2月11日に韓国入りし、その翌日に江陵で初練習を行なった羽生結弦。氷の感触を確かめるように滑りはじめ、1回転ジャンプで助走の入り方を確認すると、最後にトリプルアクセルを跳び、15分間 の”足慣らし”で氷から上がった。


練習で軽快な動きを見せた羽生結弦

 その練習では体の軽さや動きのキレのよさを感じさせたが、 13日午前の公式練習でも不安を払拭するような滑りを見せる。10分間ほどスケーティングで体を慣らした羽生は、ループ、フリップ、ルッツの3回転ジャンプを軽々と跳んだ。さらにトリプルアクセルを2本決め、4回転トーループと4回転サルコウを、軸の細い回転できれいに決めてみせた。

 曲かけ練習では新たな構成も披露した。最初のサルコウはパンクして2回転に終わり、次のジャンプはループのような入り方をしたものの跳ばず。しかし続く3回転フリップを軽く決めると、スピンをパスしてステップの動きを確認するように軽めに滑った。

 後半に入ると、4回転サルコウ+3回転トーループ、4回転トーループ+1回転ループ+3回転サルコウ、トリプルアクセル+2回転トーループを続ける。その後はループが1回転になり、3回転ルッツで着氷を乱す場面もあったが、少し息を整えて最後はチェンジフットコンビネーションスピンで締めた。

 これが平昌五輪に向けて作り上げてきた構成かとも思われたが、このまま本番に臨むわけではないようだ。11日に韓国入りした際に、空港で「ジャンプ構成はこれからの調整をみて決める」と話していたが、13日の練習後に行なわれた記者会見でもその考えは変わっていなかった。

「今回の試合は本当に作戦が大事だと思うし、ジャンプ構成も本当にたくさんの選択肢があると思うので……。 もちろん自分の中には『クリーンに滑れば絶対に勝てる』という自信があるし、本当にそう思っています。そのためにプログラムをどんな構成にするかは、これから調子を上げていく中で決めたいと思っています」

 昨年11月にケガを負った羽生は2カ月ほど氷の上で練習ができなかった。その間、陸上トレーニングをする中でジャンプのフォームやイメージを固めようとしていたが、その頃は焦りもあったようだ。

「体力面にはかなり不安がありました。フィギュアスケートは陸上でできるものではないので、氷上でのジャンプの回転やスケートの感覚なども戻せるのかも不安でしたね。でも、再び氷の上で滑れるようになってからの1カ月で、『五輪に出られるな』と思えるくらいの練習を積むことができました。

 ケガをしてからここまで、特につらかったことはなかったです。ひたすらやるべきことをやってきたし、『これ以上できない』ということをやってきたので、もう何も不安要素はないですし、なんの問題もありません」

 この日の記者会見には、多くのテレビ局や記者、カメラマンが集まった。その人だかりを見た羽生は、「たくさんのメディアを通して、さらに多くの人が自分のことを見てくれているんだ」という気持ちになったという。国民的な注目は大きなプレッシャーになるかもしれないが、久しぶりに滑ることができる試合で、平昌五輪のリンクでその視線をすべて受け止めようとしている。

 ここ数年の男子フィギュアスケートでは、若い選手たちが数種類の4回転をプログラムに入れるようになった。羽生の”負けじ魂”にも火がついて今季は4回転ルッツにも挑戦した。しかし、それが大きなケガを招いてしまったことで、今は「4回転の種類が少なくても、自分が完璧な演技をすれば勝てる」と、シンプルに考えるようにしているのだろう。

 難度の高さだけでなく、完成度を求めたい。そう意識が変わったことが、今の羽生の強みになる。

「完成度が高い、熟成した演技で勝負したい」

 ケガを乗り越えたことで見えた、羽生が理想とするフィギュアスケートの形。それを完璧に演じ切った先に、表彰台の頂上が見えてくる。

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