例えば、東京・大手町のオフィス街ど真ん中に位置する本社ビルの地下に、ロボットルームを設置しているほど。レストランの並びにあるこの一室にはファナック製の黄色いロボットが4台置いてあり、そのうち1台は、パウチ製品のように柔らかく不定形のモノをエアで吸引して掴むための研究用。カメラ画像をもとにどの部分を掴みに行ったらいいか、深層学習で予測するアルゴリズムを採用しています。

 このほかにも、ロボットがゼロから学習しながらカゴにバラ積みされた部材を取り出したり、ロボットや機械の故障予知、工作機械を起動間もない状態でも使えるようにする熱変異補正、消耗品の寿命予測、製品のキズ検査-といった技術開発に取り組み、今年中の商品化に向けて最終調整を進めているとのこと。

 ライフサイエンス分野の取り組みでも、血液などからがんの遺伝子変異を診断する「リキッド・バイオプシー」を深層学習と組み合わせることで、99%以上の診断精度が得られる可能性があると言います。

 さらに、同社がIoT関連で重要視しているのは、データ分析だけでなく分析データを制御に使えること。特に自動運転車の関係では、「雪山や雨の中でもロバスト(安定的)にクルマを制御できる汎化性能(未知データに対して正解を出せる能力)を持たせられる可能性がある。それが深層学習の大きな利点」と西川社長は説明します。

 一方で、そんな同社に課題があるとすれば、人材集めかもしれません。昨年出場したドイツ・ライプチヒでのアマゾン・ピッキング・チャレンジは惜しくも2位に終わったものの、同じ部門で1位だったオランダのデルフト工科大学チームから2人ほどが入社し、思わぬ収穫だったと言えるでしょう。

 ただ、西川社長によれば、グーグルやフェイスブック、ウーバーなどと優秀な人材の取り合いになることもあるという。そうした事情からか、今年5月に発表した米マイクロソフトとの深層学習ソリューション分野での戦略的協業にも、両社共同による人材育成プログラムが含まれていました。

 人材面では、8月1日付で米カリフォルニア大学バークレー校(UCバークレー)のピーター・アビール教授がテクニカルアドバイザーに就任の予定。同教授はロボットに機械学習を適用する最適化・自動化分野の第一人者で、深層強化学習によるロボット制御で世界最先端の研究成果を数多く発表しているのだそうです。

 「互いによく知っていたのですが、アビール教授は理論に加え、実用化のマインドも強い。彼にいろいろアドバイスを受けながら、深層学習や強化学習の実用化を進めていきたい」。岡野原大輔副社長はこう期待しています。

 ではこの先、PFNは具体的にどんな会社を目指していくのでしょうか?

 「世間からはソフトウエアの会社と見られているが、ソフトウエアの会社で終わるつもりはない。これからはソフトウエア、ハードウエアの境界がどんどん曖昧になり、コンピューターサイエンスの概念も変わっていく。そうした中で、多様性と成長を結び付けられる環境を用意して世の中の流れにフレキシブルに追従し、変化を巻き起こしていく」と西川社長。

 岡野原副社長も、個人の能力を生かしつつ、新しい重要な課題にチームで挑戦し、いち早く実用化することの重要性を掲げながら、同社が提唱する「エッジヘビーコンピューティング」でのイノベーション創出を視野に入れています。エッジヘビーコンピューティングとは、ネットワークのエッジ(末端)にあるデバイスで分散協調的にデータを処理する技術のこと。

 「最終的には、さまざまなデバイスに知能が埋め込まれた知能化システムが、生のデータを共有せずに学習済みモデルを共有できる世界を目指す」(岡野原副社長)。

 PFNが設立されて3年余。AIを通して日本から世界を変える挑戦の物語は、まだまだ続きます。

(文=藤元正)
日刊工業新聞2017年7月31日

<国際ロボット展主催者イベント>