新たにコンフォートモードどが追加されて走りの幅が広がった

 今日本でもっとも登場が待ち遠しいクルマ、それはホンダ シビック タイプRではないだろうか。セダン、ハッチバック、と新型シビックが日本で復活するのに伴い、3つめのラインアップであるシビック タイプも日本へ導入される。

 750台の限定で日本へ入ってきた先代シビックタイプRは、ドイツのニュルブルクリンク北コースにおいて、ルノー メガーヌR.S.との熾烈なタイム争いを行い、7分50秒63という、当時FF量産車最速となるタイムを叩き出した。その後フォルクスワーゲン ゴルフGTIクラブスポーツが7分49秒21でこれを更新、世界最速の座を明け渡している。

 そして新型タイプRがこれに挑戦! じつに7分43秒80というとてつもないタイムを記録したのだ。しかもこの記録は、安全のためにロールケージを追加し、その重量分を調整するためリヤシートを降ろしたという、基本的に市販仕様だというのだから驚くほかはない。タイヤも市販に装着されるコンチネンタル スポーツコンタクト6でアタックしたという。


今回、ホンダが開発中の将来的な技術や思想、今後の方針などをお披露目するため、メディアを対象に毎年行っている「2017ホンダミーティング」にて、その新型シビック タイプRに短時間ながら試乗する機会を得た。

 非常に残念ながら、小さなハンドリングコースを2周という限られた条件であり、ニュルブルクリンクで驚異の走りを披露したシビック タイプRのほんの一部を味わったに過ぎないのだが、その印象をお届けしたい。

 コクピットに座った印象はスポーツモデルそのもの。硬めのセミバケットシートは身体をがっちりと支え、ステアリング、ペダル、シフトノブまでが本物の走りを予感させる。しかしいわゆるスポーツカーとは違い、ポジションは非常にラクだ。あくまで静止状態での評価だが視界を含めて狭めの市街地をゆったり走るとしても苦痛にならないことは容易に想像がつく。


ステアリング右にあるスターターボタンを押し、エンジンを始動! シフトを1速に入れていざ初乗りだ。エンジン音は非常にスポーティ。シフトの操作フィールも硬質で、印象はいい。

 今回のシビック タイプRには3つのドライブモードが設けられている。コンフォート(comfort)/ノーマル(normal)/+R(plus R-プラス・アール)で、先代に対してコンフォートモードが追加された形だ。助手席に開発者が座り、解説してもらいながらの走行で、まずはコンフォートで1周することになった。


事前に話を聞くと、今回のシビック タイプRはよりマルチなシーンで使えるようなクルマを目指したという。簡単にいえば、コンフォートは普段使いを可能にし、+Rを選べばガンガンにサーキットを走り込めるというわけだ。先代シビック タイプRの幅を上下方向に広げたイメージとのことだった。

自動ブリッピング装置の完成度は高いが必要ない

 さて、コースに入り走行するが、正直テストコースのフラットな路面ではコンフォートの快適性、乗り心地は評価がし辛い。だがコーナリングでは、ロールやピッチングなど、ある程度の車体の動きを許容し、加速、減速、転舵と、十分なマージンを残した領域でもクルマと対話して走りを楽しめるような印象を受けた。

 またとてもいいのがブレーキだ。ペダルのタッチは剛性感があって安心して踏むことができる。また旋回中のソフトな減速、しっかり減速してからターンインする際のブレーキを抜いていく部分に関しても、思ったとおりにコントロールができ、ペダルの踏力と実際の減速度がとてもリニアだった。


もうひとつ、新型シビック タイプRには、MTでありながらシフトダウン時に自動でエンジン回転を合わせてくれる装備が採用された。簡単にいえば自動ヒール・アンド・トゥシステムということか。これがオンにされていたのでそのまま走ると、実にきれいに回転が合う。これは制御の緻密さもだが、そもそものエンジンレスポンスが鋭くなければこうはいかない。


しかし個人的には、タイプRを選ぶユーザーにはこの装備は必要ないと思う。というよりもそうあってほしい。ポルシェ911GT3などが2ペダル2クラッチのPDKを採用する時代。速さを求めるなら2ペダルで十分というより、システムによっては2ペダルのほうが勝るのだ。そのなかであえて3ペダルを選ぶのだから、3ペダルなりの楽しみ方をしてほしいし、そういう腕を身につけてからタイプRにチャレンジしてほしいと思う。再度言うが、あくまでこれは個人的な意見だ。

 さて、2周目は+Rモードに変更して走行。ガンガンに攻められる状況ではないので、あえてコンフォートモードと同じ走り方で比較する。明らかに変わったのはステアリングを切り出した瞬間のノーズの入りだ。クイックさが増し、瞬時に回頭を始めるのだが、過敏さがないのが好印象だ。さらにコーナリング中の姿勢変化が抑えられ、限界性能が高まっていることが感じられた。

 リヤの動きも今回の試乗範囲内では安定的で、モードに関係なく不満はない。ただしリヤサスペンション形式が先代のトーションビームからダブルウイッシュボーンに変更されたことが、どのぐらいの効果をもたらしているかは、やはりこのコースでは判断できない。次の試乗の機会を待たねばならないだろう。

 エンジンはじつにトルクフルで加速の鋭さも感じるが、比較試乗したわけでもなく、さらにこのコースでは先代よりも進化した……かどうかはわからなかった。

 しかし気になった点もある。シフトレバーの位置だ。剛性感のあるフィールであることは述べたが、さらにストロークは非常に小さく、メカとしてはよく出来ている。しかしドライバーから横方向に遠く、運転中の操作を考えるとやや操作し辛かった。

 サーキットなどで大きなコーナリングGが掛かっているときに操作することを想像すると、操作に若干のもたつきが出るなど難儀しそうな印象だ。このあたりを開発側に確認すると、「シビック自体のボディサイズが大きくなったため、居住スペースも広がりました。右ハンドル、左ハンドル仕様をそれぞれ用意するため、中央にシフトレバーを配置してあるため、体格によっては若干遠く感じるかもしれません」とのことだった。


さて、ホンダは、現在のダイナミクスコンセプトである「Enjoy the Drive」を追求するため、2016年10月から商品・感性価値企画室を立ち上げた。これは数値で表せない「感性価値」を商品にもたせるための研究、開発を行うものだという。まだ立ち上がったばかりで、これが十分に反映された商品が登場するのは、まだ先という印象だが、少なくとも今回のシビック タイプRは、こうした思想は入っていると、僅かな試乗時間のなかで感じられた。


私が感じたその意味は、これまでのタイプRに比べ、単に機械として速いクルマではなく、人間が速く走らせることを楽しめるクルマだと思えたということだ。

 今回はシビック タイプRのほんの一部に触れたに過ぎないが、大いに登場が楽しみなクルマだ。さまざまなシーンで乗って、今回感じた以上の楽しさを感じさせてくれるクルマであることを期待したい!