりに考え、わが子に伝えることも、また大切なことだと思う。

ところで、筆者自身はこの問い(なぜ勉強をしなければならないのか?)に対する答えを探しているところだが、今のところこう思っている。

「“大人”をきちんと楽しめる大人になるため」

もっと子供の心に刺さる、問いの根幹を言い当てる言葉があるような気もする。読者の方はこの問いにどう答えるか、大いに興味が湧くところである。

(エッセイスト、教育・子育てアドバイザー、受験カウンセラー、介護アドバイザー 鳥居 りんこ 写真=iStock.com)