「エクセル父さん」子どもを潰す何気ない暴挙6
■いいパパが「エクセルおやぢ」に豹変
かれこれ10余年、子育て関連の取材をしつつ、受験カウンセラーとしてお悩み相談を受けている。
この10年での子育て環境の変化はいろいろあるが、ひとつ強烈に思うのは「おやぢの変化」だ。中学受験の学校説明会に行くと実感できるが、おやぢ(父親)の参加率が近年、目に見えて増えているのだ。これはほんの一例に過ぎないが、おやぢの子育てへの参加が増えているという顕著なものであろう。
これは喜ばしいことではあるのだが、一方ではこんな風にも感じている。
「おやぢは加減を知らない」ので、加減を知らないなら「出てくんな!」
2003年に上梓した拙書『偏差値30からの中学受験 リレーアドバイス』という本に「ばいおれんすキレおやぢ」という項目を載せた。
思春期を迎えた我が子に対して、傍から見ると突然キレる父親が居り、その多くは我が子の「生活態度」から来る「成績低迷」でキレており、鉄拳制裁を辞さないということを綴ったものだ。
私はそこで「おやぢはなるだけ遠くで金を出せ!」という標語を書いたが、あれから10年。
さすがに今は星一徹のようなおやぢは絶滅危惧種になっているが、その代わりと言っては何だが、近年、急速に増えている「問題おやぢ」がいることを発見した。
今日はその「問題おやぢ」を指摘してみる。
■我が子の模試データを洗い出す、おやぢ
1. エクセルで子どもの成績を管理する父親
仕事でエクセルを最も多く使うケースとしては売上高などの実績計算であろう。
対前年比、対前年同月比、前期比……。
今の数値が過去と比べてどうだったのかを計算し、売り上げ伸び率を見て、売り上げ予測を立てるときに使用するもので、多くの仕事人は「売り上げが低い」という事実をそのままにはせず、その原因を分析し、対策することによって、さらなる売上アップを狙うためにエクセルを使っている。
このビジネス手法を我が子に使う父親が多い。
今回の模試の偏差値、前回の模試の偏差値、前々回の模試の偏差値、科目別・分野別チェック、あらゆる資料から取り込んだデータ入力、これをカラーで印刷して、実にわかりやすいと悦に入るおやぢがそうだ。
結果には必ず原因があって、悪い結果を取り除くための対応策はこうである! と分析しまくるおやぢは危険だ。数字での結果を求め過ぎると子育ては失敗する。子育てとビジネスは違うのだ。
さらに、子どもは馬鹿ではない。子ども自身がその原因を十分わかっている。なぜならば、すでに塾や学校が「分析」→「教育的指導」済みだからである。
成績が伸びないのは「やる気が持てない」からであり、「やる気が持てない」のは「わかった!」という感動体験が得られないからだ。
これを上からヤイノヤイノと数字上だけの対応策を叫ばれても、生身の人間、しかも思春期には反発しか呼び込まないのは自然である。見るべきは「数値」ではなく生身の「我が子」であろう。
子ども自身が自らの意志で成績表を管理するのなら問題ないが、いつまでも父親が分析しているならば、子どもが全力で社会生活に「NO!」を突きつける日は意外と早い。
2. 車のカタログを見るかのごとく、学校案内を見る父親
車を買うときにカタログを揃えて、その機能や燃費を細かくチェックし、どの車種がもっとも希望に沿うものなのかを比較検討する男性は多いだろう。そして、ディーラーと交渉だ。
それを近年、子育てでやってしまう父親が増えている。
学校案内の大学合格実績をHPでくまなくチェックし、どの学校がどれだけ(進学面で)伸びているかを分析している父親は多いが、ここで問題なのはそのデータを持って、塾面談に押しかけるようなタイプのおやぢである。
塾の先生方に聞くと同じような話をされることがある。まとめるならこうなる。
「昔の父親は『良い大学に行くためにはどのようなプロセスを経るのか?』というような視点で質問をしてきたものですが、今は違います。単刀直入にこう聞いてきます。『どの学校(小学校、中学または高校)に行けば、最も高い確率で超優秀大学に入れるのか?』と……」
皆さんもよくご承知のように、学校は一流大学に入るための予備校ではない。
その学び舎の空気の中で、どのように呼吸をしながら大人に近づいていくのかという「母なる場所=母校」なのである。
効率だけを追い求め、人生の短期決戦を強いる父親からはデカい器の子は生まれない。
■「オンスケ」「バッファ」……自宅で仕事用語連発!
3. 家庭でも仕事モードが抜けない父親
仕事でのプレッシャーが半端ない。あるいは仕事がうまくいかずにストレスを抱えている父親に多いが、そのストレスを我が子にぶつけるタイプも要注意だ。
このタイプは「平凡な人間には勉強こそが人生の選択肢を広げる」と信じて疑わない。
「前倒しでいきたかったけど、この調子じゃオマエにはオンスケ*すら無理だな(呆)」
「もっとPDCA**回せよ!(怒)」
「スケジュールがタイトになるから、多少はバッファ***を持たせとかないと(偉)」
というような仕事用語を子ども相手に使ってしまう、あるいは部下にしてしまうとパワハラで一発レッドカードという言葉を我が子に使ってしまう父親もやはり問題である。
子どもには年齢に合わせた平易な言葉で簡潔に、しかしひとりの個性を持った人格として扱わなければ、我が子はフルスピードで父親の前から姿を消すだろう。
*オンスケジュールの略。「定時に、定刻に」といった意味。
** Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)という業務を円滑に進めるプロセスを表す言葉の略。
***緩衝、ゆとりの意。
4. 階段をすり足で登って行く父親
意外と多いので笑える。
昔は母親がこういうことをやっていたのだが、時代の進化かもしれない。
我が子がちゃんと勉強をしているかをこのような努力を払ってまで確認に行っているのであるが、こういう親を持った子で勉強をしている子を聞いたことがない。
親から信用されていないと感じるだけであり、全くの逆効果でしかないばかりか、あまりの姑息な手段に子どもの気持ちは一気に冷めること請け合いだ。母がやるよりも、そのダメージは遥かにデカいということを知るべきだ。
5. 我が子の勉強の進捗状況を会社から電話で妻に確認する父親
もっと他にやることはないのか? と心から思うこのタイプ。
管理職として辣腕を振るうのは仕事先だけで十分だと思うが、どうであろう。
■第2の「ガミガミ母さん」化で子はドロップアウト
6. 根性論を振りかざす父親
ある年の元旦。ある進学校での話だ。
父と子と見られる人間がふたりして校庭をぐるぐると走っている。子どもと見られる方は上半身裸だ(言っておくが北半球の話である)。ふたりはこう言って走っていた。
「○○(その中高一貫校の校名)合格! ○○合格!」
絶対にお勧めしない。風邪を引くとか、そういう問題ももちろんあるが、たかだか中学受験なのだ(母にとってはされど中学受験になるのだが……)。父親が熱くなってどうする!? という話だ。
もちろん、不合格であった。
不合格は良いのであるが、その後もその父親は我が子にこのようなかかわり方をし続けたので、遠くない将来、その子は学校教育の現場からドロップアウトをすることになる。
ドロップアウト自体は悪いことではないが、強制的に無駄なことを頑張らせると、人生で本当に頑張らなければいけないときに頑張れない子どもになってしまうという一例になった。
以上、6項目をアトランダムに載せてみたが、父親は子育てに重要な存在だ。
しかし、母親のようにしゃしゃり出て第2の「ガミガミ母さん」になってはいけない。
父親が出るべきは子どもが人生の岐路に立ったときなのだ。
特に我が子が人生に迷っているときや、失敗をしてしまったというときに居るべき存在が父である。
そのときに、自身の失敗体験を踏まえて、どう生きるべきかの指針を与えることができたなら、もう十分、父親としての役割は果たしていると私は思う。
(エッセイスト・受験カウンセラー 鳥居りんこ=文)