2017-2018シーズン展望@イースタン・カンファレンス編

 いよいよNBAの新シーズンが10月17日(日本時間18日)に開幕する。ゴールデンステート・ウォリアーズを倒すチームは現れるのか、それとも絶対王者が連覇を果たすのか――。オフシーズンの選手移籍を振り返りながら、まずは今季のイースタン・カンファレンスを展望してみよう。


レブロン・ジェームズと張り合える相手はいるのか

 マンガ、もしくは映画……。裏で優れたシナリオライターが暗躍していると言われても驚かない。昨シーズン終了時から移籍情報をアップデートしていなかったファンは、思わぬ選手が思わぬ色のユニフォームを着ていることに驚くはずだ。それだけ選手の移動が多く、とりわけスター選手たちの移籍が激しいオフだった。

「キング」レブロン・ジェームズ(SF)を擁し、3季連続でイースタン・カンファレンスを制しているクリーブランド・キャバリアーズ(51勝31敗/イースタン2位)は、すでにイースタンで群を抜く戦力を有している。だが、今季のロスターに居並ぶメンツは昨季以上に豪華なものとなった。

※カッコ内は昨季レギュラーシーズン成績。ポジションの略称=PG(ポイントガード)、SG(シューティングガード)、SF(スモールフォワード)、PF(パワーフォワード)、C(センター)。

 まずは「金よりも勝てる環境を優先したい」と語っていたFA(フリーエージェント)のデリック・ローズ(PG)を獲得。ローズは2010-2011シーズンにMVPを獲得して以降、ケガが続いて精彩を欠いていたが、昨季は平均18.0得点を記録し、往年の輝きを取り戻しつつある。

 さらにイースタン王者のロスターを大きく変更させる要因になったのは、キャブス生え抜きのスーパースター、カイリー・アービング(PG)の鋼(はがね)の意志だった。よりチームの中心的存在になることを望んだアービングが「キャブスにいてはレブロンの陰に隠れ続けることになる」とトレードを要求したのだ。

 翻意は不可能と判断したチームは、トレードに合意するチーム探しに奔走。そしてようやく見つけてきたのが、昨季カンファレンス・ファイナルで激突した「ライバル」ボストン・セルティックスだった。キャブスはアービングとの交換に、昨季平均28.9得点で得点王争いに絡んだアイザイア・トーマス(PG)と、守備力に定評があるジェイ・クロウダー(SF)、さらに2018年のドラフト1巡目指名権などを手にした。

 キャブスの補強はまだ続く。今度はFAとなっていたレブロンのマイアミ・ヒート時代のチームメイト、ドウェイン・ウェイド(SG)も獲得したのだ。

 まるでアメリカン・コミックスの『アベンジャーズ』のような顔ぶれだ。エースのレブロンのもとに、元MVPローズ、新星トーマス、旧友ウェイドが集結し、絶対王者のゴールデンステート・ウォリアーズ討伐に挑む。

 トーマスは股関節のケガの影響で開幕には間に合わないため、当面のスターターは、PG=ローズ、SG=ウェイド、SF=レブロン、PF=ケビン・ラブ、C=トリスタン・トンプソンという布陣になる見込みだ。「ローズとウェイドのバックコートコンビはスリーポイント(3P)シュートが不得意」と不安視する識者も多いが、それでもイースタンで他の追随を許さないタレント集団なのは間違いない。

 キャブスにとって、イースタンの覇権はさほど関心もないだろう。視線はその先。このメンツでウォリアーズに勝てないとチームが判断すれば、シーズン中にさらなる補強が行なわれるはずだ。

 そのキャブスを猛追する一番手は、アービングを獲得したセルティックス(53勝29敗/イースタン1位)だろう。今オフのFAの目玉だったゴードン・ヘイワード(SF)を獲得し、オールスター4度出場のアル・ホーフォード(C)も健在だ。また、ドラフト1巡目全体3位で獲得したルーキーのジェイソン・テイタム(SF)は、昨季かぎりで引退したポール・ピアースに「昔の俺を見ているみたいだ」と言わしめた逸材。サマーリーグやプレシーズンゲームでさっそく得意のジャンプシュートを見せていた。

 キャブスとセルティックスとのトレードには、「トーマスとクラウダー、スタータークラスを2選手も手に入れたキャブスが得をした」と語る識者も多い。しかし、セルティックスの将来を考えれば、一概に損をしたとは言い切れないのではないだろうか。

 なぜならば、チームのエースだったトーマスは抜群の人気と攻撃力を兼ね備えるものの、身長はわずか175cmしかなく、王者を目指すならばディフェンス面で穴となりかねないからだ。獲得したアービングは191cmと上背もあり、さらにまだ25歳と若い。「長期的に見ればセルティックスが得をした」と断言する識者が一部にいることも忘れてはならないだろう。どちらが本当に得をしたのかの答えは、今季だけでなく、数年後まで待つべきだ。

 ただ、トーマスのような地元ファンに熱狂的に愛されたプレーヤーのトレードに、「フランチャイズビルダー」という言葉を懐かしく思うオールドファンも多いはず。なかにはトーマスを放出した球団に怒りを覚えたファンもいたのではないだろうか。セルティックスを愛したトーマス本人は、トレード発表から1週間後、その胸中をこう手記につづっている。

「本音を言ってしまうと、今も心が痛む。それも、とてつもなく。ただ、みんなに理解してほしいのは、僕の心が痛いのは、誰かに何かをされたからではないということ。痛みの原因は自分自身にある。心が痛むのは、僕がボストンに恋をしていたからなんだ」

 運命の悪戯(いたずら)と言っていいだろう。トレード前から決まっていた今季の開幕カードのひとつは「キャブスvs.セルティックス」。トーマスの出場こそ叶わないが、この試合の勝敗が今季のイースタンの覇権を占ううえで重要なゲームであることは疑いようもない。

 さて、キャブスとセルティックスの2強を追いかける他のチームについても言及したいところだが、ジミー・バトラー(SF)がシカゴ・ブルズ(41勝41敗/イースタン8位)からミネソタ・ティンバーウルブズへ、ポール・ジョージ(SF)がインディアナ・ペイサーズ(42勝40敗/イースタン7位)からオクラホマシティ・サンダーへ、そしてカーメロ・アンソニー(SF)もニューヨーク・ニックス(31勝51敗/イースタン12位)からサンダーへ、さらにポール・ミルサップ(PF)もアトランタ・ホークス(43勝39敗/イースタン5位)からデンバー・ナゲッツへ移籍した。東から西へスター選手の流出が相次ぎ、近年続く「西高東低」にますます拍車がかかっている。

 このことを予知していたかのように、リーグは今季ロサンゼルスで開催されるオールスターゲームを東西戦ではなく、東西混合チームの対戦で行なうことを決定した。チームキャプテンに選ばれた選手が好きな選手を順番に指名していくという、ドラフト形式のチーム編成となる。

 話をイースタンの展望に戻そう。キャブスとセルティックスを追うはずの昨季イースタン3位のトロント・ラプターズ(51勝31敗)と同4位のワシントン・ウィザーズ(49勝33敗)は、ともに戦力の大きな上乗せはない。同5位のアトランタ・ホークスに至っては、ミルサップのみならずドワイト・ハワード(C/シャーロット・ホーネッツ)も放出し、チームは再建の真っ只中だ。

 ただ、同6位のミルウォーキー・バックス(42勝40敗)は面白い。今季リーグ5年目ながら成長を止めないヤニス・アデトクンボ(SF)と、昨季の新人王マルコム・ブログドン(PG)を擁し、上昇気流に乗っているのは間違いないだろう。左ひざの前十字靭帯を断裂したジャバリ・パーカー(PF)の復帰が早くとも来年2月以降と報じられているが、彼の復帰時期によっては好成績を残す可能性も十分にある。

 では、今季のダークホースはどこか――。それは、2001年にアレン・アイバーソンがNBAファイナルに導いて以来、長年イースタンのドアマットチームに甘んじているフィラデルフィア・76ers(28勝54敗/イースタン14位)ではないだろうか。

 チームが今季に賭けているのは明白だ。まずは今オフ、シューターのJ・J・レディック(SG)を獲得。さらに今年のドラフト1巡目全体1位で獲得したマーケル・フルツ(PG)と、昨年のドラフト1巡目全体1位ながらケガのためにシーズンを全休したベン・シモンズ(PG)は、ともに今季の新人王有力候補だ。

 また76ersは今オフ、昨季もケガのためにプレー時間を制限しながら平均20.2得点を記録したジョエル・エンビード(C)と5年1億4800万ドル(約165億円)で契約を延長している。この大型契約がエンビードに寄せる期待の大きさと、今季に賭ける意気込みを物語っているだろう。

 昨季途中から左ひざ半月板損傷のために離脱していたエンビードは、現地10月11日に行なわれたプレシーズンゲームのブルックリン・ネッツ戦で復帰。わずか15分の出場ながら22得点・7リバウンド・3アシストと圧巻の数字を残した。エンビードがシーズンを通して健康を維持できるなら、チームは2012年以来のプレーオフどころか大物食いまでも予感させる。

 そして最後に、今季のイースタン注目選手も紹介しておきたい。

まずひとりは、マイアミ・ヒート(41勝41敗/イースタン9位)のゴラン・ドラギッチ(PG)。今年9月に開催されたFIBA欧州選手権でキャプテンとしてスロベニアを初優勝に導き、自身は決勝で35得点の活躍を見せて大会MVPも獲得している。得点力と広い視野を兼ね備え、特にドライブからのユーロステップは必見だ。

 また、カーメロが去ってニューヨーク・ニックスの新エースとなるクリスタプス・ポルジンギス(PF)と、ジョージが去ってインディアナ・ペイサーズの新エースとなるマイルズ・ターナー(PF)にも注目したい。

 2選手ともに今季がリーグ3年目。221cmのポルジンギスは「ダーク・ノビツキー(ダラス・マーベリックス/PF)の後継者」と呼ばれ、インサイドプレイヤーながらミドルレンジからのシュートも得意なターナーは「クリス・ボッシュにスタイルが似ている」と称されている。両選手は「未来のスーパースターと呼ばれたこともあった」という肩書きでキャリアを終えるのか、それとも本当にスーパースターへの階段を駆け上がるか、今季が分かれ目となるシーズンと言っていいだろう。

 レギュラーシーズンは来年4月まで続く。そのときに笑っているのは、どのチームか。来春に思いを馳せるだけで心は躍る。さあ、いよいよ待ちに待ったNBAシーズンが幕を開ける。

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