遥かなるツール・ド・フランス 〜片山右京とTeamUKYOの挑戦〜
【連載・第32回】

 TeamUKYO結成3年目となる2014年シーズンが幕を閉じた。ツール・ド・フランスへの参戦を目標とする片山右京にとって、今年の出来栄えはどうだったのか――。2014年シーズンを総括してもらった。

 11月上旬の「ツール・ド・おきなわ」を締めくくりとして、TeamUKYOは2014年のサイクルロードレース活動を終了した。選手たちはそれぞれ来年に向けたトレーニングに励み、片山右京以下のスタッフたちは来シーズンに備えて準備を開始している。

 国内ロードレースシリーズのJプロツアーは、11月2日〜3日に行なわれた「第20戦・大分ロードレース」と「第21戦・大分クリテリウム」がシーズン最後の戦いになった。昨年、個人とチームの二冠を達成したTeamUKYOは、両タイトルの防衛を目指してシーズンを戦い、個人部門では、TeamUKYOのホセ・ビセンテ・トリビオ(スペイン)が2年連続で年間総合優勝を獲得した。一方、チーム部門では、ランキング首位を走る宇都宮ブリッツェンを猛追し続けたが、ポイント差でわずかに及ばず、ブリッツェンがチーム総合優勝を獲得し、TeamUKYOは年間総合ランキング2位で終えた。

 この結果に対してチームを率いる片山右京は、個人部門のタイトル防衛は満足とする一方で、チーム部門のタイトルを逃したことについて、「国内レースと海外参戦レースの振り分けが敗因のひとつ」と話す。

「たとえば、今年のツール・ド・フランスを例にとって考えても、きっとみんなが憶えているのは、チームタイトルを獲得したアージェードゥーゼール・ラ・モンディアル(フランス)よりも、個人タイトルを獲ったヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア/アスタナ・プロチーム)だろうから、チームと個人のどちらに重きを置くかというと、個人タイトルだと思うんですよ。その意味では、ホセが2年連続で個人タイトルを獲得してくれたことは、とても良かったと思います。

 チームタイトルを逃してしまったことについては、これは言い訳になってしまうけれど、アジアやヨーロッパのUCIレースに遠征した際に日程が重複してしまい、Jプロツアーのレースに数戦出場できなかった。それらのレースに参戦できていれば、チームタイトルも防衛できていたかもしれない。来年は、その調整をうまくできるチーム体制作りを目指して行きたいと考えています」

 しかし、今シーズンの敗因はそればかりではない。個人競技でありながらチーム全員で勝利を目指して戦う――というサイクルロードレース独特の特性について、自分たちよりも宇都宮ブリッツェンのほうが1枚上手だった、ということも片山は正直に認めている。

「選手個人の力量でいえば、僕たちのほうが上だったかもしれない。ただ、チームワークやレース展開の組み立てのうまさという点では、ブリッツェンと比べれば、うちはまだ万全ではなかった、ということだと思います。シーズン終盤なんて、うちも人数を揃えて出ているのに、ポイントを詰めるどころか逆に離されてしまうレースもあった。でもそれこそが、この競技がチームスポーツであることの証明でもあるだろうし、スポーツに占めるメンタルな要素の大きさを逆に証明されてしまったような、そんな気もします」

 チームを結成し、初めてJプロツアーに参戦した2012年から、個人とチームの両タイトルを獲得した2013年にかけて、TeamUKYOは飛躍的な進歩を遂げた。しかし、今年は前述のとおり、個人タイトルの防衛は果たしたものの、チームタイトルを逃す結果となった。そのリザルトはともかくとしても、ではこの1年間でTeamUKYOは何を学び、どれくらいの成長を果たしたのだろう。

「結論からいえば、あまり変わらなかった......と認めざるを得ないでしょう。今年は昨年よりも、多少は選手を補強し、戦力を上げたつもりでしたが、Jプロツアーの優勝回数や獲得ポイント、UCIレースでの獲得ポイントなども含めて見れば、『横ばいだった』というのが正直なところです。

 選手個々の能力は向上したと思います。しかし、それをうまく機能させることができなかった。我々が自転車チームの運営に関してまだ勉強不足なところが多かった、ということもあるけれども、メンタルな要素がここまで大きく作用するのか、ということも同時に痛感しました。

 そういう意味では、ショックですよ。ヨーロッパの強豪選手を連れてくれば日本なんて簡単に勝つことができる――と思っていたけれど、実は世の中はそんなに甘いものじゃなかったんですから。でも、そんなふうにおごっていた自分の鼻っ柱を叩き折ってくれたことには感謝をしているし、日本人はそこまでヤワじゃないんだと教えてもらったことも、逆にうれしく感じています。

(将来のツール・ド・フランス参戦という)大きな旗印を掲げているから、僕たちは今後もっと大きなハードルを越えていかなければいけない。そして、その意味ではこれからが本当に大変だな、と思うけれど、ひとつハッキリしているのは、たとえ世界最高の選手でも、『風を止めることだけはできない』ということ。その風の中をたったひとりで200キロもの距離を逃げ切ることができる選手も、この地球上には存在しない。それくらい自然を相手に戦っている競技だから、自転車ロードレースは複雑だし、残酷だし、奥が深いチームスポーツなんです」

 個人タイトルは連覇を達成したものの、チームタイトルをライバルに奪取されることで、2014年の片山右京は、この競技の難しさを改めて思い知らされることになった。しかし、この苦い経験は、さらなる高みを目指さなければならない彼らにとって、ある意味では必要な過程だったのかもしれない。今年のこの教訓は、来シーズンのTeamUKYOの体制作りに、果たしてどのような影響をもたらすのだろう。

「たぶんね、軌道修正をしなければならないのは、自分の頭の中だけなんですよ」

 あっけらかんとした調子で、片山は言う。

「世界で僕たちの何歩も先を行っている人たちから見れば、こんなものは当たり前のことで、大人には当然のことを、子どもが知らないのと同じように、ただ僕が知らなかっただけなんだと思う、きっとね。

 焦らずにもっとゆっくり進めればいい、と言ってくれる人もいるけれど、のんびり構えているとチャンスなんてあっという間に逃げていく。だから、常にアクセルを踏み続けていないと、ブレーキに足をかけた瞬間に、2位や3位になってしまう」

 いかにも片山らしい言葉であり、考え方だ。そう告げると、片山は言下(げんか)にそれを否定した。

「いや、片山右京だから、じゃないよ。勝負というのは、もともとそういうものなんだよ」

 そう、だからそれこそが、片山らしい発想なのだ。

(次回に続く)

西村章●構成・文 text by Nishimura Akira