橋下徹「北朝鮮対策ならヤクザに聞け!」

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■勝負するか、避けるか、手打ちとするか

国連安保理の非難決議、制裁決議を完全に無視してミサイル発射、核実験を繰り返す北朝鮮。今やアメリカだけではなく中国、ロシア、欧州諸国まで巻き込み、北朝鮮を中心に世界中の国々が国際政治の闘争を繰り広げているのが現実だ。この闘争に「勝つ」ために、どのように物事を運べばいいか。その際に、どのようなポイントについて判断すればいいのか。

まず言えることは、こういう「勝つ」ための戦略・策略の基本方針を練るのはインテリではムリだということ。こういうときは知識だけ豊富な「情報屋」「分析屋」ではなく、まさに「ケンカの達人」を活用しないといけない。この出だしのところでインテリかぶれした政治家や企業トップは間違っちゃうんだよね。

民間企業の世界で闘争モードの話といえば、営業合戦でライバル企業を追い落としたり、買収を仕掛けたりする領域が典型例だ。このときに、会社法の学者や経営論の学者に相談したって勝てるわけがない。本でお勉強を積んだだけのコンサルに相談しても無駄だよね。

このようなビジネス上の闘争も所詮ケンカなんだよ。そして世の中にはケンカの達人というのがやっぱり存在する。もちろん殴り合いの単純なケンカじゃなくて、策略を駆使して探り合い、化かし合い、騙し合いをやりながら自分を有利にするケンカ。勝つための戦略の策定、検討すべきポイント・論点の抽出という作業は、こういうケンカの達人たちと協議しないと良いものが作れない。

今の北朝鮮問題も本質はケンカだ。国際政治だ、安全保障だといきなり小難しいことで騒ぐから、北朝鮮問題は所詮ケンカなんだという本質を見誤ってしまう。それで専門家と称する者が自由気ままに分析・解説をやってしまい、結局日本はどうしたらいいのかについては「難しい問題ですね」という締めで終わってしまう。

そうじゃない。北朝鮮問題なんて、ケンカ闘争なんだ。この本質をつかめれば、日本がまずしなければならない最初の判断は、勝負するか、逃げるか、手打ちの和解にするかの3つしかない。この判断をするために検討しなければならないポイント・論点は何なのか、そしてその論点設定には誰の意見を求めていくべきなのか。そう、この論点設定についてはケンカの達人の意見を聞きながら、適切な論点設定を進めていくべきなんだ。

■“ケンカ闘争”で最初に検討すべき7ポイント

ケンカをする際の「勝負するか、逃げるか、手打ちにするか」の判断のために検討すべきポイント・論点が適切に設定されれば、次にその論点について専門家に議論してもらうことになるが、ケンカ闘争において最初の論点設定や、自分に有利に運ぶための大きな戦略・策略などの策定について一番知見があるのは、そのようなケンカ闘争で生き抜いてきた面々だろう。極論すれば「ヤクザ」な人たち。

このままだと誤解されちゃうので言い訳をしておくけど、僕は弁護士時代、そして知事・市長時代を通じて、暴力団排除の運動を進めてきた。反社会的勢力、暴力団が一般市民に危害を加えることは許してはならない。実際に、暴力団の抗争で一般市民が巻き添えを食らったり、暴力団に直接危害を加えられた一般市民はたくさんいる。

ただ犯罪を起こさない限り、暴力団であっても生活できるのが日本社会だ。暴力団、ヤクザを全面肯定するわけではないけど、社会に存在する以上、こういうケンカ闘争の問題については、ケンカの進め方や勝つためには何を検討しなければならないかの論点設定について、彼らに意見を求めるのも一つの手だと思う。冗談じゃなく。

現職の総理や、政府与党の幹部、役所の幹部が、正面切って表でヤクザな人たちと意見交換するわけにはいかないだろう。ということで、多くのヤクザな人たちと仕事上かかわってきたこの僕が、経験上彼らに学んだ勝つためのケンカの運び方について紹介します。

ケンカをする際の、勝負するか、逃げるか、手打ちにするかという最初の判断をするために検討すべきポイント・論点は以下の7つ。まあ言われれば単純なことなんだけどね。

1、こちらの攻撃(圧力)に相手は屈するのか。
2、相手は反撃してくるのか。
3、こちらの被害はどれくらいか。
4、こちらは被害を覚悟できるか。
5、こちらが目標とする勝ちとは何か。
6、相手の反撃に対してこちらは勝てるのか。
7、双方が矛を収める条件は何か。

このように論点を設定した上で、この検討は専門家の力を借りる。国際政治や安全保障の専門家はこの7つの論点について、しっかりと意見を出して欲しい。

この中でも最も重要な論点は1と2だ。しかしこれは相手の内心の話。これを的確につかむとなると、あの手この手を尽くした諜報と、何と言っても修羅場を潜り抜けた人たちの実体験をもとにした意見が重要になる。

6も、ヤクザな人たちとかかわると手打ちをするにはどういう条件が必要なのかが分かってくる。企業のM&A合戦でも同様の手打ちはよくやる。ところがインテリたちは経験がないから手打ちの仕方が分からないかもしれない。

ということで、次回以後、上記7つの論点について検討していく。論点が適切に設定された場合に、はじめて専門家の議論が有益となる。(ここまでの文字数=約2200字、メールマガジン全文=約9100字)

※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.72(9月19日配信)からの引用です。もっと読みたい方は、メールマガジンで!! 今号は《【北朝鮮ミサイル危機(1)】役に立つのはインテリよりヤクザのアドバイスだ!》特集です。

(前大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹 撮影=市来朋久)