家事へのお礼」に関する投稿が先日、SNS上で話題になりました。きっかけは、ある男性タレントがトーク番組で「恋人が洗い物をしないので仕方なく自分が洗うことがあるけど、彼女がそれに気が付かないと嫌だし、お礼を言ってほしい」と発言したことに対し、出演した女優が「うちは『お礼言わなくていいよ。お礼言うなんて特別なことしたみたいじゃない』って言われます」と話したこと。これについて「いい旦那さんだ」「『やってあげた』と思ってる男性とは一緒に暮らしたくない」「自分がするつもりだった家事をしてくれた時はお礼言ってもいいのでは」などの意見が出ました。

 パートナー間における「家事へのお礼」について「マナーのプロ」の見解はどのようなものでしょうか。国内外の企業や大学などで人財育成教育やマナーコンサルティングを行うほか、NHK大河ドラマなどのドラマや映画で俳優や女優にマナー指導を行い、日常生活における円滑な人間関係の構築に関するマナー本が国内外で70冊以上(累計100万部超)のマナーコンサルタント・西出ひろ子さんに聞きました。

「すべき」と断定はできないが…

Q.マナー的観点から「家事へのお礼」は伝え合うべきだと思われますか。

西出さん「マナーとして『〜すべき』と断定できることではないと思います。一般的には相手が何かをしてくれたことに対して、感謝の気持ちを『ありがとう』で伝えることをお薦めします。ただし、相手がそれをしなくてもよいという場合は、伝えなくてもよいとなりますね。マナーは『相手の立場に立つ』ことですから、相手に応じて対応が変わるものなのです。今回の『家事』ということでいえば、お礼の有無や必要性はあくまでもそのパートナー同士の自由。二人が『言ってほしい』『言わなくてもよい』などの意見を共有し、納得して決めたルールやマナーがあるのなら、それにのっとるのがよいと思います」

Q.しかし、パートナー間でもお礼を伝え合うのは気持ちよいことですね。

西出さん「はい。私が英国でホームステイをしていた時、その家のパパとママ、また親子や兄弟同士、日常のどんなささいなことでも、『サンキュー』と言っていました。これは大変素晴らしいコミュニケーションであり、一緒に生活をしていて気持ちよかったことを今でも覚えています。『ありがとう』を言い合うのは、そのパートナー同士の自由であると先にお伝えしましたが、たとえば、子どもがいる家庭の場合、できるだけ積極的に大人がお礼を伝えるのがよいと思います。一例として、英国には『プリーズの精神』があり、母親が赤ちゃんに授乳をする時『プリーズ』と声をかけます。赤ちゃんは耳にした言葉を自然と覚えるので、最初に『プリーズ』を発することも多いそうです。『ありがとう』という感謝の言葉でコミュニケーションできる家庭環境は、パートナー間のみならず子どもにも好影響をもたらすと思います。仕事柄、企業や学校などで『言われて一番うれしい言葉は何ですか』というアンケートを取るのですが、それは断トツ『ありがとう』です。人は、どこかに自分の行いを『気づいてもらいたい』『認めてもらいたい』という気持ちがあると思います。『ありがとう』という言葉は、その欲求を満たしてあげることにもつながるのでしょう。家事に限りませんが、相手に何かを『やってもらって当たり前』と思わず、してくれたことへの感謝を積極的に伝え合うことで、損(ソン)をすることはなく、尊(ソン)が生まれることでしょう」

(オトナンサー編集部)