この信頼のブロックの連鎖を「ブロックチェイン(Block Chain)」と呼び、Bitcoinを構成する基本的な技術となっている。ブロックチェインはBitcoin以外の暗号通貨にも用いられているほか、中央サーバを持たずに信頼情報を分散管理可能ということで、さまざまな応用研究が進んでいる。Bitcoinの詳細やブロックチェインの仕組みについてはここで細かく触れないが(日銀の公開資料に解説があるので興味ある方は参照のこと)、少なくとも今後数年はさまざまな場所でキーワードとして出てくると思われるので、ぜひ憶えておいてほしい。なぜ「デジタル通貨」が注目を浴びているのか?CPMIが報告書でデジタル通貨の特徴として挙げているのが「紙や金属などの物理的形態をとらない電子データ」、「主体が債務ではない」、「非中央集権的(De-centralized)な管理方式」の3つだ。

まず前者2つが重要で、銀行券や電子マネーのように特定の団体や企業が債務を負うわけではなく、(金などの)貴金属や(原油や穀物などの)一次産品のように「コモディティ」に近い性質を持っている。ただコモディティと異なるのは「データそのものに価値があるわけではない」という点で、交換が保証されるという信頼性に基づいてのみ価値が生まれるという特徴がある。

そして、この交換や価値の移転(受け渡し)はブロックチェインの仕組みにより分散管理され、第三者機関を経由せずに直接的(Peer to Peer)なやり取りが可能だ。法的に管理された日本銀行券や電子マネー、オンラインゲームなどの仮想空間での通貨では、すべて特定の管理主体が介在しており、国や組織の規制を乗り越えてボーダーレスでの通貨交換を可能にするのが、デジタル通貨の最も革新的な点だとCPMIは評価している。

同報告によれば、現在世界で使われているデジタル通貨は600種類以上が存在するが、2015年12月16日時点でBitcoin(BTC)の時価総額が67.4億米ドルに達しており、金額ベースで9割と圧倒的なシェアを獲得しているという。次点がリップル(XRP)だが、この全体の金額シェアはほぼ実際の利用率を反映した結果だと考えていいだろう。

主なデジタル通貨の金額シェア(出典:日本銀行、Coinmarketcap)

なぜ世界の金融関係者や決済システム関係者がデジタル通貨が注目しているのかだが、今後デジタル通貨が普及していくことで金融システムや経済に大きな影響を及ぼす可能性があるからだ。決済手段の利便性は「他の人がどれだけ同じ決済手段を使っているのか」に左右されるが、先ほどのグラフにもあるようにBitcoinに利用が偏っている現状で、そのBitcoin自身もどの程度決済に活用されているのかを考えると、一般的な利用にはまだ厳しいのかもしれない。

一方で、Bitcoinなどデジタル通貨は「誰が使って、誰が受け取ったか」を明らかにすることなく取引が可能で、「仮名性(Pseudonymity)」という特徴がある。これはブラックマーケットでの取引や政府の規制をかいくぐっての資金移動が可能なことも同時に意味しており、各国がマネーロンダリング対策に本腰を入れるなか、大きな問題となりつつある。ただ、まだデジタル通貨の利用が限定的であり、金融システムそのものへの影響は小さいというのがCPMIでの評価だ。

このように仕組みやトレンドには注目が集まるものの、その影響を巡って規制に関する議論も進んでいるというのがデジタル通貨の現状だ。そのため、最近では「デジタル通貨そのもの」と、「ブロックチェイン」を分けて議論する機会が増えてきている。

実際、筆者が過去1〜2年ほど金融系のカンファレンスや展示会を巡ってきた感じをみても、この分野での話題の7割はブロックチェインに偏っていた印象だ。ブロックチェインはデジタル通貨以外にも応用が可能で、各種資産の記録や登記など、既存の中央管理型のシステムを脱することで、金融や決済処理をより効率化することができるようになるかもしれない。またデジタル通貨が普及すれば、これまでの銀行預金を介した取引が直接金融へと推移し、(銀行を介さない形での)資金フローに大きな変化が到来する可能性もある。

いずれにせよ、各国政府や金融機関はデジタル通貨を排除するわけではなく、その有用性に着目しつつ、信頼性の根幹である「ブロックチェイン」の活用も含めた研究開発に着手している。今回の資料ではシンガポール通貨庁が関連技術開発に関して2億2500万シンガポールドルの5ヶ年プロジェクトを実施している例も紹介されており、近い将来には思ったよりも身近な技術として皆のそばにあるのかもしれない。