日立は秘密計算など元データを秘匿した状態で計算する手法を開発している。違う組織間でデータを共有する場合も、相手にデータを渡さずにデータを共有した状態で解析できる。

 森田主任技師は「データ保護のため現在はデータ共有のニーズはない。共有メリットが出てくれば今後ニーズが出てくる可能性はある。そうなれば技術は提供する」という。

 MIは材料技術と計測技術、データ科学の三つの技術の融合領域だ。3要素をうまく連携させて初めて機能する。例えば材料研究者が方向性を決めて、計測技術者が材料を測り、データの品質や標準仕様を整える。

 蓄積したデータをデータ科学者がAI技術を駆使して解析する。その結果を基に材料研究者が試作品を合成し、新しいデータが蓄積されていく。このデータの循環をいかに作るかが重要だ。受託支援では、材料開発の実績を積み上げながら、このモデルを構築する必要がある。

 もともと日立グループは電子顕微鏡などの計測技術は日立ハイテク、データ科学は日立製作所、材料技術は日立化成や日立金属が保有し、グループ内でMIのデータ循環を作れるポテンシャルがあった。

 グループ内で方法論やツールを確立し、一部を外販することも不可能ではない。開発リソースの一部を他社と共有してデータや事例を増やし、結果としてグループ全体の競争力を高めることが可能だ。

 つまりグループ内でデータを集めるパワーゲームでも、顧客への開発支援を主体とした共創モデルでも優位な立場にある。その上で顧客からの信頼を重視し、ビジネスを先行させ案件ごとに採算を取る道を選んでいる。

 日立を追い掛ける組織は材料と計測、データを含めて、大きな絵を描く必要が出てくるだろう。材料開発支援の実績は当然として、大学や計測機器メーカーなどとの連携でデータや技術を補ったり、MIと知財や標準化、規格対応支援などを連結させてサービスの厚みを増すなどの戦略が問われることになる。

(文=小寺貴之)