二階俊博氏(自民党幹事長)

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高い内閣支持率を維持し、「安倍一強」と言われる安倍政権を支える自民党幹事長の二階俊博氏。その存在感を増している二階幹事長に安倍政権の舞台裏を直撃した(前編)。

■安倍首相は「日米外交が一番大事だ」と

【塩田潮】自民党幹事長に就任して半年余りが過ぎました。

【二階俊博(自民党幹事長)】党の運営は総裁が中心ですが、実務は総裁任せでは済まない問題があり、政党はそこが一番大事なところです。その意味で幹事長は重要な仕事で、やりがいもある。私は「1000本ノック」と言っています。あらゆる方面から飛んでくるボールを受ける。党内のいろいろな意見を収斂して円満に党運営を行うことが大事です。

【塩田】自民党幹事長は前々から一度はやってみたいポストと思っていましたか。

【二階】全然思ってもいなかった。どんなに面倒くさいか、想像がついていました。実際やってみて、そんなにいいものでもない(笑)。自分の判断、行動だけで動けばいいというものではなく、党全体、それから国際的な対応も考えなければ。楽なようで窮屈です。

【塩田】昨年9月、自転車の事故で重傷を負って退任した谷垣禎一幹事長(前自民党総裁)の後任として起用されましたが、「幹事長に」という話は、どういう経緯で。

【二階】安倍晋三首相から電話があり、「幹事長をお願いします」と。谷垣先生が大変ご苦労されているときで、一刻も早く幹事長を決め、次の態勢を整えていくのが党の方針でしたから、私も素直にお引き受けしました。

【塩田】当時は自民党の総務会長でしたが、次の幹事長は自分に、と思っていましたか。

【二階】そんなことは全然ありません。

【塩田】2度目の安倍首相の政権担当は4年3カ月を超えました。

【二階】後世の歴史家が点数を付けると、かなり高い点となる首相だと思います。第一、政権の進め方について、党内に特に異論はなく、みんなが協力的です。これが今の政権の一番大事なところです。過去には必ず意見を言う人がいてまとまらないということをみんな経験しています。特にこの方向や方針がよかったとか、この薬が効いたというのはわかりませんが、安倍首相は広く党内の意見に耳を傾け、自分の考えだけで強引に進めるということはしない。総裁の人柄もあって、今はみんながまとまっているように思います。

人事などでも、1回目の政権でのご苦労を生かして、口には出さず、腹の底でじっと考えている。周りも絶対に政権を支えなければという思いがありますから、丁寧に議論すべきことはするし、早くやるべきことは早くやるということで、党内が一致しています。

【塩田】安倍政権はアベノミクスを掲げて経済運営に取り組んできました。

【二階】経済政策は成功だったと思います。ぶれることなく、経済一本でいくと強い信念で取り組んだのがよかった。大成功ではないかもしれないが、首相が描いた方向に進んでいると承知しています。党内にも特別の異論はありません。

【塩田】安倍首相が唱える「地球儀を俯瞰する外交」についてはいかがですか。

【二階】このインタビューの直前まで首相と二人きりで話をしていましたが、最後は「日米外交が一番大事だ」という話でしたね。それから対ロシア外交も揺るがせにできない。自民党も、外交は政府の専管事項といった従来型の突き放したやり方ではなく、政府に対する外交協力も活発にやっていきたい。それが党の方針です。首相も期待しています。

■自公の円熟した協力関係は優秀な作品

【塩田】二階幹事長は自民党の親中派といわれていますが、安倍内閣の対中外交、自民党としての中国との関係は、どうあるべきだと考えていますか。

【二階】外交はすべからく全方位外交でなければ。安倍政権は非常に目配りが利いた外交政策を展開していると評価しています。中国はあれだけの歴史があり、広い国ですから、間断なく連携を密にしていくべきです。中国だからと特に構えて交流をやるのではなく、自然体で話し合いができる状況にきています。私は若い頃から中国に関心を持っていて、多数の交流団を率いて何度も訪問し、中国との間で人脈もできて、いろいろな話をフランクに話し合える関係になりました。お陰様で意見交換する相手には事欠かないという関係です。ですが、私は親中派でも親米派でもありません。純粋に日本派です(笑)。

【塩田】安倍内閣は高支持率を維持してきましたが、今年に入って森友学園の疑惑が問題になり、国会での籠池泰典理事長の証人喚問などで、政権が揺らぎ始めた感もあります。

【二階】詳細にわたってわれわれに報告が届いているわけではありません。新聞やテレビの報道で見る程度で、論評を下すのは早いかと思いますが、早晩、解決するだろうと思っています。国会審議への影響は、それほど心配することはないのでは。それから、この問題は安倍首相自身にはまったく関係ないでしょう。

【塩田】安倍政権では「首相官邸主導」が目立っています。現政権での政府と自民党の関係について、幹事長としてどう受け止めていますか。

【二階】官房長官とも、人事などでも必要な話し合いをしょっちゅうやっています。党と政府の関係で不都合なことはまったくありません。今、官邸との関係は一番いい形で流れているのではないか。力こぶを入れて「党対政府」と言うのはどうかと思います。首相官邸といっても、自民党で成り立っていて、官邸だけが突き抜けて存在しているわけではありません。「政高党低」とか「党高政低」というけど、そんなことはあり得ない。党と政府が協力し合うことに全力を傾けるのが大事です。

【塩田】安倍内閣は自公連立政権です。公明党との関係に変化はありませんか。

【二階】極めて順調と思います。最近、いろいろな声が聞こえてきますが、そんな簡単に壊れるものではない。自公が一緒に一つの政権を支えていくのは容易ではありませんが、連帯してバックアップしていく努力が必要です。

【塩田】昨夏の参院選の結果、自民党は衆参でも単独過半数を確保しました。

【二階】仮に自民党単独でやったらどうなるか。重要法案の円満な成立も、自公ともわがままを言わず、協力し合っているからでしょう。自民党には遠慮というものがなければ。

【塩田】昨年の臨時国会の終盤で、IR(統合型リゾート施設)整備推進法案の議決の際、公明党は自主投票を決め、山口那津男代表は参議院での採決で反対票を投じました。

【二階】一軒の家に住む夫婦でも、たまに意見が違うことがある。それが健全な家庭ですよ。だけど、協調し、配慮することが大事です。連立を組んでどれだけ重要な法案を通してきたか。いろいろな訓練の成果です。各選挙区で選挙の際に互いに作用し合っていることも否めない事実でしょう。だが、それだけでもない。これが円熟した自民党と公明党との協力関係で、近代政治での優秀な作品です。長く歴史に刻まれると思いますよ。

■小池知事の持ち味は思い切ってずばっというところ

【塩田】日本維新の会は野党ですが、安倍首相との関係が濃密です。維新は安倍政権に対して「是々非々」路線を唱えていますが、維新との関係をどう捉えていますか。

【二階】まさに「是々非々」でしょうけど、政党はいくつも存在するより、単純・明快にしたほうがいい。今は選挙区の区割りなど、いろいろな事情があって分かれているけど、政策や路線が一致するなら、自民党と一緒になるとか、時期がきたら考えてもらうということもあり得るのでは。だけど、実際にうまくいくかどうかです。時間をかけて両方で検討しなければ、と思います。といっても、私のほうで別に働きかけはしていませんが。

【塩田】維新に自民党と合流する気があると見えますか。

【二階】そんな失礼なことは申し上げられない。

【塩田】東京都の小池百合子知事についてお聞きします。1990年代の新進党結成時、新生党の二階さんと日本新党の小池さんは、新党結成準備で行動を共にした「古い同志」でもあります。小池知事は現在、東京都議会の自民党とは対立関係にありますが、一方でまだ自民党籍は残したままのようです。小池知事誕生をどう受け止めていますか。

【二階】あれだけの票を得て大東京都の知事になった。そこは評価しなければいけません。昔から小池さんを知っている者として陰から拍手は送ります。大東京の政治で、成功の方向へしっかり頑張ってもらいたいというのがわれわれの願望です。持ち味は思い切ってずばっというところですね。就任後もよく頑張っている。ですが、どういう方向へ持っていこうとしているのかは、もう少し見なければわかりません。政治は簡単なものではないですから。

【塩田】築地市場の豊洲移転問題で小池知事と移転推進派の対立が話題を呼んでいます。

【二階】これは東京都の問題です。お尋ねがあれば、多少のお手伝いはしますが、まずは東京都のみなさんが考えることです。ですが、小池さんみたいな人を知事に選べば、じっとしていないだろうから、これから大変ですよ。「しばらく黙って見ていて」と言っても承知する人じゃない。いつも何か言い、脚光を浴びていなければという人ですから。

【塩田】今年7月に都議選があります。小池知事は「小池新党」を結成して都議選で過半数確保を目指すのでは、と見られています。

【二階】選挙になったら、人のことは眼中に入れず、わが党の候補者のために全力を尽くす。それが自民党の選挙方針です。都議選で自民党が情けないことになる場面を心配するのではなく、勝利を目指して全力を尽くすべきだと思っています。東京都議といっても、地方でいえば県会議員です。東京都だからといって、うんと力こぶを入れて、とみんな言うけど、自分の選挙は自分でやるしかない。後のことは結果次第です。

【塩田】自民党は党として小池都知事とどういう関係を築いていく考えですか。

【二階】大東京だから、どなたが知事であろうと都政を成功させなければいけない。小池さんも大いに努力していただきたい。ですが、政治ですから、相手次第です。自民党と協力関係を、という願望、希望があちらにあれば、われわれは応えていくということです。

【塩田】自民党は昨夏の都知事選で負けました。都政で野党的な立場を続けますか。

【二階】われわれがずっと野党的にやったら、都政は回りますか。そこを常識的に考えなければいけない。大東京都に対しても、自民党として責任がありますよ。小池さんのほうから、話し合いたいと言ってくれば、いつでも話し合えるようになっています。

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二階俊博(にかい・としひろ)
自民党幹事長
1939(昭和14)年2月、和歌山県御坊市生まれ(現在78歳)。父親は和歌山県議、母は女性医師。和歌山県立日高高から中央大学法学部政治学科に進み、卒業後、衆議院議員・遠藤三郎(元建設相・旧静岡2区選出)の秘書となる。75年に和歌山県議に(連続2期当選)。83年12月の総選挙で旧和歌山2区から自民党公認で出馬して初当選(以後、連続11回当選)。自民党では田中派、竹下派、羽田派に所属した。93年に離党し、新生党を経て94年に新進党に。97年の新進党解党に伴い、自由党の結党に参加した。2000年に自由党分裂で保守党に。保守党とその後継の保守新党で幹事長を務めた。03年暮れの自民党による保守新党吸収で約10年ぶりに自民党に復帰する。小渕恵三、森喜朗の両内閣で運輸相兼北海道開発庁長官、小泉純一郎、福田康夫、麻生太郎の3内閣で経済産業相。復党後の自民党では国対委員長を経て07年に総務会長に。14年9月に再び総務会長となり、16年8月に自民党史上最年長で幹事長に就任。12年12月から二階派を率いる(党内第5位の勢力)。健康法は「目いっぱい働くこと。煙草は生まれてから一度も吸ったことがない」と語る。

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(ノンフィクション作家 塩田潮=文 尾崎三朗=撮影)