ぐるなびは販促支援サービスに加え、店頭業務の支援にも乗り出した(写真:ぐるなびホームページより)

ぐるなびは2017年10月末に2018年3月期の業績予想を下方修正した。外食業界は今、深刻な人手不足にあえぐ。ぐるなびもこのあおりを受け、柱の販促支援サービスは低調だ。
一方で店頭業務をIT化するサービスの開発を強化するなど、新領域の開拓を急ぐ。外食分野のネットサービスにおいて競合も増える中、独自色を生かしたサービスをどう展開していくのか。久保征一郎社長に聞いた。

ライバルが激増している

――飲食店向けの販促支援サービスで苦戦を強いられています。

日本全体で働き手が減っている中、外食はコンビニエンスストアや運送業と並んで大きな打撃を受けている。時給があまり高くないこと、フレキシブルに働ける職場が外食以外にも増えたことなど、複合的な要因がある。

店頭の人員が不足している状況では、お客さんを呼ぶための宣伝や販促の施策を次々に打てない。時給を上げたり、求人を出したりする費用もかさむ。われわれの主力事業である販促支援が苦戦している背景には、こんな事情がある。

ぐるなびはネット黎明期からある販促メディアだが、今はライバルが激増している。外食の専門メディアだけでなく、SNSも飲食店探しの場になった。飲食店側が少ない予算で最も効率的に販促施策を打てる場を探す中で、当社があおりを受けているのは否めない。

──挽回策はありますか。

まず販促分野では、当社で支援できる範囲を広げていく。ユーザーの立場で考えれば、仕事関連の会食だったり、プライベートの飲み会だったりと、シチュエーションによって飲食店探しの手段を変えるのが当たり前になっている。すべてのニーズをぐるなびというメディアだけで網羅することはできない。

ユーザーがそういうふうに動いている以上、うちとしては、たとえばインスタグラムで効果的にお客さんを呼び込むにはどうすればいいか、お店のオウンドメディアにはどんなコンテンツを出すべきかなど、うち以外のメディアの運営についてもトータルにサポートしていきたい。自社メディアをもっと使いやすいものに進化させていくことも重要だが、それだけに固執するつもりはない。


ぐるなびの久保征一觔社長は自前主義だったサービス開発について、今後は積極的に他社と提携していくことを強調した(写真:梅谷秀司)

直近で新たに力を入れているのが、POS(販売時点情報管理)システムなどの業務支援サービスだ。当社には日々飲食店を回る1000人規模の営業スタッフがいる。彼らを軸に、飲食店で働くスタッフ自身も気づいていない課題を掘り起こし、販促以外の分野での新サービス開発につなげている。

人員確保の面では、外国人も含めた採用支援サービスや、従業員満足度向上のためのリサーチサービスを始めた。長く“自前主義”でサービス開発をしてきたが、自社ノウハウだけで手が届かない分野は他社と積極的に提携していく。

外食業界でIT化が遅れている要因とは?

──2017年10月からは予約受け付け・管理のIT化サービスの提供も始めました。

多くの飲食店の予約管理は、今でも紙のノートが中心だ。昔から使っていて安心感があるのはわかるが、字が汚くて後から読めなくなったり、予約履歴を探すのに時間がかかったりと不便な面が多い。IT化することで業務効率が格段に向上する。

さらに、予約データをPOSの決済データと組み合わせれば、誰が何をどれくらい食べたのかという貴重な情報が得られ、リピート販促にも生かせる。そうなれば、販促支援で成長してきたわれわれの本領を発揮できる。これはPOSレジや台帳だけを作る会社以上に、うちが強みを打ち出せる点だ。

──実際に提案を進める中で、飲食店からはどんな反応が?

どのサービスも飲食店に特化した機能を備えている点が好評で、徐々に普及が進んできている。従来の販促商品以外に武器を持つことは、当社にとっても意味が大きい。特に業務支援系のものは、現場の担当者だけでなく、今までは出てきてくれなかったお店のオーナーや社長が出てきて説明を聞いてくれる。お店とのパイプ、信頼関係が太くなれば、営業効率もさらに上がってくる。

──そもそも、外食業界でIT化が遅れている要因は何でしょうか?

経営の単位が小さすぎることは大きい。10店前後の中小チェーンや個店の経営者は、日々の業務に追われてしまい、新しい知識を身に付け、自らツールの導入を行う時間などない。

日本の外食業界では、こういった小規模事業者が市場全体の6割を占めており、食文化の多様性を支えている。ここの経営が成り立たなくなれば、選択肢が減る、利便性が落ちるなどの形で、食べる側の消費者に跳ね返ってくる。

1000人のインフラを持つ当社だからこそできることは、ITツールの導入を手伝うだけでなく、ちゃんと使えるようになるまで面倒を見ること。人手不足という逆境は、業界にとって経営のやり方を大きくアップデートするチャンス。ぐるなびにとっても、顧客との接点を広げ、足元の苦戦を打開するチャンスといえる。

予約から決済までサイト上で完了


久保征一郎(くぼ・せいいちろう)/ぐるなび社長。1945年東京生まれ。東京工業大学卒業。コンピュータ開発会社設立などを経て、1996年に飲食店情報検索サイト「ぐるなび」を開設。2001年から現職(撮影:梅谷秀司)

──飲食店向けの訪日外国人対応支援も進めていますね。

本格的に始動して2年半くらい経つが、やっと外国語に翻訳した飲食店・メニュー情報が一定レベルまで増えてきて、少しずつ使える形になってきた。今後はお店やメニューの登録数を伸ばしつつ、メディアとしての使いやすさを上げていく。

足元で取り組んでいるのが、日本に来る前に飲食店予約をできる仕組み作り。ぐるなびというメディアは認知度が低いので、海外のOTA(オンライン旅行会社)と組んで、彼らのサイト上に事前予約できる日本の店を掲載するスタイルだ。

このサービスの最大の強みは、予約から決済まで全部サイト上で完了できることだ。日本に来たら、お店に行って飲食するだけ。追加の注文をしなければ日本で支払いは発生しない。メニューの説明や支払いなど、店頭でのやり取りを減らせることは客側にも飲食店側にもメリットがある。事前決済であれば、店はドタキャンのリスクも回避できる。

昨年12月からは、中国の口コミサイト「大衆点評」と「美団」を運営する、O2Oで中国最大手の美団点評とこの集客・予約・決済サービスで提携が始まった。2018年は提携先をさらに増強していきたい。

(『週刊東洋経済』12月30日ー1月6日号「トップに直撃」に加筆)