広瀬すず 「100歳まで生きるつもり」だからこそ感じた、一瞬一瞬への愛おしさ
「まったくないです!」――。女優という仕事への覚悟の有無、将来の展望について尋ねると、広瀬すずは力強くそう言い切った。清々しささえ感じさせる“NO”。奇をてらったわけでも、もちろん、軽い気持ちで仕事に臨んでいるわけでもない。むしろ逆である。生半可な気持ちで“覚悟”などという言葉を口にできない――。新作映画『四月は君の嘘』で、病を抱え、常に死を身近に感じながらヴァイオリンを奏でる少女・宮園かをりを演じ、広瀬はさらにその思いを強くした。簡単に言葉にできない、魂を削るかのような強い思いが、スクリーンの中の彼女の表情に、佇まいに刻み込まれている。
撮影/平岩 享 取材・文/黒豆直樹 制作/iD inc.
――原作は新川直司氏による500万部突破の人気漫画。天才ピアニストとして将来を嘱望されるも、母の死をきっかけにピアノが弾けなくなった有馬公生(ありま・こうせい/山崎賢人)が、自由奔放なヴァイオリニスト・宮園かをりと出会うことで音楽と母との思い出に向き合うさまが瑞々しく描かれます。
漫画原作で、周りが同世代の子たちばかりの作品は『ちはやふる』に続いて2作目だったんですが、最初は怖かったです。ヴァイオリンを弾けるようにならなくてはいけないし、これまで演じたことのない重さを抱えた役でもあり、ワクワクしながらも初めてのことが多くて、戸惑いがありました。
――最初に原作を読んだんですか?
読み始めたんですが、漫画に引っ張られやすそうな役だなと思って、途中で読むのをやめました。そこから、脚本を読むまで少し時間があったんですが、脚本を読んで、かをりの生き方や感性には、公生の存在がものすごく影響しているなと感じました。だから、賢人くんからいろいろ吸いとろうと思って、あまり考えずに現場に入りました。
――公生の閉ざされた心を、彼とは正反対の明るさを持ったかをりが少しずつ開いていくようにも見えますが、広瀬さんは、むしろ彼女のほうが公生に強く影響されていると感じたんですね。かをりを演じる上では、彼女が自分の病とどう向き合うかも重要だったかと思います。
第一印象で感じたのは、かをりのいる世界はすごくカラフルで、公生のいる世界はモノトーンだということ。でも、カラフルな世界にいるように見えて、実はかをりも心情的にはモノトーンで、彼女は自分でそこに色を付けていく子なんだなと思いました。
――なるほど。
苦しくなる瞬間もあるし、嬉しいときは素直に嬉しいって思えるし、本当にいろんな感情があるんですけど…でも時間は待ってくれない。17歳じゃ抱えきれないような思いが描かれていて、それでも現実を受け止めている。それは常に、頭の片隅にありました。
――天真爛漫に見えるけど、実は根っから強いわけではない。「いつまで生きられるのか?」という思いがあるからこそ、与えられた時間を彩りにあふれたものにしようと?
公生や渡(わたり/中川大志)、椿(つばき/石井杏奈)と一緒にいる時間を、かをりはどんな色に染めていこうとするのかな? といつも考えていました。正直、ここまで強く生きている女の子って近くにはいないし最初はすごく遠い存在として見ていました。でも、かをりとして生きていく中でどんどん変わっていって…。
――具体的にどんな風に変化していったんでしょうか?
髪形を変えて、コンタクトを入れて、ヴァイオリンを好きなように弾くようになって…という自分のスタイルみたいなものができたとき、自然とそういうテンションになっていくんだなというのがわかりました。
決して、無理やりテンションを上げているわけではなく。人前に出ることで、嬉しさもあって上がるし、そこで、もがくような瞬間もあるし。
――完成した映画を自分でご覧になっていかがでしたか?
2回見たんですが、1回目はわりと普通に「あぁ、こんなことが起きたんだ」と受け止めていたんです。でも、すべてを知った上で2回目を見ると、かをりの表情がまったく違うものに見えて…。「かをりって、そういうことなのか!」と実感できました。
――完成した作品を見て、そう感じたということは、自身で演じている最中は意識していなかった?
あんまり、考えてやるタイプじゃないんです。頭で考えるとできなくなっちゃう。現場ではとにかく、かをりになっていました。そうすると、苦しくなってくるような瞬間があって…。
――役になりきるあまり、かをりの抱える苦しさに押し潰されそうに?
新城(毅彦)監督から「ここは明るく言ってほしい」と言われて、やってはみるんですけど全然、明るくなれなかったり。公生のほうを向いてセリフを言うシーンでも、どうしても公生の顔が見られなかったりしました。
夜の学校のシーンなんですけど、もっと上手にごまかさないといけないのに、こっちの精神がもたなくなってしまって…。そこは監督と賢人くんと3人でかなり話し合いました。
――そのときの心情について、詳しく教えていただけますか?
公生を見てるだけで、(感情が)あふれちゃうんです。ずっと一緒にいたい人――ひとりの人間として、女の子として、音楽の世界の人間として、自分の中で最も輝いていると思える存在を前にして。一方で現実を突きつけられて、受け入れなくちゃいけなくて…。別のシーンでは全然、笑って立っていられたのに、急に「怖い」って感情が襲ってきました。公生を見た瞬間に、「公生の顔を見るのもこれが最後かも」って思えてきて、それがどんどん重さを増してきたんです。
――まさに、撮影に入る前に感じていたように、公生の存在に引っ張られて、かをりが作られていった?
賢人くんの声のトーンや、ちょっと息が切れる感じから、公生の「生きてる」って感じが伝わってきました。そういう小さな瞬間を現場で意識して受け止めるようにしていました。公生に抱きついて泣いちゃうシーンがあるんですけど…。
――屋上でのシーンですね?
公生の中に感じた“何か”。なんだろう…? 誰かに抱きしめてもらって、初めて温もりを感じているような気がしたんです。すごく愛おしい時間であり、恋しくなりました。かをりは、他人にそういう部分を見せてこなかった女の子だったから、すごくいろんなものを感じて、さらに苦しくなりました。
――山崎さんと共演されていかがでしたか?
カメラが回ってないときはすごく明るくて、中学男子って感じのテンションです(笑)。4人の中で、大志と杏奈は同い年で、賢人くんだけ唯一、年上で4つ離れてるんですけど、全然そう感じない(笑)。ワイワイとそこにいてくれて、居心地が良かったです。でもカメラの前に立つと、やっぱり公生のことをすごく考えてるんだなって感じました。
――どのような部分で?
ピアノを弾きながらの感情的なモノローグのシーンとかは、かなり難しかったと思います。いい意味で、あの空間に酔って撮影できたんですが、指先にまで公生の感情が伝わっているのを感じました。
――撮影は順撮りに近かったんですか?
大幅に順番がずれることはなかったですね。クランクインの撮影もふたりが出会うシーンでしたし。最後の撮影は、ふたりが唯一、一曲を通して演奏するシーンで、終わった瞬間の達成感はすごかったです。役柄の心情だけでなく、これまで練習してきたという思いも重なって、終わったら賢人くんと「イェーイ!!」ってなりました(笑)。
撮影/平岩 享 取材・文/黒豆直樹 制作/iD inc.
モノトーンの世界に色を付けていくヒロイン役
――原作は新川直司氏による500万部突破の人気漫画。天才ピアニストとして将来を嘱望されるも、母の死をきっかけにピアノが弾けなくなった有馬公生(ありま・こうせい/山崎賢人)が、自由奔放なヴァイオリニスト・宮園かをりと出会うことで音楽と母との思い出に向き合うさまが瑞々しく描かれます。
漫画原作で、周りが同世代の子たちばかりの作品は『ちはやふる』に続いて2作目だったんですが、最初は怖かったです。ヴァイオリンを弾けるようにならなくてはいけないし、これまで演じたことのない重さを抱えた役でもあり、ワクワクしながらも初めてのことが多くて、戸惑いがありました。
――最初に原作を読んだんですか?
読み始めたんですが、漫画に引っ張られやすそうな役だなと思って、途中で読むのをやめました。そこから、脚本を読むまで少し時間があったんですが、脚本を読んで、かをりの生き方や感性には、公生の存在がものすごく影響しているなと感じました。だから、賢人くんからいろいろ吸いとろうと思って、あまり考えずに現場に入りました。
――公生の閉ざされた心を、彼とは正反対の明るさを持ったかをりが少しずつ開いていくようにも見えますが、広瀬さんは、むしろ彼女のほうが公生に強く影響されていると感じたんですね。かをりを演じる上では、彼女が自分の病とどう向き合うかも重要だったかと思います。
第一印象で感じたのは、かをりのいる世界はすごくカラフルで、公生のいる世界はモノトーンだということ。でも、カラフルな世界にいるように見えて、実はかをりも心情的にはモノトーンで、彼女は自分でそこに色を付けていく子なんだなと思いました。
――なるほど。
苦しくなる瞬間もあるし、嬉しいときは素直に嬉しいって思えるし、本当にいろんな感情があるんですけど…でも時間は待ってくれない。17歳じゃ抱えきれないような思いが描かれていて、それでも現実を受け止めている。それは常に、頭の片隅にありました。
――天真爛漫に見えるけど、実は根っから強いわけではない。「いつまで生きられるのか?」という思いがあるからこそ、与えられた時間を彩りにあふれたものにしようと?
公生や渡(わたり/中川大志)、椿(つばき/石井杏奈)と一緒にいる時間を、かをりはどんな色に染めていこうとするのかな? といつも考えていました。正直、ここまで強く生きている女の子って近くにはいないし最初はすごく遠い存在として見ていました。でも、かをりとして生きていく中でどんどん変わっていって…。
――具体的にどんな風に変化していったんでしょうか?
髪形を変えて、コンタクトを入れて、ヴァイオリンを好きなように弾くようになって…という自分のスタイルみたいなものができたとき、自然とそういうテンションになっていくんだなというのがわかりました。
決して、無理やりテンションを上げているわけではなく。人前に出ることで、嬉しさもあって上がるし、そこで、もがくような瞬間もあるし。
素顔の山崎賢人は…中学男子!?
――完成した映画を自分でご覧になっていかがでしたか?
2回見たんですが、1回目はわりと普通に「あぁ、こんなことが起きたんだ」と受け止めていたんです。でも、すべてを知った上で2回目を見ると、かをりの表情がまったく違うものに見えて…。「かをりって、そういうことなのか!」と実感できました。
――完成した作品を見て、そう感じたということは、自身で演じている最中は意識していなかった?
あんまり、考えてやるタイプじゃないんです。頭で考えるとできなくなっちゃう。現場ではとにかく、かをりになっていました。そうすると、苦しくなってくるような瞬間があって…。
――役になりきるあまり、かをりの抱える苦しさに押し潰されそうに?
新城(毅彦)監督から「ここは明るく言ってほしい」と言われて、やってはみるんですけど全然、明るくなれなかったり。公生のほうを向いてセリフを言うシーンでも、どうしても公生の顔が見られなかったりしました。
夜の学校のシーンなんですけど、もっと上手にごまかさないといけないのに、こっちの精神がもたなくなってしまって…。そこは監督と賢人くんと3人でかなり話し合いました。
――そのときの心情について、詳しく教えていただけますか?
公生を見てるだけで、(感情が)あふれちゃうんです。ずっと一緒にいたい人――ひとりの人間として、女の子として、音楽の世界の人間として、自分の中で最も輝いていると思える存在を前にして。一方で現実を突きつけられて、受け入れなくちゃいけなくて…。別のシーンでは全然、笑って立っていられたのに、急に「怖い」って感情が襲ってきました。公生を見た瞬間に、「公生の顔を見るのもこれが最後かも」って思えてきて、それがどんどん重さを増してきたんです。
――まさに、撮影に入る前に感じていたように、公生の存在に引っ張られて、かをりが作られていった?
賢人くんの声のトーンや、ちょっと息が切れる感じから、公生の「生きてる」って感じが伝わってきました。そういう小さな瞬間を現場で意識して受け止めるようにしていました。公生に抱きついて泣いちゃうシーンがあるんですけど…。
――屋上でのシーンですね?
公生の中に感じた“何か”。なんだろう…? 誰かに抱きしめてもらって、初めて温もりを感じているような気がしたんです。すごく愛おしい時間であり、恋しくなりました。かをりは、他人にそういう部分を見せてこなかった女の子だったから、すごくいろんなものを感じて、さらに苦しくなりました。
――山崎さんと共演されていかがでしたか?
カメラが回ってないときはすごく明るくて、中学男子って感じのテンションです(笑)。4人の中で、大志と杏奈は同い年で、賢人くんだけ唯一、年上で4つ離れてるんですけど、全然そう感じない(笑)。ワイワイとそこにいてくれて、居心地が良かったです。でもカメラの前に立つと、やっぱり公生のことをすごく考えてるんだなって感じました。
――どのような部分で?
ピアノを弾きながらの感情的なモノローグのシーンとかは、かなり難しかったと思います。いい意味で、あの空間に酔って撮影できたんですが、指先にまで公生の感情が伝わっているのを感じました。
――撮影は順撮りに近かったんですか?
大幅に順番がずれることはなかったですね。クランクインの撮影もふたりが出会うシーンでしたし。最後の撮影は、ふたりが唯一、一曲を通して演奏するシーンで、終わった瞬間の達成感はすごかったです。役柄の心情だけでなく、これまで練習してきたという思いも重なって、終わったら賢人くんと「イェーイ!!」ってなりました(笑)。